その62.俺の息子のサイズがその程度で収まるとかそういう意味じゃないからな。
ユフェリアはこれまた、口をぽっかりと開けてしまう光景だった。
シートレンは二階建ての建物ばかりだったが、ここは高い建物ばかり。
しかも建物から建物への橋がいくつも架けられており、この街ではその橋も全てが“道”らしい。
橋の下にいくつも張ってるネットは落下防止かね。
人の数はシートレンの数倍、右を見ても左を見ても、人、人獣、エルフ、精霊、あとよく解らんのも混じってるがまあいい。
「すっげー!」
「わはー」
シートレン以上に活気ってもんだ。
ついでに、この街でも俺の服装を皆が不思議そうに見てくる。
そろそろ着替えたいな。
「中央に煙突が見えますでしょう? あそこに大浴場がございます」
高い建物に遮られているがそれでも煙突だけは見えた、白い煙を出していて営業中を知らせている。
「その奥にある二つの建物はユフェリア図書館ですね、昔は一つだったのですが書物の増加によって建物を増やしたそうですよ。右が第一、左が第二となっております」
「あとで行く」
「そうだな、あとで行ってみるか」
蔵曾は興味津々だ。
人獣さんは一度馬車を預けてあとから合流するとの事で、先ずは三人で大浴場へ。
この街はなんていうか、あれだ、温泉で栄えている街と似た雰囲気がある。
熱海? 熱海だったっけ? そういう温泉街が雰囲気。
通りかかる大抵の人々の髪はまだ乾ききっておらず、頭に布を載せている人もいて、通り過ぎ際にその温まった温もりも感じられた。
近くでは飲食店や、酒を振舞う店が多く並んで賑わいは絶えない。
「うまそう」
「ほら、後だ後!」
蔵曾は早くも食欲をそそる香りによだれを垂らし、こいつに飯を食わせると飯を吸い込む魔物になるのでそれだけは阻止せんと俺は蔵曾の手を引っ張って大浴場へと連れて行った。
「人獣の兵士、多いね」
道行く人の中でも、目に留まったのは武装した人獣の兵士達。
オウルエイスさんに俺はどうしてかという意味を兼ねて言った。
「歴史に触れられる貴重な図書館があるのと、すぐ隣が人獣族の国でございまして、厳重にこの街は人獣族によって守られております」
彼女が指差す西の方向には高い塀と、奥に白く要塞のような建物があった。
「領土はサンヴァルギ以外に言葉も魔力も共有権を与えた街でございますが、管理は人獣族が行っております」
「ふうん、じゃあ人獣の街みたいなもの?」
「左様でございます」
よくよく観察してみると、人獣族のほうがそこはかとなく多い気がする。
「昔は完全に人獣の街で他種厳禁だったようですよ。過去に神がこの街に訪れ、人獣族に他種との交流をと持ちかけ、その交流によって図書館が設置され、人獣族は街を解放したと言われております。それも図書館の書物に載っておりました」
ふうん――と、蔵曾を見てみるがよだれを垂らしていてまともな反応が伺えない。
「そして……さあ、ここが大浴場ですよっ!」
オウルエイスさんは両手を広げて大浴場をアピール。
……近くで見るとでかいな。
入り口は木製の門で出来ており、俺の身長など軽がると超える高さだ。
猫耳の女人獣さんが近づいてきて、
「どうぞどうぞ~お入りくださいまし~」
と、客寄せ。
蔵曾は女人獣さんのふりふり動くしっぽを掴んで絡み始めた。
「わひゃっ!?」
「猫系人獣、好き」
そうかい。
「ちょっ、お、お客さんっ!?」
「おーい蔵曾ー」
しっぽを執拗にさわさわ。
あっちの世界だとセクハラで捕まりそうな光景だな。
「浩太郎も、触る?」
「え、遠慮しておくよ」
触ってはみたいけど。
「ほら、困ってるだろ」
「致し方なし、ナイスもふもふ」
何がナイスもふもふだ。
中に入ると仕切りは二つ、赤色と青色の看板が天井からぶら下がっているがこれは何だ?
