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その56.ふふふんっ

 精霊の住む森は移動中に窓からその風景を覗くと魔馬を遠くから見ている精霊達が何人か見えた。

 小さいのもいるようで、まるで蛍のように浮遊していて幻想的。

 森を抜けると、緑一色に染まった草原が広がった。

「おお……」

 声が漏れてしまう。

「ここがナルノス丘でございます」

 直ぐにでも外に出てこの草原をごろごろと転げまわりたいなあ。

 風に靡く草原は全てが一斉に靡き、ちょいと長めの芝生みたいな動き。

「精霊達の遊び場にもなっており、夜には精霊達の輝きを観察しようとここでテントを張って過ごす方も多いです。魔物がそれほど近づかないのもあって安全に過ごせるんですよ」

 ちらほらと布状のテントを貼ってる人達が見えるな。

 土が見える場所が所々あり、皆そこで火を炊いて今夜を過ごす感じ?

 いいねえ、俺もそうしたい。

 丘の上は人気スポットなのか、人だかりが出来ていた。

 景色を眺めてるのかな? 全員が後姿を見せているから俺のほうからは見えない。

「降りましょうっ」

「おうっ!」

「いざぁ」

 オウルエイスさんが小窓を軽く叩くと、人獣さんは小さく頷いてゆっくりとスピードを落とした。

 揺れも感じず、操作はものすごく丁寧。

 おかげでものすごく快適だったよ。

 ナルノス丘に踏み入れるや、足に感じたのはふわりとやわらかな草の感触。

 あまりにもフサフサしすぎて毛並みのいい動物の背中にでも乗ってるのかと錯覚してしまう。


「はわぁ」


 蔵曾はすぐに寝転がり始めた。

 うん。

 俺もやろう。


「うおぉ!」


 やばいっ! 気持ちいい!

 自然に囲まれて、自然にもみくちゃになってる!

 久しぶりに自然の香りというのを堪能できていた。

「異世界は素晴らしい」

「ラノベでもよく異世界が取り上げられるけど、実際に体験すると想像以上にすげえなやっぱり」

「いつか君もトラックに轢かれてこの世界に転生を」

「なんでトラックに轢かれなきゃならんの!?」

 限定すんなよっ! 転生できるとしても痛々しくてやだよ!

「トラックは置いといて、転生ってほんとにできんのか?」

「できる」

「マジかよ」

「これは秘密」

 誰かに言ったところで信じてもらえないと思うが。

 なんかものすごい話をさらっと聞いてしまったな。

「ナルノス丘、いかがでしょうか?」

「すんごい!」

「最高」

 寝転がっている彼女は俺達を見て微笑んだ。

 このままここで眠りたいぜ。

「丘の上からは絶景も是非!」

「よしっ、蔵曾行くぞ!」

「おっけー」

 不安もすっかり吹っ飛んで蔵曾とはしゃぎながら丘を駆け上がった。

 観光者達の中へと入り、目の前に広がる風景を見て、笑顔を浮かべた。

「すげえー」

 広がる丘の先には茂る森と、それを分断する渓谷があり、その先には山々が聳えていた。

 天候も晴天とあってそれらが全てはっきりと眺められた。

 頂上付近にはかすかに雲があるも山々がそれを分断して雲の上に頭を出していた。

 霊峰と表現してもいいくらいの光景だ。

 何よりもすごいのは、山頂付近には竜が何体も旋回しており、俺は二次元の世界に飛び込んだんじゃねえのか? って問いかけたくなるね。感動的。

 自然が溢れているこんな光景、あっちの世界じゃ中々見れないな。

「あれは七つの山が大地の変動によって寄り添い合ってできたのです。四つ目の山が竜の寝床と呼ばれ、こうして天候の良い日は竜の観察が出来るのです」

「最高の二文字しか浮かばんね」

「ふむ」

 蔵曾はメモ帳を取り出して何やらメモり出した。

 インスピレーションが刺激されたのかな。

 あっちの世界で竜を出して俺を襲わせようとするなよ?

