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その59.そんなバナナ

 シンプルイズベストだ。


 やはり初プレイとあって、オウルエイスさんはジョーカーを引くたびに「こ、これが……」とか「ま、また……」なんて声を出してしまっていた。

「あんまり声出さないほうがいいよ、あとポーカーフェイス」

「ぽーかーふぇいす?」

 ああ、こっちじゃポーカーすらないんだな。

「なるべく無表情で」

 無表情といったら蔵曾の得意技だ。

 こいつは普段の九割が無表情だからな。

 いつだか赤面した蔵曾を見たがあれは数える程度、表情の変化はこっちがそれなりにいじらんかぎり表れんから困ったもんだ。

「私の勝ち」

「蔵曾様はお強いですねっ」

 勝ち越されている、口元がちょっとにんまりと弧を描いていてドヤ顔してるあたりがムカつく。

 そのフード取ってやろうかこの野郎。

「浩太郎、だらしねぇな」

「あぁん? ほいほいチャーハンかますぞおい」

 某動画ネタでのやり取りは多用しないでおこう。

 オウルエイスさんがついていけてない。

 そんでもって、既に十回を超える対戦となっているのだが、飽きはじめてきた俺達と違ってオウルエイスさんは目を輝かせながらトランプを握っていた。

 彼女にとってはこのゲームはとても新鮮で面白いんだろうな。

 毎回ババを持つのはオウルエイスさんだというのによ。

 たまに手札が幸運によって捌かれ、俺と蔵曾との一騎打ちになると、ものすごくやり辛い。

「……どっちだ?」

「……」

 蔵曾の目を見ようにもフードに隠されてしまっている。

 口元は当然微動だにしない。

「どっちだよ」

「……」

「そのフード、卑怯じゃね?」

「……」

「フード取れよ」

「……」

 口元だけじゃない、全体的に微動だにしない。

 蔵曾だけ時間停止を食らったのかと錯覚してしまうくらいに。

「こっちだ!」

 残る二枚、俺は左を選択した。


「ふふっ」


 笑い声が聞こえた。

 蔵曾を見ると、にんまりとしていやがる。

 俺は恐る恐るカードを裏返すと――引いたのはジョーカーだった。

「わわっ! こ、浩太郎様! ジョーカーですよ!」

「わ、解ってる!」

 蔵曾が引く時は大人しくしておいてくれよ!

 俺の手札は二枚、うち一枚がジョーカー。

 対する蔵曾の手札は一枚。

 ジョーカーを引けば持ち越し、引かなきゃ蔵曾の勝ち。

 さあ、勝負だ……!

 シャッフルして準備完了。

 蔵曾は右手をゆっくりと俺の手札へと伸ばしてくる。

 先ずは右へ、つまむ程度で引きはしない。

 オウルエイスさんの唇がもごもご動いている、喋るなよ……?

