その52.まったく幼女は最高ですね
御者に誘われて馬車の箱型の席へ。
中に入るのはいい、しかし左右に護衛の鎧をまとったエルフに挟まれると居心地はいいと言えない。
「出発しましょう! いざシートレンへ!」
陽気なオウルエイスさんがいなかったら今頃すぐにでも帰らせろ! と言い張ってたかも。
移動は揺れもほとんど感じず快適だった。
「この馬は魔馬というものでして、魔力を大地から吸収、発動走行させる馬でございます」
「魔力を……?」
なんかすごそう。
「衝撃はその馬が全て分散してくれるので揺れはまったく感じないかと」
「ああ、そうだな。乗り心地は最高だ」
ほんと、まるで滑っているかのように揺れが微塵も感じない。
「しかも最速で安全なルートを選択し、魔力を吸収しなくても体内に蓄えた魔力でしばらくの行動は可能なのです」
つまり――魔馬っていうのはすごいって事だな!
一山まるごと離れていて、地図から予測するに数十キロ離れているシートレンだが、移動時間は一時間ほどで済むとの事。
その間、俺を挟む二人の護衛はあっちの世界の質問攻めだった。
「あちらの世界では、自由の国があると聞きました」
「……あるといえばあるけど、本当に自由じゃないからね?」
何をしてもいい国じゃないのをご了承いただきたい。
「書物も豊富、その中でもまんがという書物が貴方の国では文化の一つというのは?」
「そうだね、文化と言っても過言じゃないかな。どこにでもあるよ」
「その中でも……その……」
男エルフさんが耳元で囁いた。
「ら、裸体を多用したものもある、とか」
「……あるよ」
「ニポン、万歳ですね」
ニッポンな。
日本だけそんな本がいっぱいあると思わないでくれよ?
「彼は変態なので気にしないでください」
「うん……」
「それはそうと、女の子同士いちゃいちゃする本はございますか?」
「……あるよ」
「ニポン、万歳」
君も男エルフさんと同じにおいがするよ。
「戦争がほとんど無いというのは、本当です?」
「俺の住んでる国は戦争してないなあ、時々どっかで戦争が起きるけど。先ず日本ではそうそう起きないかな?」
「いいですね」
「平和そうですね」
エルフの国・エノワルアは機械国家・サンヴァルギと停戦状態――異世界の世界事情はあまりよろしくない雰囲気。
そのほかにも戦争が多そうな印象を受ける。
「お二方、あまり質問ばかりでは浩太郎様が困ってしまいますよ」
はっとして二人は姿勢を正した。
「俺から質問、していい?」
「ええ、どうぞ」
オウルエイスさんは質問したら何でもすんなりと答えを返してくれそうだ。
手に持っている手帳ができる女を感じさせる。
「サンヴァルギと停戦状態って聞いたけど、その理由は?」
「敵はエノワルアの領土が狙いなのです。この世界では領土が広げればそれだけ他国にも有利になりますから」
「領土……かあ」
「豊富な資源が大地に眠っておりますので、どの種族の国も領土拡大は意識しておりますね。その領土拡大に必要なのが、核という大地に眠っているものがでございます。それを支配するとその土地はその者の領土となり、その者の種族に適した魔力を放つのです」
ふうん、昔そんなゲームやった事あったなあ。
エリアを奪って広げていって、資源などの差をつけて戦力を拡大して敵をぶちのめすゲームだ。
「そのため、この世界では大陸の地図はあっても国境線が載った地図は無いのです」
「領土が変化すれば国境も変化するから?」
「その通りでございます」
予想外。
一見、平和そうな世界だが、領土が絡むとどの国も戦争に繋がりかねない不安要素があるじゃないか。
しかも俺のいるエノワルアとサンヴァルギは停戦状態? 勘弁してくれ。
「これにより――」
左右に座る二人のエルフは、小さく咳払い。
「……いえ、観光にこんな話は止めておきましょう」
もう少し聞きたかったが、この手の離しはあまりお勧めできないようなので俺も引っ込んでおこう。
「ただ、必要なご説明だけはしておきますね。領土には共有権というものがございまして」
「共有権?」
「――はい、我々エルフの領土では人間や人獣、精霊など交流のある種族には“言葉”の共有権を与えております。そのため、これらの種族が皆で話し合ってもその種族の言葉が他の種族も理解できるよう変換が行われるのです」
「すごいな……この世界じゃ翻訳家は廃業か」
あとほんやくこんに○くも必要ないな。
この世界の領土ってのはすげえ力が働くんだなぁ。
「ちなみに種族は人類、亜人類、天精霊、精霊、人獣、海種、天竜、土賢、幻魔が存在しております。他に特殊な種族もおられますが割愛させていただきます」
天精霊は現在はエルフ、天竜はドラグンという呼び名が浸透されております――と続き、この世界はまだ発展途上で名称も曖昧、そのうちまた呼び名が変わるかもと付け加えた。
どうしてこうもこの世界はぼやけてる部分があるのかねえ。
そこが気になるが、とりあえずは種族について理解を深めるとしよう。
「んー、聞いただけで大体想像はできるが、天精霊と精霊、それに人類と亜人類もそれぞれの違いは?」
「では先ず天精霊と精霊について。これらはほぼ変わりは無いのですが、精霊は体が小さいものばかりという体型の違いであり、魔力があれば半永久的に生きる事が出来るのです」
じゃあ魔力があれば不死?