「その他にはですね、ほら、あそこに大きな岩が立ってますでしょう?」

「んん? ああ、あれかっ」

 丘を降りて真っ直ぐいったところにまた森があるのだがその手前に岩が置かれていた。

 いびつながら四角形く造形された岩はこの丘にはちょっと似合わないな。


「あれは暴虐者と呼ばれた方の墓でございます」


「暴虐者?」


「彼は四百年前にこの世界の全ての領土を支配しようとしたのです。名前はガルス・フェイロ。最期は神に処刑されたとされております」


「ふうん、神によって、ねえ?」


 俺の隣にも神様がいるんだよね。

「その神も今は存在せず、というよりいたのかも解らないのですが、神が座っていたとされている神座は聖地と呼ばれる場所に今も残っているのです。それも観光予定になっています、近いのでこの後行きましょう」

「そうだな、行ってみようか」

 周囲にはあちらの世界の話は秘密なのか、声を落としてオウルエイスさんは俺に問う。

「浩太郎様は神を見た事はありますか?」

 俺も一応同じく声を落とそう。

「……あるな」

 現在進行形で見ている。

「まあ! どのようなお姿をなされているのです?」

「俺の知ってる奴は、人間……っぽいな」

「そう」

 何が「そう」だよ蔵曾。

 お前の事言ってんだよっ。

「蔵曾様も見た事が?」

「いっぱい」

 毎日鏡の前に立てば見れるだろうよ。

「私は一度も見れず残念なりません、この世界に神がいないのはあちらの世界へと行ってしまったのではと思い、もしかしたら会えるかもと期待をしていたのですが……」

「いたとしてもどんな姿か解らないんじゃ?」

「聖地には神のお姿を描いた石板がございまして、それに似てるかなとっ」

 よほど神が見たいのか、彼女は両手で握りこぶしを作って上下に振った。


 パンフレットを見ると、次は「せいちへいこう!」の項目。


 地図は点線で丘から聖地への道のりが続いていた。

 その途中にはちゃんとぼうぎゃくしゃのはか! と書かれていて、あの墓を見てから行くのも予定に含まれていた。

 その予定に従うとして、先ずは暴虐者の墓に。

 離れたところから見るのと、近づいて見るのとでは感じていたサイズに齟齬が生じていた。

 結構、でかい。

 文字が書かれているようだが苔が覆って何が書いているのか解らない。

 見れたとしてもこの世界の文字は読めないのだから無意味だがね。

「この墓の真下には墓の周辺にのみ影響する領土の核があり、何者かがその核を支配しておりまして、墓に特殊な防壁を張るように仕掛けを施されています」

「仕掛けが? どうして?」

「過去に何度かこの丘には暴虐者の墓はふさわしくないとどかそうとした方々がおりまして、何者かがその方々への対策のために施したのでしょう。仕掛けが働くと墓及び大地には一切の攻撃が通らなくなります」

「墓を建てた奴にはこの暴虐者がよっぽど大切だったのか?」

 考えてみればこんな観光地に場違いな暴虐者の墓が四百年間も建っていられるわけがないもんな。

「誰が建てたかも解りませんが、そうだったのかもしれません」

 墓はもういいや。

 目を引くものもないし、何より暴虐者とやらの墓をじろじろ見るのもこの岩の下で眠ってる暴虐者さんに悪いからな。

 俺の興味は神座とやらだ。

「行くか……おい」

 移動をしようとすると、蔵曾はまだその場に留まっていた。

「どうした?」

 じっと墓を見てやがる。

 興味が沸くもんあったか?

「なんでもない」

 すぐについてきたが、足を止めていたのが妙に気になった。

「苔、すごいなと」

 言い訳するかのように、言葉を添えてくる。

「そうだな」

 この世界に来た事あるって言ってたし、以前来た時が何年前かは知らんが時代の流れでも感じたのかな?

 渓谷は山から流れてくる透き通った水によって自然の素晴らしさを発揮していたい。

 観光のためにか、橋が岸から岸へとかけられていて奥へと続いていた。

「昔はこの橋は無かったのですよ。それどころか数百年前のここらは凶暴な魔物の巣になっていたようで、人が近づけなかったとか」

「今その魔物は……?」

「不思議とどこかへ消え去ってしまいました。おかげでこうして百年ほど前からここは観光地になったらしいですよ」

 鮫がいなくなった海がビーチになったみたいな感じ?

