その51.納豆を作った人、おめでとうございます。
ラノベとかさ、漫画とか、アニメとか、なんでもいいがそういうのにはたまにこういう一文が利用されないか?
見知らぬ天井。
これこれ。
まさに現状がこれ。
まだ寝ぼけてるのかな俺。
ああ……夢じゃないんだった。
ここは、異世界だ。
その思考に至るまで数分掛かった。
「……うぐぐ」
もう一度夢か現実かの確認のために、頬を抓ってみる。
結果、痛い。
起きたはいいものの、どうすりゃいいのか解らんな。
そういや円陣台外側の球体? を触れればいいんだっけ。
その前に着替えをして(制服だけど)おく。
洗面所にはちゃんと歯ブラシやらタオルやら、それに多分あっちの世界で買ったんだろう――市販の歯磨きに加えて髭剃り道具も一式揃っていた。
俺は髭が薄いタイプだから必要はないが。
準備完了、さあて、円陣台とやらに触れてみるとしよう。
「……大丈夫だよな?」
恐る恐る、触れてみる。
すると、かすかな音がしばらく続いた。
数秒後にはゆっくりと床が開くやすぐにオウルエイスさんが現れた。
「おはようございます!」
ハイテクだ、我が家に欲しいな。
「おはようっす」
「お食事のほう、準備させていだきました。早速頂きますか?」
「そうだな、頂くよ」
あの豪華な料理からして、朝食もさぞ豪華に違いない。
この世界の料理はすごいもんばかりだぜ。
再び最上階へと上がり、アルヴさんとご対面。
「おはようございます、浩太郎様」
「おはようございます」
「お座りください、今日の朝食もまた、お気に召されるかと」
ええ是非ともお座りいたしますぜ。
意気揚々と俺は着席して、運ばれてくる朝食を楽しみに待つとした。
「あなた方の世界では朝食は大事であり、浩太郎様の国ではこのような朝食が一番と聞きました! 食材もあちらから仕入れてきたものばかりでございます」
目の前に広がったのは、目玉焼きと味噌汁、白米に鮭、それに納豆だった。
えっ。
心の中で驚いた。
既に顔に驚愕が出ていたかもしれない。
「お店で提供しているのはこちらのほうもあるようですね」
追い討ちだぜと言わんばかりにトースト、スクランブルエッグとウインナーが追加された。
和食と洋食が見事に入り混じっている。
飲み物は牛乳と紅茶、コーヒー。
この人達は俺に朝食審査でもしてほしいのかな?
アルヴさんの『さぞ喜ぶに違いない』と含ませたその笑顔が眩しい。
「わ、わあ~! 嬉しいなあ! うぉぉ! うめぇ……!」
「ふふっ、喜んでいただいて何よりです!」
是非夕食はこの世界でしか食べられない料理を頂きたい。
「浩太郎様、このなっとー、というものは、どのようにして頂くのがよろしいのです?」
「納豆かあ、それは和食初心者には難しい食べ物ですよ……」
醤油があったのは救い。
「これをちょっと入れて、かき混ぜてですね」
手取り足取り教えるとする。
どうして異世界で俺は納豆の食べ方を教えているのか、ものすごく謎だ。
「ふむふむ」
オウルエイスさん含むエルフ三人と、対面のアルヴさんに注目されながら納豆をかき混ぜている俺。
「ご飯の上に乗せて食べるんです」
「「「「ほほぅ……」」」」
外国人へ日本の納豆講座を開いている講師とはこんな気分なのかな。
「香りが独特ですね」
「納豆ってそういうもんなんですよ。正直食べられない人もよくいます」
果たしてアルヴさんはどっちか。
見よう見まねで納豆をご飯に乗せて、彼女は口に運んだ。
「むむっ……」
眉間にしわが寄った。
駄目……か。
「美味しいです!」
大逆転勝利、やったぜ。
納豆を作った人、おめでとうございます。
異世界のエルフが納豆を頂いて感動して今ぱくぱくフォークで食べてますよ!
世界を跨いで好まれましたよこの納豆!
「あっ、ああっ……!」
周りのエルフ達が羨ましそうに見ていた。
「同席してなっとーを食す事を許可します」
「「「ありがたき幸せでございます、アルヴ様!」」」
その結果。
テーブルでは納豆を食する四人がいた。
異世界最初の朝は、なんとも言いがたい楽しさがあった。
あと妙に納豆臭かった。
けどまあ、それなりに満足したのでよし。
エルフ達は納豆が健康にもいいと教えたら俺以上に満足していて何より。
彼女たちの口には納豆は意外と合うらしい。
そんでもっていよいよ俺は異世界観光をすべく城の外へ。
昨日は他のエルフの姿をまったく見かけなかったが、今日はどこから湧いてきたと聞きたいくらいに城から出るや数え切れないほどの老若男女様々のエルフ達がいた。
俺の見送りに馳せ参じてきたのかな。
それぞれ興味深そうに、にこやかに俺を見て小さな拍手をする者もいたり。
何か照れるなあ、こっちの世界に来てこれといって特に何もしてないし、何かしたとすれば納豆をかき混ぜてたくらいだからなぁ。
制服というのもこの世界ではどうやら興味深い一つのようだ。
この服はエルフにはやはり見慣れぬものでさぞ珍しいのだろう、何人か近寄ってきて、服を触って深々と頭を下げられた。
別に聖なる服で聖服っていうわけじゃないから、そんな神々しいものに触れてしまったみたいな大袈裟なリアクションは止めてくれ。
あっ、子供のエルフ発見。
可愛いな、ぱっちりとした青い無垢な瞳でじっと見て――目が合うや笑顔。
俺の住む世界にもエルフ欲しいな……。
そんな中、オウルエイスさんとエルフ二人が俺をまるで来日した大統領のように囲みながらの移動は、安全ではあろうがものすごく落ち着かない。
昨日から落ち着ける時間が少なくて困る。
誰か知人が一人でもいたらいいんだがな。
誰か……蔵――
「なんでもねえ!」
「ど、どうしましたっ!?」
「あっ、いや、なんでもない……」
本当に、なんでもない、うん、なんでもないんだ。
俺は昨日に受け取ったパンフレットを開いた。
今日は観光が終わったらとりあえず一度あっちの世界に帰れるんだ。
安心して観光すりゃあいい。
――と、自分に言い聞かせた。
「パンフレットの、その3をご覧ください」
見てみる。
「人間の営む街、しーとれんにいこう……?」
「左様でございます、距離があります故、馬車で移動しましょう」
颯爽と目の前に馬車が現れた。
この世界でも馬は俺の知ってる馬とかなり似てるなぁ。むしろそっくり。
老紳士な雰囲気を醸し出すエルフはわざわざ馬車から降りて深々と頭を下げてくる。
「本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく、ですっ」
そこへ新たなるざわつき。
それはさっきから視線を感じた城周辺にいた大勢のエルフ達からだ。
振り向いてみると、城から一人のエルフが出てきた事によってざわつきが生じていた。
そのエルフとは――長のアルヴさんだ。
わざわざ見送りに着てくれたのか、嬉しいね。
「本日はご同行できず、申し訳ございません」
「いえいえ、お気になさらず」
同行してくれたら緊張して一日中動きがロボットみたくなってしまいますよ。
「オウルエイス、くれぐれも粗相のないように」
「この命にかえて、浩太郎様をご案内いたします」
……観光に命張らないで。