とんでもない種族だな。
「我々天精霊と一番違う点は、人や動物、草木や無生物などに宿る事ですね」
「……宿る?」
「はい、溶け込んで宿ったものとエネルギーを共有し、魔力を得て過ごすのです。そして時には顕現もしますが、魔力を多く消費するのであまり見れませんね」
妙な種族だな。
守護霊みたいなもんだと思えばいいか。
「ふうん、ちょっと見てみたかったかも」
「このあたりは魔物も比較的少なく精霊が過ごしやすい環境のため、割りと顕現した精霊達を目撃できて、時には交流できますよ」
おお、それじゃあ見れるチャンスはあるんだな。
いつでも写メれるよう気持ちを引き締めておこう。
「亜人類に関しましては、彼らは魔法ではなく独特な能力を持っております。個性というのでしょうか、それぞれ何かしらの力を持っているらしいです」
「へー、力を……ねえ」
「その力を使って鉄や火薬、それに機械の発展もさせて独自の文化を築く事に成功した種族です」
ははあ、そりゃあ恐ろしいもんだ。
確かによく漫画で出てくる能力者とか、こいつら社会に貢献したらきっと経済発展に繋がるんじゃねえのって思ったけど、こっちの世界では実際にそれをやった奴らがいるようだ。
その結果、国家が出来るまでに至ったと……。
「土精と幻魔は?」
「土精はあちらの世界で例えるならば、物語で多用されるドワーフと言えば、想像できますでしょうか?」
「ドワーフねぇ」
解りやすい説明ありがとう。
「幻魔は、魔物……ええっと、日本でいう妖怪みたいなものでしょうか」
「妖怪、妖怪かあ……あんまり幻魔は会ってもお近づきにはなれそうにないかも」
「大丈夫でございますよ、幻魔種は森の奥や洞窟などに潜んでおりますので。それによく人類や土精を襲うのでもし遭遇してもすぐに兵士が駆けつけます」
思ったより危険そうだな。
「ご説明ばかりも退屈でしょう、ここらで観光に戻りましょう」
「それもそうだな」
この世界の種族の話も興味深くて面白いな。
観光もまた、同等だ。
「左手をご覧ください、昨日にもご覧になりましたがあれが巨大な一枚岩・エノワルア聖岩でございます」
窓から見えるのは遠くからでもそのどでかさが解る岩。
俺が最初にいたと思われる岩の頂上はエルフの城の半分ほどの高さ、あそこには正直もう行きたくない。
「僅かながら魔力を放出しております、浩太郎様の国ではぱわーすぽっとと呼ばれる場所のようなものでございますね」
ちゃんと魔力とやらが放出されるのならばこっちのほうがすごいね。
パワースポットってテレビでも取り上げられるけど何を得られるのか今一解らん。
「時々竜も休息の場としてやってくるのですよ。あっ、ほら、来ましたね!」
指差すやその先には、空の雲を真っ二つに裂いて――竜がやってきた。
羽を大きく広げその青いうろこは陽光に照らされて艶やかさを見せ、重量ある着地。
エルフも然り、竜も然り、俺の世界では空想として描かれていたもののその描写はかなり似ている。
誰かが見て描いたんじゃないかってくらい。
「すごいな」
「このあたりは充実した環境がありますので、竜や珍しい魔物も多く見れますよ。詳しくはパンフレットに載っておりますのでご覧いただけると幸いです」
可愛い魔物だったら見たいがそれ以外はNGで。
忘れかけていたパンフレットを開いて、後ろのページを見てみるとイラスト付きで魔物などの説明がされていた。
「この絵は?」
「私、絵を描くのが好きでして。日本の漫画を読んで勉強いたしました」
「上手いね」
「ありがとうございますっ」
嬉しそう。
いやほんと、普通に上手いんだよこれが。
影とかの描き方もすごい、一つ気になるのは紹介しているプチキャラみたいなのがほあたぁ! とかなんとか神拳をかましそうなくらい渋い顔でプチキャラなのがアンバランスすぎる。
腹筋ばきばきに割れてるし。
台詞は『お前はもう……好んでいる』とかちょっともうあれ意識してるよね!?
