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その61.それが、おばあちゃんの教え!

 蔵曾は――背を向けて両手に青い光を宿らせていた。


 その周囲には何体もの狼と赤ずきんの少女が倒れていた。

 一体、この僅かな時間で何をやってのけたのか。

 オウルエイスさんだけがそれを見ていたであろうが、口をあけて唖然としていた様子から、蔵曾はそれほどまでの事をやってのけたと思われる。

 まだ潜んでいる赤ずきん達は茂みから一斉に襲い掛かると、蔵曾は両手を前に出して――


 パンッ――


 と、勢いよく手を合わせた。

 蔵曾を噛み付こうとした狼も。

 斧や剣、鎌で真っ二つにしようとした赤ずきんも。


 宙で一瞬止まった。


 そいつらは、瞬きを二回、把握できない現状にそれぞれ頭の上にはどでかいクエスチョンマークを浮かべていた。

 間近では解らないであろう。

 ここからでは見えた。

 蔵曾が手を合わせた時に、その青い光は広がったのだ。

 光に触れた者から、重力すら無視されて宙で体が停止。

 蔵曾は再び、先ほどよりも強く音を鳴らして手を合わせると、赤ずきん達は全員が吹っ飛んだ。

 立ち上がった奴は一人としていない。

「魔法の領域を、超えている」

 人獣さん、あいつ神なんで魔法以上にでたらめな力をいっぱい使えますよ。

 心の中で教えておくとした、口には出せないが。

 仕事終わりといった感じで蔵曾は小さなため息をついて戻ってきて、

「会話、可能になった」

 さらっと言う。

「会話できる状態の奴がいたらの話だがな」

 皆倒れて立ち上がらないのだけど。

「……会話?」

 人獣さんの投げかける疑問に蔵曾はすんなりと答える。

「言葉の共有権、与えた」

「与えたって……どうやってだ?」

「秘密」

「さっきの力は何なんだ?」

「秘密」

「少しでも教えてくれねぇかな」

「秘密」

 問い詰めても答えてくれなさそうな雰囲気を感じ取ったのか、人獣さんは腕を組んで蔵曾を暫し見つめた後に、赤ずきん族達へと近づいていった。 

 武器を回収して安全確保を行うようだ。

「縄をくれ」

「は、はいっ」

 馬車には何でもあるな。

 オウルエイスさんが所々を探しているとすぐに縄が出てきた。

 赤ずきんの少女達を一箇所に寄せて縛り付け、狼達も同様に処理された。

「この方達は、どうするのです?」

 煮るなり焼くなり何なりと、なんて。

「こいつらは山賊とはいえ、食料や物資のみを狙って命だけは絶対に取らない連中だ。後は手を出さず、このまま兵士に引き渡して罰と保護観察でも受けさせるだけでいいだろう。そこらは、任せるが」

 人獣さんは蔵曾へ指示を仰いだ。

「うーん」

 その反応はなんなんだよ蔵曾。

「うぅ……」

 おっ、続々と赤ずきんの少女達が目を覚まし始めた。

「な、何が……」

「動けないっ」

「痛いっ」

「こら、暴れるなっ、縄が痛いっ」

 それぞれもぞもぞ動き出していた。

「こ、この方達の言葉が理解できます!」

「やったね」

 やったねじゃなくてね蔵曾さん。

「しかし領土の共有権を行うには相手方が少なくとも我々の領土や人獣、人間の領土の核に干渉してもらう必要があるはずでは? 一体、どうやって……」

「秘密」

「またそれだ」

 自分の正体は隠すだけ隠しておきたいんだなこいつ。

 一言、神だと言ってしまえば皆が納得するのによ。

 俺にはすんなりと正体ばらしたのに、こっちでは秘密にしたがるのはやっぱり、深い事情があるんだな。

「あ、あたしたちもお前らの言葉がわかる!」

「なんでだ!?」

「はなしできてる!」


「あたしは赤ずきんだ!」


「わたしも赤ずきんだ!」


「うちも赤ずきん!」


「おらも赤ずきんだべ!」


「赤ずきんなのは解ってるから!」

 何か変な口調の奴いなかった?

「皆、迷惑してる。人を襲うのやめて」

 蔵曾なりに威圧感を与えたかったのかもしれないが、お前が腕を組んで胸を張っていると、無い胸を誤魔化そうとしているようにしか見えん。

「腹減ってる!」

「この森にしばらく住む!」

「領土を持ってない赤ずきん族はそうやって過ごすのが一番っ!」

 人と良く似てはいるが目は赤く、爪は尖っており、歯も尖った牙が二つ生えていた。

 人と人獣の間みたいな種族?


「それが、おばあちゃんの教え!」


 おばあちゃん出てこい。

「過去の領土戦争によっていくつかの種族は領土を失ったとされている、彼女達赤ずきん族もそうだ」

「領土戦争、か……」

「領土を奪えても、その領土を守るのに必死になるよりは、領土を持たず自由に動いて食料を求めたほうがいいと考えた連中が山賊となり、増えていった」

 赤ずきんの少女達が二回、小さく頷いた。

 彼女達がこうして山に潜んで人を襲った経緯は人獣さんの言う通りで間違いないようだな。

 俺の知っている童話の赤ずきんとは別物すぎる。

「この先の街に行きたい、もし仲間がまだ潜んでいたら邪魔しないように言ってもらいたいのだけど」

「無理!」

「無理無理!」

「あたし達は戦って」

「奪って」

「生きがいを得る!」

 戦闘民族ってやつですかね。

「なら片っ端から蹴散らすか……」

 人獣さんが棍棒で地面を強く突いた。


 赤ずきんの少女達が一斉に青ざめた。


「今なら俺もやれる気がする」

 右腕を突き出すと、拳が鎧に包まれ、肩まで広がった。

 この演出、かっこいいねえ。

 ロボットの変形シーンみたいでさ。


 赤ずきんの少女達は更に青ざめていた。


 加えて、俺の打撃を食らった狼は他の狼の背中に回って隠れてしまっていた。

 すまんね、俺もこの拳の力加減がまだ解らんのだよ狼君。

「暴力、よくない」

 そんな俺達の前に蔵曾は立ちはだかるようにして立ち、両手を突き出して暴力反対を訴えていた。

 一つ言いたいんだが……。


 この縛られてる連中の九割ほどはお前が倒したんだぞ?


