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その49.一番の謝罪はドゲザと、セップク

 先ほどのエルフ達は俺を護衛するかのように左右へ肩を並べて、いよいよ俺は城へと足を踏み入れた。

 大広間は思わず足を止めてしまうくらいの迫力、すごい……まるで世界文化遺産にでも観光しに来た気分だ。

 三階くらいまでぶち抜いたように天井は高く、巨大なシャンデリアを中心に装飾が天井を埋め尽くして、四方の巨大な窓から差し込む光に反応してそれらは一つ一つ様々な輝きを宿していた。

 しばらく俺の視線は天井に固定されてしまった。

「こちらがエルフの地で採掘される宝石を使ったエルフ族伝統、宝翼天<ほうよくてん>でございます」

「……写メ撮っとこう」

 パシャリ――とすると左右の二人は俺の持つ携帯電話を不思議そうに見つめてきた。

「……これ?」

 二人は小さく頷く。

「ほら、これで撮影して、ボタンを押せば保存できるんだよ」

 オウルエイスさんは携帯電話は理解しているようで反応は無かったが、他のエルフにはこれは珍しいものらしい。

「すごい」

「あちらの世界の人間は、サンヴァルギの技術を所有しておるのですね?」

 サンヴァルギ?

 えっと、機械国家? だっけ。

 サンヴァルギの技術がどこまで進歩しているのかわからないから比べようがないな。

「まあ、そんなとこ」

 とだけ、言っておく。

 すると二人は呻らせて関心。

「そこの円陣台にお立ちください」

 大広間の中央には数センチほど突き出た円状のものがあった、それが円陣台っていうもののようで、俺はそこに立つとした。

 全員が立つと、円陣台は青白く光り、ゆっくりと浮上。

「おおお……」

 俺はリアクション芸人ではない。

 そのために驚きは「おお」とか「おおお」なんていう阿呆で単純な言葉しか出てこない。

 ここですかさず「ヤバイヨヤバイヨ」って反応できるのはきっと某芸能人くらい。

 天井を見上げると、螺旋を描きながら円陣台が十分に通れる大きさに開き、通過していく。

 その繰り返しは数秒ほど。

 上昇する速度は速いのに、抵抗が何も感じなかった。

 目を閉じれば浮上している事さえ解らない。

 これも魔法によるものなのだろうか。

 理屈を理解しようとしても俺には無理だな。

 到着した最上階、巨大な一枚窓が先ず飛び込んできた。

 湖を見渡せて、絶景としか表現できない光景。

 しかも――その窓の前には円卓のテーブルがあり、そこには豪華な料理がびっしりと並べられていた。

 俺のために用意されたものですよね、うん、そうに違いない、早く食べたいっ。

 あっちの世界でならうわぁ~い! って飛びついていたであろうが、我慢しておこう。今は俺のちょっとしたギャグについてきてくれる人は皆無。

 しかし……椅子が二つしかないのはどうしてだ?