 川を見ると青い魚が泳いでおり、時には飛び跳ねたりしてそのたびに俺は携帯電話でシャッターチャンスを狙った。

 そんでもって、そろそろ充電しなきゃ危ういのだが充電器も持ってない上に、この世界にコンセントが存在するのか疑問である。

 電話やメールをしても届かない、写メるくらいしかこの世界では活用できないから、電源は切っておこう。

 何か撮りたくなったらすぐに取り出して写メって電源を切る。

 この流れでいく。

「相変わらず長い」

「相変わらず? 蔵曾、お前ここ来た事あるのか?」

「……」

 なんか、問いかけたらそっぽを向かれた。

 しまったと言いたげに。

「おい蔵曾」

「……」

「おーい」

 顔をわしづかみにして俺のほうを向かせた。

「来た事ある、昔、観光できるようになった時に、来た」

「そうかい、何か他に隠してたりしない?」

「しない」

「ふーん」

 さっきから怪しい。

「そろそろ聖地ですよっ」

 オウルエイスさんが指差す先には洞穴が見えた。

 俺達と同じく観光していた人達は丁度戻ってきており、誰もが微笑みを浮かべて「来てよかった」みたいな顔をしていた。

 通り過ぎ際に会釈してきたので俺も返しておく。

 こういうのはこの世界でも共通だな。

「エルフ多い」

「ええっ、エルフは観光大好きですからっ」

 停戦中でしかも攻撃を受けたというのに呑気だな……。

 それほどまでに防衛は自信があるって事かい?

「森の奥に入っておりますが聖地周辺は魔物が一切近づかないのもあって実に静かでしょう?」

「まさに聖地だな」

「聖地万歳」

 聞こえるのはせせらぎのみ。

 落ち着ける、このせせらぎを自分の部屋で聞きたいな。

 橋を渡り終え、いよいよ洞穴へ。

「でっけえ!」

 中からはひんやりとした空気が流れてきた。

 肌をなぞるその心地良さ、最高だ。

「入りましょう!」

「おうよ!」

 いざ聖地へ。

 中へ入ると――声を失うくらいに、予想以上に、聖地と言わざるを得ない世界があった。

 巨大な岩を綺麗に切断して敷いたような地面、室内は広く天井も高い長方形の空間。

 所々に丸い窓があり、そこから漏れる光が室内を照らしていた。

 大理石でのみ作られた高級な室内みたいな、清潔さもあり神秘さもあった。

「この室内の物質はどこから得たのか、どのようにして加工されてこのような室内を作り出せたかは未だに不明です」

 どうやったんだろうなこの世界の神とやらは。

 まさか蔵曾、お前じゃないよな? ちょっと怪しいぞ?

 特に驚く素振りも見せないしよ。

「こちらの水場にて靴の裏をお洗いください」

「ああ、解った」

 喜んでやってやる。

 むしろ靴の裏を綺麗にしなきゃ申し訳ないと思うくらいだ。

 なんていったって聖地に足を踏み入れるんだからよ。

「あの奥にあるのが……?」

「はい、神座でございます」

 奥には天井に一つの窓、壁に三つの窓、そこから入り込んだ光は一点を強く照らしていた。

 数センチほど突き出た円、その中央には銀色に輝く椅子があったのだ。

 すぐに写メったね。

「数百年前、この神座に創造神が座っていて、世界を管理していたとされています」

 近づいてみる。

 よほどの人気スポットなのか、観光者がその周辺で神座を見てわいわい話をしていた。

 その中には絵を描く人もいる、勿論対象は神座であろう。

「この聖地一帯の領土の核はあの神座の真下にございまして、過去にここを領土にしようと何人もの方々が核の支配を試みましたが協力な防壁が発動して誰も奪えなかったようです」

「こんなすごい場所、領土として支配したくなるのも無理はないな……」

 ここで、ちょっと引っかかった。

「……ん? さっきの墓にも防壁が仕掛けられてたって言ってなかった?」

「ええ、一つの推論なのですが、あの暴虐者の墓に防壁を張ったのは、神ではないかという一説があります」

 神と暴虐者、何か関連性でも……?