 蔵曾は振り返り、赤ずきんの少女達に言う。

「イベラ、食べる?」

 まだ持っていたのか――つーか、フードの中にどうやってしまっていたのか解らんが蔵曾はイベラを差し出した。

 赤ずきんの少女達は全員が目を輝かせ、狼達はくんくんと鼻を働かせ始めた。

 イベラ……それほどに評判の果実なの?

「も、物に釣られんっ」

「釣られんっ」

「釣られんっ!」

「ください」

「抜け駆け駄目!」

「私が食う!」

「くれ!」


 争いが始まった。


「まだまだある、私の持つ領土にイベラの木がある。交渉したい」

「交渉?」

「こんな生活、長続きしない。私の領土に住んで、イベラの木を守って生活してほしい。イベラの果実を売れば十分に生活できる」

 赤ずきんの少女達と狼は話し合いを始めた。

 こそこそと、全員で縛られているも会議中。

「きっと略奪者が現れる。赤ずきんの戦闘、役に立つ」

「やばい」

「いいんじゃ?」

「よさそう」

「ワオン」

 交渉は順調に進みそうだ。

 気がついたら狼達も会議に参加していた。

 狼とは言葉の共有はできないのかな?

 少女達は理解しているようだけど。

「赤ずきん、ヴァルファルには世話になった。彼女のように何かを守るために力を使って欲しい」

「ヴァルファル様、知ってるの?」

「おばあちゃんから聞いた、赤ずきんの英雄!」

「英雄様っ、知り合い?」

「でもこの人若い、小さい」

「嘘かも?」

「けどヴァルファル様、普通は名前知られない、教えてもいない」

「何者?」

「すごい人?」

「すごい人!」

 少女達が蔵曾へ向ける視線は次第に敬意で溢れてきた。

「姉御!」

「姉御様!」

「姉御様の領土、守ります!」

 全員の意見が一致し、蔵曾へ頭を下げた。

 なんとかなったらしい、俺達をほっぽり出して話がすんなりと進んで結論まで至ってしまった。

 うーん、蔵曾……お前って人を丸め込むの得意だよな。

 それから彼女達の縄は解放してやり、蔵曾は自分の持つ領土の地図を書いて渡した。

 すっかり蔵曾を敬い、慕って森を抜けるまでは護衛までしてくれる始末。

 うまく森は抜けられるな。

「姉御! お気をつけて!」

「姉御の領土、守ります!」

「おばあちゃんに報告!」

「姉御様、お名前は!?」

 君達は芸能人に群がるファンかよ。

「蔵曾」

「ぞうそ様!」

「うふふ」

 調子に乗ってやがる。

 その背中を見る限り、えっへんっていう台詞がよく似合う蔵曾がいた。

 森を抜けると、兵士達が取り囲んでいたが、後からやってきた赤ずきんの少女達は奪ったものを全部集めて兵士達に差し出した。

 しかしそれでは収まらないも、人獣さんさんとオウルエイスさんが仲裁に入った。

 その間に赤ずきんの少女達は蔵曾に頭を下げて、狼に乗って行ってしまった。

「待てぇ!」

 兵士達が追いつこうにも、騎馬よりも早く、魔馬よりもすばしっこい動きをされるとなると追いつくのは不可能のようで、しばらくして戻ってきていた。

「もう赤ずきん族は森に潜んで誰かを襲おうとしない」

 兵士達へ、蔵曾が言う。

「しかしだね……」

「奪ったものを返してきた、今までにないはず」

「そう、だが……わ、我々は赤ずきん族を討伐するよう言われている」

「彼女達を刺激して、また山賊にさせたい?」

「ぐっ……!」

 反論の言葉は行方不明。

「今後貴方の国は、近くの森に赤ずきん族が出現する恐怖を抱くつもり?」

「ぐぐっ……!」

 更に追い討ち。

 兵士達の表情が曇りはじめた。

 隊長らしき人物は後ろで勇ましく立っていたが、蔵曾の最後の言葉で眉間にしわを深く刻んだ。

 赤ずきん族を敵に回す――それは避けたいらしい。

「考えさせてもらうっ」

 口篭っている兵士達を見かねて、隊長が代弁した。

 兵士達も隊長の判断には従うしかなく引いていく。

 蔵曾は俺を見て、口元だけ見えるも釣りあがった両端からして、ドヤ顔。

「ユフェリアに行こう」

「……そうだな」

 道は開かれた。

 なんだかんだあったが、一件落着でいい……のかな?

 ユフェリアへ向かう道中、オウルエイスさんが蔵曾へ向ける視線は明らかに赤ずきん族と戦闘した以前とは違うものがあった。

「あのっ」

 思い切ったように、口を開く。

「何?」

「蔵曾様のその力、一体……?」

「仙人の力」

 嘘付け。

「せ、仙人の力、ですか」

「そう」

「魔法以上に強力そうですね……詠唱もいりませんし」


 でたらめすぎるよね。

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