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63/97

その63.強がりなのは明確だ。

「入浴しましょうっ!」

 俺は今、十代学生の大半が成し得ない事をやれる。

 生まれてきてよかった、母さん、俺を生んでくれてありがとう。

 俺は一度巻き布を取りに戻り、それを巻いてから入るとした。

 先ずは足だけを入れてみると温度は丁度良く、すんなりと入れた。

「おい蔵曾、そんな端っこにいないでこっちこいよ」

 蔵曾をからかっておこう。

 両手で顔を隠して三猿の見ざるみたいな格好してやがる。

 俺もな、こうして冷静を保ってるが内心心臓はバクバクなんだぜ?

 だって隣に巻き布一枚のオウルエイスさんがいるんだからさ。

 温泉はやや白濁、逆にこれは救いだぜ。

 奥に進むに連れて深くなっていく、蔵曾は奥の端で顔だけを出している状態だ。

「気持ち良いなあ」

「ここは病み付きになりますよ、ほら、浅いところでは横になれる場所もありまして」

 横になって浸かりながら眠る、そのスペースは眠る入浴者で溢れていた。のぼせますよー。

 近くには定期的に飲み物を桶に入れて浮かせる従業員がいて水分補給もできるときた。

 気配りは十分、最高の浴場だね。

 オウルエイスさんは座って胸の当たりまで水位がくる深さのところで腰を下ろし、蔵曾は奥で顎まで浸かる深さの場所で未だに動かない。

「蔵曾、そっちに行っていい?」

「駄目」

「えっ? なんだって?」

「来るな」

 楽しい。

「傷ついたぞおい」

 泳いで蔵曾に近づいた。

「ひぃあー」

 蔵曾は慌てて泳いで逃げていく。

 湯煙で蔵曾の姿はぼんやり気味、他の客の間をするすると入っていってまるでイカの泳ぎだ。

 求めているのは店員が持っている巻き布と見た、丁度客に手渡している。

「蔵曾、待ってくれよー」

「わぁぁぁー」

 今にも死にそうな声だな。

「店員、巻き布っ、早くっ、巻き布っ」

 まるで海に落下して浮き輪を求める人みたくなってるぞ。

「あ、どうぞー」

 ちっ、店員め、気づきやがった……。

 蔵曾は巻き布を奪うように取って、体に巻きつけて安心していた。

「浩太郎は、変態」

「俺は普通にお風呂を楽しんでいるだけだ、ここが混浴だから、変に思われるかもしれないがなっ」

「……なら私を追い回す必要は無い」

「なんだよ、俺達は一緒に風呂に入りに来たんだぞ? 銭湯に行こうって誘っていざ浴場に入ったら別行動する奴がいるか? いないだろ?」

 反論できず、蔵曾は悔しそうに表情を歪めた。

 お前の素顔がこうしてまじまじと長い時間見れるのは貴重だ、もっと表情の変化を見たいぜ。

「ほら、オウルエイスさんのとこに戻ろうぜ?」

「……解った」

 あの人の座ってる場所は段差があるから椅子として使えてまったり風呂を堪能できるぜ。

 そうして、右にはオウルエイスさん、左には蔵曾という両手に華状態な混浴。

 周りは騒がしいがここだけは静かに入浴を楽しめている。

 人獣さんもそこらへんにいるかな? 似たような人獣族が多すぎて湯煙の中じゃ中々見つけられん。

「どうです? ここは肩こり、腰痛、神経痛、貧血、冷え性、痛風、火傷、ジンマシン、他様々な病にも効くのですよ」

「肩まで浸かるとしよう」

 肩こりなので。

「飲み物、来た」

 目の前をぷかぷかと波に揺られて桶が流されてきた。

 その中にはグラスが三つ。

 酒? それなら俺は飲めんぞ?

「お酒は入っていませんので大丈夫ですよ」

「そりゃあ良かった」

 頂くとしようっ。

 三人でグラスを持って、くいっと橙色の飲み物を喉へ流し込んだ。

「ん~! 美味いっ!」

 冷えている果汁ジュースに似た味の飲み物は実に満足させてくれる。

「お気に召されましたら、おかわり自由なので遠慮せずにどんどんおかわりしてくださいませ」

「おかわり自由とか最高だな」

「この世界はサービス良い」

 日本もそれなりにサービスはいい国だがそれ以上だねここは。

 こういう時は早くもとの世界に戻りたいって気持ちがやや薄くなっちまう。

 大抵異世界ものってのは一定の時間が経てば「いつになったら戻れるんだ……」とか「早くもとの世界に戻りたい」と呟いてホームシックにかかり気味になってハプニングに巻き込まれるってパターンだが、こっちはハプニングこそあれど、癒しの時間が多くて助かる。

