その55.でげでげでげでげでーん
蔵曾が来たからにはすぐに帰れると思ったのにこれだよ。
……まあいいよ、うん、いいさ。
蔵曾、お前が来てくれればそれだけで今はある程度の事は我慢しよう。
馬車で優雅な観光を楽しむついでにこれまでの経緯を蔵曾に話すとした。
彼女達エルフは俺に立ち位置の力を使ってこの世界のバランスを整えて欲しいという目的で連れてきた事、一旦帰ろうとしたら、襲撃があり、帰路が絶たれて帰れなくなった事、あと飯がやたら美味い事などなどエトセトラ。
蔵曾はというと、話を聞いて飯に食いついてきてとりあえず頭にチョップを食らわせるとした。
肝心なとこはそこじゃねえんだよっ。
「蔵曾様は立ち位置にお詳しいのです?」
「詳しい」
立ち位置を作った張本人です。
益々何者なのかと、オウルエイスさんは蔵曾の全体を見ていた。
どこにも角とか羽とか生えてないよ。
見た目はただの人間だから舐めまわすように見たって意味ないさ。
「そうだ、聞きたかったんだが、立ち位置はこの世界でも影響すんの?」
「する」
「ほ、本当ですか!?」
「どの世界に行っても、浩太郎がその世界に存在した瞬間に立ち位置は浩太郎を中心として世界に影響を与える」
お前の説明を聞くと毎回立ち位置ってすごいんだなって関心しちまうぜ。
「それでは、この世界があちらの世界と同様に平穏になるのでしょうか……?」
「ならない。世界観に影響を与えるだけ。世界事情は変えられない。それはまた別の立ち位置」
やっぱり俺の予想通り、世界事情までは変えられないようだ。
……ちょっと待て?
「別の……?」
立ち位置って他にもあるの?
「……今のは忘れて」
「……俺に隠し事があるのかい、蔵曾ちゃんよぉ」
頭をぐりぐりしておこう。
「うぐぐっ、無いっ、無いっ」
「嘘つけ!」
そんなやりとりをしている中、オウルエイスさんを見ると、彼女はすっかり肩を落としていた。
「あと、この世界での世界観は現存する種族は浩太郎の世界観に入れる。特異な種族は浩太郎が認識し、干渉を認めなければ無理」
ぐりぐりを止めておいてやる、説明させよう。
「霊族、怪異、この世界の人達もあまり知らない」
「そのような種族が、ほ、本当にいるのです……?」
「いる」
ふーん、彼女ですら知らない種族ねえ……。
俺はこれ以上面倒なのは避けたいし、あんまり他の種族は接触して欲しくないな。
「立ち位置を知られていない、それらの種族は奪いにきたりしない。安心して」
「安心したいが、教えんなよ」
「口は堅い」
そういう奴こそ信用できねぇ。
「何より浩太郎の立ち位置より、別の立ち位置を求めるはず」
「やっぱり別の立ち位置あるんじゃねえか」
はっとしてそっぽを向いた。
蔵曾、お前って本当に馬鹿だよな。
「どんなのだ?」
頭のぐりぐり再開。
「うぐぐぐっ、たとえばっ、世界の、物体を、自分の思うままに変化させる、物体に対する立ち位置っ」
「物体に対する……? 何かそれもすごくね?」
「立ち位置はどれも、すごいっ」
「どれもってまだ他にあるのかよっ!」
世界観を変えるものの他に、物体を変えるものがあるとすれば、バリエーションはまだいくつかあるのは当然の話だな。
「一体、どこに……あるのです?」
「なんとも、言えないっ」
それはこの世界にあるよって言っているようなもんじゃない?
あっちの世界にしか無いのならきっぱり無いって言えるからな、言葉を濁す必要が無い。
「この話は、やめ。観光」
気になる事を聞けたし、よしとしようじゃないか。
「……解りました、それでは観光案内をさせていただきますね!」
さっきは肩を落としていたのに、仕事スイッチでも入ったのか、オウルエイスさんは笑顔を見せて、窓から見える草原や山々について熱心に説明し始めた。
蔵曾は頷いての繰り返しで興味津々。
俺も同じく窓から景色を眺めたが――この窓枠、金の装飾が施されていて、よく見れば所々明らかに高いと言わんばかりの装飾ばかりだ。
この座っているソファもふかふかで座り心地は抜群。
「お前、金はどうやって用意したんだ? 魔馬どころかこんな高そうな馬車も手に入れてるしよ。これもお前の力でか?」
「違う。この世界に領土を持っている」
「領土? お前この世界に来た事あんの?」
蔵曾は頷いた。
「久しぶりにその領土を見に行ったら、大木が立ってた」
「大木?」
「植えた記憶がある。でげでげでげでげでーん……このぉ木何の――」
「おいやめろ」
何か膨らんでるなと気になっていた蔵曾のポケット、そこから出てきたのは大きく丸く黄色い果実。
「そ、それは……!」
オウルエイスさんが目を真ん丸くさせて驚いていた。
この果実、そんなにすごいの?