「しかし暴虐者に神がそれほどの施しをする理由が無く、当時暴虐者を崇拝する防壁の技術に長けた方によるものではと言われております」

 なんとなく俺は蔵曾を見てみた。

 こいつ、何か反応しやしないかなとは思ったがいつも通りの無反応。

 呆けているようにも見えるな。

 フード取っみよう。

 ぱさっとフードに手を掛けて後ろへと返した。

 いつもなら、すぐに顔を隠そうとフードを元に戻すのだが、蔵曾は神座を見てしばらく固まっていた。

「……蔵曾?」

「……はっ!?」

 やっと気づいたか。

 いつ以来か、お前の顔をまじまじと見れてよかったぜ。

 慌てて蔵曾は顔を隠して、俺の肩をぽこぽことか弱い力で殴ってきた。

「ふふんっ」

 お前の顔見てやったぜと伝えるべくドヤ顔。

「馬鹿」

「ふふふんっ」

「阿呆」

「ほっひひ」

「ぐぬぬ……」

「悔しいのう! 悔しいのう!」

 うん、それよりもっと神座に近づこう。

 周りの様子から、円には入っちゃいけないっぽいので近づきすぎないようにした。

「あちらが創造神のお姿を描かれたとされる石板でございます」

 神座の奥には石板が一つ。

「石板って初めて見るよ」

 そこに描かれていたのは長い髪のの女性だった。

 彫られているのでどのような髪の色なのかは解らんが、整った顔立ちと微笑を浮かべる滑らかな唇と高く綺麗な鼻筋、瞳は鋭いがこりゃあ絶世の美女ってやつだぜ。

 蔵曾と交互に見たが、身長からして似ても似つかない。

 足がめちゃ長いし、女性にしては長身のほうじゃないかな。

 見蕩れてしまう、こういうのを神々しいっていうんだな。

 すると隣へオウルエイスさんがやってきて、そこはかとなくさっきよりも小さい声で問いかけてきた。

「実は浩太郎様の持つ力はこの世界でも酷似した――いえ、力の性質は同じものが存在していたのです」

「同じものが?」

「はい、それは神が作ったとされております。そこで一つご質問なのですが、浩太郎様の立ち位置、一体誰から受け取ったのです?」

 オウルエイスさんは石板を見て言う。

 受け取ったのはこの人物では?

 そう言いたげに。

 けどな、残念……全然違う人物だぜ。

「まあちょっと……」 

「言い辛い、事……です?」

「一つだけ言えるのは、この石版に描かれた人物じゃあ無いよ」

「そうですか……」

 僅かに沈んだ背中は、がっかりしたように見えた。

「では何か力を感じたりは? 浩太郎様の力と、何か呼応するものがあるかもしえrません」

「ん~……どうだろうなあ」

 呼応とはやら。

 実はちょっとだけなんか感じたりする。

「この聖地に入ってから、奥に行くにつれてさ、ちょっとみなぎる感じはある」

「おおっ、それではここにも貴方様のパワースポットなのかもしれませんねっ」

「パワースポットねぇ……」

 どうなのよ蔵曾――と探してみると、あいつはいつの間にかとことこ神座の周りを歩いていた。

 神座が気に入ったか? 座るんなよ?

「そろそろ行くとしましょうか」

「そうだな」

 蔵曾の元へ向かうとする。

「どうだ蔵曾、インスピレーションは刺激されたか?」

「まあ」

 素っ気無いな。

 ここに来てからはメモも取ってないしさ。

 オウルエイスさんはもう兎に角この建物の構造とか神座の物質とか、説明しまくって夢中だが、蔵曾はまったく聞いていなかった。

 ここは知り尽くしているから聞く必要は無い――とも、受け取れる。

 そう受け取れた理由の一つとして、蔵曾は壁に手をついて口数がめっきり減っていたからだ。

 吹き出しを入れるなら「懐かしいなあ……」って入れるともうばっちり漫画の一コマ完成。

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