そんなパンフレットを見つつ、それから数分後、目的地シートレンに到着した。
「おお、ここがシートレン……か!」
「ええ、活気溢れるいい街ですよっ! それでは街を一通り回ってみましょう」
地面は石畳、建物も木製は少なくコンクリートのような材質を使用しているのか、硬そうな白いものばかり。
ちょいと通りかかった一軒の壁を触ってみると手触りは意外とすべすべしていた。
うーん、異世界の建物って興味深い。
伸びる大通りと呼べる道には人、人、人。
わいわいと皆が言葉を交わしてまるで車両が通る交差点の真ん中に立っているみたいに騒がしかった。
「なんかすごい!」
もう少しマシな感想を言えないのかな俺は。
「エルフもこの街はよく利用します。素晴らしい街ですよここは」
中央には噴水が綺麗なしぶきをあげ、その周辺には行商人が活き活きと商売をしていた。
所々に塔のようなものが建っており、何だこれはと見上げていたら、小柄な竜がどこからか飛んできてそこへ着地。
「おおぅ!?」
何気に梯子がついており、乗っていたと思われる男性が梯子から降りてきた。
「さあー、商売するかー」
活気があるってのはいいねぇ。
「他には人獣族もおりますね、彼女達がそうです。猫耳萌えというものです」
妙な説明だったが、見てみると行商人とやりとりをしている女性の頭部には猫耳、シッポも生えている完璧な猫耳っ娘がそこにいた。
「萌えるな」
「まったく猫耳は最高ですね」
オウルエイスさんとはこの手の話で盛り上がれそう。
賑わいのある大通り、そこを通り過ぎると広場に通りかかった。
子供達がボールを追っかけて遊んでいる、それも人間とエルフ、人獣の子供達がだ。
「いいね」
「まったく幼女は最高ですね」
「眼福ものだ」
オウルエイスさんと視線を交差させた。
互いに「出来るやつだ」と言わんばかりの視線。
「平和そのものって感じの街だな、人間の営む街ってことはここの領土は人間が得ているのか?」
「ええ、そうですよ。大地の核を得ているのはこの街の長でございます。様々な種族が集まる街なので、人類に領土支配をしてもらって、我々エルフ族がサポートすという形になっております」
「エルフ族は領土支配をしようとは思わないの?」
ここでも魔力供給ができるようになればそれは有利なんじゃ?
「どこもかしこも支配しては信用問題に関わります、領土を支配しないのは人間と我々は平等であるという主張なのです。不便が生じても共有権を交し合えば済む話ですし。人獣族も同じ考えなのでしょう」
「そういう事ね。ああ、そうだ、気になったんだけど人間の領土はどれくらいあるんだ?」
「ここと、南側に魔馬で数日ほどかかる距離にございます。向かうのは大変であろうかと」
今回の観光にはそこへ行く予定は無いっぽい、パンフレットを見てみてもエルフの城周辺の観光しか書かれていなかった。
こっちの世界の人間はどんな生活をしているのか、行ってはみたいものの遠いのは仕方が無いな。
ただこうしてこの街を歩いて思うのは、機械類はまったく無い世界である事から、日本などそういった俺の中にある現代というものはおそらく欠片も無いに違いない。
本当に異世界――なんだ。
移動には馬が基本、時折空を飛行する竜も誰かが乗っていたから俺の世界でいう飛行機みたいな移動手段の一つなのかな。
ぱっと見では、昔の文明と近いがやはり俺の世界では空想の産物だったものがごろごろと存在しているのが大きな違いだ。
「どうぞ買っていってくださいな!」
「ほらほらこっちもどうだい!」
おやおや、さっきよりも騒がしい場所に入っちまったな。
右を見ても左を見ても露店、一つでも買っていってもらおうと品物をぐいっと突き出してくる。
「すごいとこだねっ」
「さきほどの行商人は主に旅人用で、こちらはここら周辺の人達への生活に必要なものを取り扱っているところなのです」
ああ、それでさっきより子供連れの女性が多く見られるようになったのか。
「ママー、あの人の服何ー?」
「旅芸人かしらねぇ」
学生ですよ親子さん。
その他に、「暑そう」「黒服ってちょっと怖い」「あれ、オウルエイス様じゃ?」「オウルエイス様、美しい……」「あの冴えない男は誰だ?」「何故オウルエイス様と一緒に?」さりげなく俺の心を傷つけるひそひそ話は俺の耳に入らないとこでやってほしい。
オウルエイスさんは意外と皆には知られているようだ。
それも人気者?
注目を集め始めたのでエルフ二人が警備を回るがね、本来は俺を守るための二人なんじゃないの?
いつの間にかオウルエイスさんの左右に立ってて俺はどうでもいいみたいな感じになってない?
気のせい? 違うよね? おーい。
「移動しましょうっ」
「賛成だっ」
俺じゃなく、彼女のために。