 ここには四人いる、明らかに椅子は足りない。

「ささ、どうぞどうぞ」

 誘われて、俺は椅子に座った。

 左手には景色と共にオウルエイスさんが立ち、コップにオレンジジュースっぽいのを注いだ。

 二人のエルフは円陣台を挟むようにして並んで直立。

 ……やり辛い。

 接待されている感じがするのは悪くないが、二人の興味は俺にあるようで、じっと俺を見ているし。

 わけもわからずに接待されるってのもなんだかな。

 悪い商売に足を突っ込まされるんじゃないかとか、不安が押し寄せてくる。

 早いとこ帰りたいんだがしかし、目の前の料理を味わいたい自分もいる。

「恐れながら、少々お待ちください」

「……誰か、来るんですか?」

 俺は空席に目をやった。

「はい、エルフの長でございます。今回貴方様をこの世界にと提案したのも長様なのです」

 ……なんか緊張するな。

 俺は静かに風景を眺めながら待つとした。


 円陣台が沈んだのは数分前の事。

 そこへと目をやると、青白い光が徐々に強くなっていっていた。

 そろそろやってくるのかな? そんな雰囲気。

 円陣台の近くにいたエルフが動き出し、それぞれ円陣台へと振り向くと、そこに――エルフの長は現れた。

 腰まで伸びる長い銀の髪、純白のドレスは魔法によるものなのか、床の上すれすれのところを靡いていた。

 スカーフもまるで意思を持っているかのように、彼女の肩と腕へと軽く纏っており、パッと見で浮かんだのは――魅惑的で、幻想的で、思わず口が開いてしまった。

「貴方が、忍野浩太郎様ですね?」

「あ、は、はい!」

 反射的に立ち上がって頭を下げた。

 そうしなきゃ無礼な気がした。


「初めまして、私はアルヴ・アルフレイムと申します。そんなにかしこまらないでください、私どもが貴方をお呼びした故、貴方は貴重なお客様です」


「はあ……ど、どうも」

 他のエルフよりも耳が横に長いな。

 外見は二十代後半くらい、長いまつげに吸い込まれるかのような青い瞳はこのまま目を合わせていたら夢の中に飛び込んでしまいそうだ。

 彼女は俺の向かいの、空いた席に座り、天使のような微笑を浮かべた。

 天使のようなといっても――リアル天使の豊中さんのような笑みではない。

 あの人は悪魔のような天使だから。

 おっと、こんな事考えちゃあいけないね、殺されてしまう。

「突然のご招待、ご迷惑をおかけいたしました。お二方の様子を見てはおりましたが、オウルエイスが早とちりをしてしまったようで」

「まあ……そうですね」

「浩太郎様、誠に申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます」

「お、長様! 私が頭を下げなければならないのに、長様が下げる必要は……!」

「下の者に謝罪をさせて済ますような無礼者に私は、なった憶えはないのですよオウルエイス」

 素晴らしい品格、人間の鑑として皆に紹介したいものだぜ。

 ……ここは、エルフの鏡として紹介するのが正しいか?

 それはともかくとして、こうも下手に出られると戸惑っちまうな……。


「あなた方の世界の日本では、一番の謝罪はドゲザと、セップクと聞きました」


「やらなくていいですよ!?」

「いいのですか?」

 本当にそんなのが一番の謝罪になってたら今頃日本では土下座社会による切腹での死者で溢れてしまう。

「ええ、むしろやらないでください」

「解りました、そう仰るのならば……」

 その右手に持ってるナイフをとりあえず置こうか、ちょっとワクワクしてやりたそうだけど実際何の楽しくもないからね?