 次は左へ、これまたつまむ程度。

 くいっと左のカードを引いた蔵曾は――俺が一瞬だけ唇を動かすや右のカードへと変えてカードを引き抜いた。


「我が勝利に一変の悔い無し」


 蔵曾は、高々と右手を上げた。

 俺の手元には、ジョーカーだけが残った。

「罰ゲーム、決めない?」

「……えー」

「そのほうが面白い」

 飽きてきた頃だ、俺と蔵曾二人だけだが。

 ――罰ゲームを設ければそれなりに燃えるかもな。

「試しに、罰ゲームの内容は?」

「負けたほうが、勝った人に何でも一つ、言う事を聞く」

「えー……」

「勝つ自信、無いの?」

 喧嘩売ってやがるんですね蔵曾さん。

「おーし、やってやろうじゃん!」

「わ、私も頑張ります!」

 まだまだ山道を抜けるには時間が掛かりそうだ、それまでたっぷりとババ抜きをやってやろうじゃねえか。

 それぞれのやる気が上昇した。

 一番の不利はオウルエイスさんであるのは変わりは無い。

 素直すぎる故に、どうしてもババを回避されてしまうのだ。

 ならば、その先で最も重要な勝負となると――俺と蔵曾との一騎打ち。

「おい、早く引けよ」

「待って」

 オウルエイスさんの手札は二枚。

 蔵曾の手札は一枚。

 俺の手札は当然二枚。

 誰がジョーカーを持っているのか、緊張の一瞬――蔵曾は慎重に選んでいる。

 それは俺がジョーカーを持っているからという警戒があってこそだ。

 蔵曾は右か左か、選択に迷っている。

 俺はただ無心にカードをまったく見ず、蔵曾のフードだけを見た。

 シャッフルして、俺でさえこの二枚がどうなのかは知らない。

 蔵曾は、決意したようでゆっくりと、そんでもって最後にもう片方のカードへと移して勢い良く引いた。

「……むっ」

 結果、蔵曾はジョーカーを引かず、カードがダブって手札を減らすという結果も得られなかった。

 そんでもって、蔵曾は思い違えている。

 ――俺の番だ。

 確立は二分の一。

 オウルエイスさんの手札、右か左かの選択。

 思い切って、俺は――右、いや、左を選択。

 その結果、

「あがりっ!」

 そう、そういう事。

「なっ……!」

 あえて緊張感を抱かせていたが、俺はジョーカーを持っていない。

 そう、思わせただけの話だ。

 オウルエイスさんも数をこなせばジョーカーを手にしたら表情に表れなくしようとするのは当然の事。

 罰ゲームを設けるとあれば尚更だ、ゲームとはいえ負けないように立ちまわるべき。

 わざと負けたとあれば接待ではマイナスイメージ、今まで負けて負けただけに彼女はこの罰ゲームを設けたゲームくらいはまぐれであれ勝っても別に構わないであろうと、普通に勝負をするはず。

 その結果、オウルエイスさんはポーカーフェイスを取得し、蔵曾は彼女がジョーカーを持っていないと認識。

 ジョーカーを持っているはずの俺が先にあがって戦況は大きく変わった。

「や、やりおる……」

 そんで、ここからが更なる山場だ。

 時計回りに行っている引き順。

 次はオウルエイスさんの番であり、蔵曾は後手に回っている。

 二分の一がオウルエイスさんに回ったわけだ。

 だが俺としてはこの勝負、どっちが負けてもどうでもいい。


 ――負けたほうが、勝った人に何でも一つ、言う事を聞く。


 できれば蔵曾に負けてほしいなあ~

 蔵曾にたっぷりとドヤ顔をかましてやった。

 悔しそうに表情を歪める蔵曾だが、その瞬間に――オウルエイスさんはカードを引き、

「あ、あがりました!」

 なんと、負けは蔵曾。

「……そんなバナナ」

 古い。

「ぷぎゃー!」

 思い切り指を差ししてドヤ顔で言っておく。

「も、申し訳ございません蔵曾様……」

「うぐぐ……」

「ねえ今どんな気持ち? 今、どんな気持ち? どんな気持ち?」

 からかってみると、蔵曾は頬を膨らませて俺の肩パンを食らわしてきた。

 弱々しい肩パンは鼻で笑っちまうね。

「罰ゲームはどうしようかなぁ~」

 蔵曾を見てニヤニヤ。

「ど、どうするのです?」

 オウルエイスさんも罰ゲームに期待を膨らませていた。

 この世界では罰ゲームを設けるのはあまりしないのかな。

「うぐぐっ……!」

 悔しそうにする蔵曾だが負けは負け、言いだしっぺが負けるっていうジンクスが効果を発揮しちゃったねっ! 残念!

 するとその時、騎手側の小窓からノック。

「おや、フェンジャ河へ到着するようですね」

「罰ゲームは考えておくよ、後で言うから、何が何でも罰ゲームに従えよ?」

「……致し方あるまい」

 言いだしっぺの蔵曾さんは素直に頷いた。

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