「市場に中々出回らない高級果実・イベラですねっ! 上品な味わいを楽しめる上、栄養も満点でして、長寿の実とも言われておりますっ」
「試しに一箱分売りに行った」
その結果が馬車付き魔馬を購入できて、さらに名店の全メニューを二日連続で制覇できるほどのお金が入ったとな。
「そのお金で馬車付き魔馬と、腕のいい騎手も雇った。人獣、もふもふ」
「ああ、そういえば……もふもふだったな」
騎手の様子を覗ける小窓にはふさふさとした鬣の後姿が見える。人獣もそれぞれ見た目は様々な人がいるが、この人獣はライオンに似てる。
飲食街に行く時に見た、鳥やトカゲなどに似た人獣達は見てきたがその中でも一番かっこいいわこの人獣さん。
「このような馬車を持っているのも納得です」
「お金あるから、浩太郎も観光」
「……解ったよ、けど少しだけだからな!」
なんか奢ってくれよな。
この世界の食べ物は美味しいし。
「えー」
「えーじゃない!」
「うー」
「うーでもない!」
蔵曾の両頬を抓って黙らせた。
オウルエイスさんが何やらイベラについて語り始めたものの話が長いのでそれは右耳から左耳へと通過させて、蔵曾の手からイベラを奪うとする。
「美味そうだなっ」
すべすべした肌触りだ。
甘いようでさっぱりしたような果物の香りもしてくる。
「食べていいか?」
「食べて」
オウルエイスさんが説明を止めて羨ましそうに見ていた。
「食う?」
「是非っ!」
半分に割れるかな? ちょっと硬いんだよね。
「ナイフある」
「おお、さんきゅー」
気が利くじゃん。
ポケットに手を入れて、少し間があった事からナイフを作り出したな?
イベラを真っ二つにすると、途端に切り口から果汁があふれ出た。
「おっとっと」
「すごい果汁ですねっ!」
「もはやジュース」
慌ててこぼれないようにと果実を傾けてオウルエイスさんに片方を渡した。
すごいなこれ。
香りが室内を包み込んじまった。
「いい香りですね、流石イベラでございます。では、頂きますっ!」
「俺も頂くぜっ」
「どうぞどうぞ」
中は桃色がかった赤、鮮やかな色合いだ。
一口食べると、少しだけ硬い皮と柔らかく果汁溢れる果肉が混ざりあって俺達の顔は幸福の二文字で形成された。
「素晴らしいですね……。感動しました、気になったのですがイベラは果実が出来るまで数百という年月が必要ですが……貴方様は、一体……」
神様だからなぁ、年齢とか関係なさそう。
こいつが数百歳でも数千歳でも外見は今のままなんじゃないの?
「ただのあっちの世界の人間、ちょっと長生きしてる」
「あちらの世界では若さを保って数百年を生きる方がいらっしゃるのですか!?」
俺に聞かれてもな。
「あっちは、色んなのがいるから」
蔵曾は神様だからと言ってしまえばこの話はすぐに終わるのだが、蔵曾はつま先を軽く突いてきた――自分の正体はばらすな、そう俺は受け取った。
「仙人」
……適当な事言うなや。
「せ、仙人!?」
「長生き」
「私の知らない事がまだまだあるようですね……」
目の前に座ってる奴は神様、とかな。
「次の目的地は?」
「あっ、イベラに夢中になってしまいまして申し訳ございませんっ。次はパンフレット通りに、ナルノス丘へ行きましょう!」
パンフレットを蔵曾にも見せてやろう。
「パンフレット、いい」
ハイテクパンフレットだからな。
「イラスト、すごい」
「ありがとうございます、蔵曾様」
「いつか挿絵として雇いたい」
「面白いラノベを書けるようになったらな」
お前は先ばかりを見すぎ。
まだスタートラインにすら立ってないのによ。
「この世界を観光すれば書ける気がする」
「そうか、じゃあ俺は関係ないから先に帰らせてもらってもいいか?」
「君がいればもっと書けるような気がする」
「俺関係なくね!?」
どうしても俺を巻き込みたいようだ。
服の裾をぐいぐい引っ張ってお願いアピールをする蔵曾。
「浩太郎様はこの世界の観光は、気が進まないです?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……ほら、サンヴァルギの件とかあるし落ち着かないなって」
「今はあの襲撃があった場所から離れていっておりますので、大丈夫だとはございますが……」
「大丈夫大丈夫」
蔵曾は余裕そうに言う。
「やはり浩太郎様の意思を尊重して、観光ルートから外れて城へ戻りましょうか」
「駄目、観光する」
蔵曾……お前の頭にげんこつかましていい?
「絶対、観光する」
「おいこら……」
「じゃないとこの魔馬使わせない」
「ぐっ……!」
痛いとこをついてきやがる。
魔馬があるからこそ現在も森の中を通って移動していられてるってのに、こいつがなきゃなんもできないのを解ってるからわがままし放題になってやがる。
「解ったよ!」
「そういう事で」
「よ、よろしいんでしょうか……」
俺は頷くしかなかった。
もとの世界に戻ったら俺は蔵曾を絶対シバく。
この木何の木イベラの木。
名前は知ってる木ですから。
果実の美味しい木になるでしょう。
このぉ木何の木きになる木。
名前は知っ(略)