「こうして見ると、あんたの国が停戦状態ってのも忘れちまうな」

「ええ、本当に」

「もし戦争が再開されたら他の種族は加勢してくれるの?」

「多少の加勢は見込まれますが、その際に領土交渉を行う場合もあります」

「領土交渉?」

「はい、領土を譲渡するなり、資源の一部の共有権などを渡して加勢をしてもらうようお願いをするのです」

 この世界じゃあ金より領土のほうが貴重なんだもんなあ。

「ここ数年で、領土は広げた?」

 すぐにおかわりを頼んでいた蔵曾は、グラスを持って言う。

 おっと、俺達の分もちゃんとあるのかよ。ありがとよ。

「はい、遠方に幻魔族と呼ばれる種族がいる山がございまして、当初人間の街が幻魔族に脅かされており、兵士と魔法士を集めて幻魔族を撃退して領土の一部をその時に手に入れておりました」

「なら、人間にはその領土の共有権でも持ちかけていつでも加勢させる魂胆?」

「わ、私には長様がそのように考えているとは思えません……」

「その他に手に入れた領土は精霊、人獣、海種、天竜、土賢に近い場所の領土ばかりでは?」

「……そ、そうですが」

「奴は幻魔族とも密かに裏で繋がりを得ているかもしれない」

「それはありえませんよ!」

 オウルエイスさんが上体を蔵曾へ向け、二つのふくらみが波を立てた。

 目のやりどころに困る。

「言い切れる? 信じきれる?」

 追い込みをかける蔵曾に、俺はチョップを食らわした。

「痛いっ」

「大浴場でそんな話すんな」

「……それもそう、やめる」

 それがいい。

 オウルエイスさんは水面に顎を付けて視線を沈めていった。

 見ろよ蔵曾、お前のせいで落ち込んでるじゃん彼女。



 ドキドキな入浴もそろそろ終わるかとあがり、脱衣所へ引き返す途中でお湯にぬれて毛がしんなりとしてほっそりした人獣さんがいた。

 体を震わせて水しぶきが飛んできた、大浴場での洗礼ありがとう。

 風呂上りには四人同じ服で、大浴場で飲んだ飲み物をジョッキで頂いた。

 プハーッ! 俺と蔵曾は爽快感に息を吐き出す。

 オウルエイスさんは少し、元気がなさそう。

 外に出て風に当たるべく少し散歩をするも、やっぱりオウルエイスさんだけは遅れ気味でついてきて元気ないオーラが強くなっていく。

 戦争が絡む話は避けたほうがいいけど、どうしてか話をしていると絶対誰かが戦争の話を絡めてしまう。

 この街の掲示板を通りかかると「またエルフか」「機械国家と魔法国家、いい加減にしてほしいな」「エルフの長は何を考えているんだ」などよろしくない評判が耳に入る。

 掲示板を通り過ぎた時には、オウルエイスさんは縮こまってしまっていた。

「なるほど」

「あんまり、エルフ族の評価はよくはないんだな」

「というより、エルフ族の長が原因」

 蔵曾と小声で会話。

 オウルエイスさんの足取りが重々しくなる中、人獣さんが足を止めて彼女の合流を待った。

 深いため息をついて、彼女の進路へと立つ。

 もはや前を向いて歩いていないオウルエイスさんは、そのまま人獣さんにぶつかってしまった。

「す、すみませんっ!」

「おい」

「は、はい……」

「あいつらはお前の話はしていない」

 あいつら、とは。

 掲示板で話し合っている様々な種族。

 彼らを見て、一瞬、逡巡するも、人獣さんは言う。

「お前が落ち込み続けたって、何も変わらない。お前のその感情の変化は、無意味だ」

 もう少し優しい言葉を選んだほうがいいんじゃないですかね人獣さん。

「わ、私は落ち込んでなんか、いませんっ」

 強がりなのは明確だ。

 しかしオウルエイスさんは観光案内という使命を思い出して、俺達の前へと駆け寄った。

「さあ! 図書館に行きましょう! 人類は本の製造やその技術に長けておりまして、こちらは人獣族との和平をと過去に寄付された本なのです!」

 持ち直したはいいが、亀裂の入った船に乗っているようで半ば心配だ。

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