「赤が女性、青が男性でございますよ」
「ふうん、男女の色分けもこっちは同じみたいだな」
「そうなのですか?」
「ああ、あっちも同じだ」
「世界は違えど、考えは同じなのでしょうねっ」
そのようだ。
「あとお着替えのほうと入浴の道具を用意しましょうっ」
受付らしいとこでは風呂上りに着るものも売っていた。
「どうぞ、お選びくださいっ」
種類は様々だな、茶を基調としたバスローブっぽいものから体にぐるぐる巻きつけるようなものもあったり。
このバスローブっぽいのでいいか、城でお風呂に入った時も似たものを着たし。
「じゃあこれで」
上着を脱いで試着。
袖が少し広くて長く、触ってみた感じでは生地は薄い、もう一枚上に巻き込んで着るらしい。
通りかかる人の大半がこの服だった、流行ものかね。
「ばっちり似合っております!」
「どうも」
「Foo」
「何がFooだ」
蔵曾も何気に俺と同じものを選んでいた。
着ていた服の洗濯サービスも受け付けてるとなると、これは利用するしかないね。
魔法を使って洗濯から乾燥まで一時間程度で終わるようだが、俺の着てる服はあっちの世界の服なんだけど大丈夫?
店員の人獣さんはむむっ? と一瞬表情を歪ませたが、なんとかできるだろうみたいな表情をしていたので信じるとする。
入用後に受付に制服を持っていけばやってくれるようだ。
頼むよ? 制服は貴重なんだよ。
「じゃあな」
「覗かないで」
「覗くかよ」
入浴道具も受け取っていざ大浴場へ。
周りには様々な種族達が全裸になっている。
俺はあっちの世界から来たとはいえ人間の部類に入っているから不思議がられないが、ちょっと心細い。
黙々と全裸になり、頭にタオルを載っけてもう一つのタオルで我が息子を隠して扉の向こうにある大浴場へいざ出陣。
今日は体の隅々まで洗ってお風呂で疲れを癒したいものだ。
疲れといっても、肉体的な疲れはないが、精神的な疲れを主に癒したい。
しかし人獣さんって毛並みが艶やかだなあ。
右にいる人獣さんはライオン、左の人獣さんは獣に似ていてどちらも触りたくなる毛並み。
あと体が大きい、頭一つどころか二つほど出てるその体格、心細さが倍増し。
せめて馬車を運転してた人獣さんが来てくれたらこの心細さは少しは楽になったろうに。
てかあの人獣さん、未だに名前聞いてないな。
大浴場への扉が開かれると迎えられたのは心地良い湯気、各所にお湯が流れており、入り口にある木の椅子を持っていてその下で体を洗うのが主な流れらしい。
浴槽は見たところ無く、ならばどこかを見渡してみると奥に通路があった。
そこにきっとあるに違いない。
ここは体の洗い場と、個室がいくつかあるのを見る限り、サウナが主なようだ。
空いている場所は少なく、そのために待ち席としてか、入り口のすぐ隣に足湯らしき場所もあった。しかも泡立ちまくり、いいねこれ。
全体的に泡しかないなここは。
運よく空いていた場所を見つけて体を洗うとする。
「おほっ」
受付から渡された瓶を、周りの見よう見まねで使ってみる。
蓋を開けて、タオルにつけてお湯をかけて、ごしごしと擦る。
その後には息を吹きかけて最後に揉む。
そうした結果が「おほっ」である。
何が起きたかというと、泡が立ちはじめて見る見るうちに膨らんでいったのだ。
それを体に付着させると全身に広がっていった。
この時点で気持ちいい!
「初めてか?」
「は、はいっ!」
隣に座るトカゲっぽい人獣さんが話しかけてきた。
俺が楽しそうにしてるのを見て話しかけてくれたようだ。
「ずっともみ続けろっ、頭に載せたらまたもみ続けるんだっ!」
「わ、解りやした!」
言われたとおりにやってみると、俺の全身は泡まみれ。
「そしたら自分の体を擦りまくれ! 一気に洗えて爽快だぞ!」
「はい!」
やってみるとする。
「おほっ!」
全身マッサージを受けたような感覚、そんでもってこの暖かいお湯が洗い流してくれた後はまるで湯気に包まれているかのようなふわりとした感触が全身を包み込んだ。
「これがユフェリアの大浴場での体の洗い方だ!」
「最高!」
トカゲさんの全身も泡だらけの後に、洗い流されて満面の笑み。
よし、次はいざ奥で入浴だ!
通路を通ると途中で天井が無くなり、外の風が入り込んで心地良かった。
いいねぇ、もう既に楽しい。
大浴場は外から見た感じ、かなりの広さが期待できる。
楽しみだぜ。
通路を進むとまた扉、そばにはバスタオルっぽいものが多く置かれてるけどこれは何だろう?
取っていく人と取らない人がいる。
取っていく人は皆が腰に巻いてるけど、意味はあるのかな?