「では、お食事に致しましょう。さあ、どうぞどれから頂いても構いません。大皿のものはオウルエイスに申すれば切り分けて皿へと移しますよ」

「じ、じゃあ……頂いちゃおうかなっ?」

 ナイフとフォークを持って食事準備完了。

 中央にあるのはブロック状の焼いた牛肉のようではあるが、この世界の動物か何かなのであろう。

 他もそうだ、鶏肉、豚肉、それに野菜、全てがこの世界のものではあるが、食べ物は世界が違っても、食欲をそそらせる。

 オウルエイスさんに食べたいものを言うと、指定した料理の大皿は底が光り、浮遊して近くへと寄っていき、目の前で切り分けてくれていた。

 演出というより、この世界ではこういった魔法を活用して何かを動かすのが主なようだ。

「う、美味い……!」

 一口食べて、外はカリカリ、中はジューシー、溢れる肉汁が口の中に広がるそれは――まさに牛肉。

 最高級の牛肉ってこういう味がするのかもしれん。

 この世界でならこんなに美味しいものが日常的に食えるとしたら、異世界も中々いいかも。

「食用の魔物、それにこの世界の動物などを使っております。あちらの世界の人間の方々に調理法を学び、浩太郎様のお口に合うようにと頑張りました」

 魚もあったがその外見は刺々しく黒色、こんなのが美味しいのかあ……? と一口頂いたら――涙が出そうなくらい美味かった。

「くほぉぉ……」

 身はとても柔らかく、お茶漬けにぶち込んでかきこみたくなるね。

 食材に関しては、こっちの世界のほうが上かな。

 つっても俺は自分の世界の食べ物を全て食べつくしたわけではないけれども。

 堪能するだけ堪能して、あちらの世界では味わえない美味しさに舌鼓を打って大満足の吐息を漏らした。

「満足していただいて何よりです」

 オウルエイスさんは嬉しそうに言う。

「浩太郎様をこちらへお招きした目的、ご説明してもよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論」

 食後のデザートなのか、オウルエイスさんはパフェっぽいのを添えてきた。

 白と茶色、は生クリームとチョコレートを感じさせる。頭には小さな果実。

 いやはやまいりましたなぁ。


「現在我がエルフの国・エノワルアとサンヴァルギは長く争いを続けてきました。このままでは大きな戦争へと発展しかねません」


「せ、戦争……ですか」

 大丈夫なの? こうしてゆったり食事してて。

「現在は停戦の日々が続いておりますので、ご安心ください」

 けどいつそれが解けるか解らないよな、不安が一気に押し寄せてきたんだけど。

「オウルエイスは貴方の世界で長く過ごして調査しておりました、貴方の持つ力は、世界を変えられるほどとの事ですが」

「そ、そうらしいですね……まさか……」

 俺の立ち位置を狙ってるのか……?

 だとしたらマズい、非常にマズい。

「いえいえ、誤解なさらないでください。貴方の力を奪うつもりはございません」

「そ、そうなんです……?」

「貴方の強力によりこの世界を平穏に導いてくれればと思いまして」

「あ、ああ……そういう、事ですか」

 といっても、完全には信じられんが。


「正直なところ、その立ち位置という力、欲しいと思ってしまいます。ですが私がそれを手に入れてもきっと世界のバランスを崩すだけ。相手国に貴方の存在、それにその力を知られるのもまた争いを起こしかねません。やはり秘密裏に、第三者にこの世界のバランスを整えてもらうのが無難であろうかと」


 話はわかったが、これはかなりの難関だ。

「……けど、バランスを整えるといっても、どうしたら」

「そうですね、立ち位置というのは非常に繊細らしいですから、私達もどうしたらと言葉を重ねるしかございません」

 肩をすくめるアルヴさん。

「ただ、貴方をこうして接客して、この世界を十分に知ってもらえれば、きっと立ち位置はこの世界に貴方の平穏を願う心が影響すると――私は思いました」

「うーん、どうなんですかね。立ち位置がこの世界でも影響するかは、解りませんし……」

「何はともあれ、私どもは貴方へのおもてなしを考えております、あちらの世界との交流は少しずつ試みたいので、是非お受けしてもらえませんでしょうか?」

 つまり。

 まとめると、だ。

 俺の立ち位置は俺の世界観が何かに特化してもおらず、世界が乱れもしないからこの世界に来る事で平穏な世界観を作ってもらえないだろうか――と。

 けどなあ、俺は立ち位置を利用して世界を変えるってのも意識してやった事なんかないし、ちょっとした事を望んでも全然それは叶っていない。

 たまにね、考えるんだよ。

 世界が平和にならないかなぁ~とか。

 それでも世界は変わらない。

 強く願っても然りだ。

 立ち位置はもしかしたら、あくまで俺の抱く世界観に影響するだけで世界事情までは変えてくれないんじゃないかと俺は思う。

 そこらへんは蔵曾に聞いてみればいい話だし、まだ立ち位置については解らない事が多い。

「多分、俺には無理だと思います……残念ながら」

「そう……なのですか?」

「ええ、世界観を変えられても世界事情は、きっと変えられません」

「しかし試してみるというのも、一つの手では? ほら、何事も挑戦でございますよ?」

「どう、ですかね……」

 きっと期待には応えられない。

 はっきりと言えばいいのに、必死にすがるアルヴさんを見ると言葉がどうしても喉で突っかかってしまう。

「この世界をよりよく知ってもらうのはどうでしょう? 浩太郎様の世界観にこの異世界を加えてくださればもしかしたら魔法を使わずとも行き来できるかもしれませんし、あちらの世界の者達がこの異世界を知ってくれれば何かしら交流を得られるかもしれません。それに折角ですからよかったらこの世界をご案内したのですが」

「そ、それは、はい、いいですよ……」

 アルヴさんの勢いに押し負けた。

 断れない俺の馬鹿。

 本当は早く帰りたいのに!


「嬉しいです!」

「案内ならお任せください!」


 オウルエイスさんは瞳を輝かせてずいっと体を寄せてきた。


「あ、ああ、頼むよ」


 素直に断れない自分が憎い。

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