俺はこの小さいタオルで十分だが。
小さいタオルっていうのは俺の息子のサイズがその程度で収まるとかそういう意味じゃないからな。
「魔法で常に浄化できているから巻いたまま入浴できるんだぜ、清潔そのものだ」
「ほほー」
まあいい、俺はこいつを利用しないでおく。
見よう見まねをしすぎるのもな。
しかもそんなにこいつを手に取る人はいなかったのもある。
トカゲさんが扉を開けて、俺も一緒に大浴場へと入り込んだ。
最初に迎えられたのは天窓からの陽光だ。
今日は晴天、おかげで陽光を浴びながらの入浴ができる。
大浴場の空間は大きな円を描いたもので、やはりかなり広い。
中央には源泉が湧いているのかな、柱のように加工されたその先端からお湯があふれ出ている。
ここに携帯電話があったら即座に写メってたね。
気になるのは、その源泉は二方向へと分かれており、中央に大きな四角形の浴場が一つそこはそのまま源泉が流れているが、左右に二つずつ源泉が流されて、どうしてか浴場が区分けされている。
性質がそれぞれ違うのかな?
迷っているとトカゲさんが――
「左右のは毛の多い人獣が抜け毛のために用意されてるのもあるから、知らんで入ると毛だらけになるから注意な」
よく見ると人獣さんが一箇所に固まって入浴している浴槽があった。
なるほどね、そういう区分けもあるのな。
……ん?
男女一緒に入っているように見えたのは気のせい?
「中央は基本混浴だ」
「こ、混浴!?」
「ああ、そうだが?」
トカゲさんは親指を立てて舌をちょろっと出して、中央の浴槽へ。
木材で作られた浴槽は檜風呂を思わせるが、それはいいとして……混浴!?
「すごい」
「泳ぐのも良し、ゆっくり浸かるのも良しで、しかも何十と押し寄せようがこの広い浴槽が窮屈さを感じさせないがのが人気でございます」
……聞きなれた声が聞こえた気がした。
「うおお」
ペタペタと裸足の足音が聞こえてくる。
「あっ! 蔵曾様っ! 巻き布が取れましたよっ!」
ふむ。
腰に巻くタオルはこっちでは巻き布というのかな?
「浴場、い……い、い、い……」
俺の目の前を少女が通りかかった。
俺と目が合うや、立ち止まり、三秒ほど俺と視線を交差させた。
胸はあるな、微妙に。
一瞬、色々と見えた。
湯気でそりゃあ見えづらくなってはいるが、アニメ仕様みたく完全に隠れはしない。
うん、あれだよ、うん、不可抗力っていうやつだよ。
少女がいた。
生まれたままの姿で。
言い訳をするならば、大浴場は混浴と聞かされていなった。
俺はそういうつもりじゃないが相手が全裸でやってきた、反省はしていない――十代男性はそう語る。
「やあ」
俺は右手を上げて、挨拶。
「い、い、い」
さっきからその言葉の続きは何を紡ごうとしてるんだい?
「大浴場、混浴なんだぜ?」
俺は言う。
彼女――蔵曾は、見る見るうちに顔が真っ赤になっていった。
おいおい、風呂に入る前に真っ赤になるのは妙じゃねえかい?
「浩太郎様、誠に申し訳ございませんが私、自身の体を晒すのはまだ慣れなくてこのような巻き布での格好、どうかお許しいただけると嬉しいです」
そこへオウルエイスさんがやってきた。
「い、いやいや、いいんだよっ!」
そいや温泉とかそういう番組でさ、モデルさんとかバスタオルを巻いて入浴するじゃん?
オウルエイスさんはそんな格好だ。
さて、俺の目の前で顔を真っ赤にさせて固まっている奴――蔵曾はどうだ?
うん、全裸だ。
こちらの防御は完璧。
相手の防御はガバガバ。
「……一つ言っておく、こういうのをな、漫画やらでいうお風呂でのあるあるハプニングっていうんだぜ。やったな! これはラノベに使えるぞ!」
「……うう」
もう手遅れだが、蔵曾は手で隠すべき場所を隠した。
湯煙が仕事してくれてるおかげでそんなには見えていない。
「インスピレーション、刺激されたか?」
あえて、丸見えだぜな表情をしてやった。
「うあぁぁぁあぅあーっ」
蔵曾は、オウルエイスさんが回収した巻き布を奪って、体に巻きつけて浴槽へと飛び込んで隅っこに逃げていった。
「どうなさったのでしょうか?」
オウルエイスさんにはわかるまい、こちらの世界では混浴が主らしいが、あっちじゃあ全然なんだぜ?
しかもな、顔を見せたがらない蔵曾が全裸をいきなり見られたら、そりゃあ
俺もな、オウルエイスさんの抜群なプロポーションがあらわになっていたら今頃引き返してたぜ。
巻き布が無きゃ即死だったね。




