その48.死亡フラグを振り撒いてのご帰宅はおやめください!
落ち着いてきた。
そうだ、街でこの人(?)に話しかけられていきなり異世界へ連れてこられたんだったな。
「あの」
「はい、なんでしょうか?」
「帰っていい?」
「ど、どうしてですっ!?」
そんなに驚かなくても……。
「異世界とか、もう、うん、解ったんで」
あー、いい景色。
機械国家サンヴァルギとやらはここから見ても高い建物が多い、東京の一部を東京タワーから見てるかのようだ。
それ以外は地平線まで眺められるときた、ものすごい景色。
今俺のいる場所は、巨大な岩の上のようだ。
エアーズロックのような、本当に巨大な岩、この広さなら野球でもできそうだな。しろと言われても絶対しないけど。
帰る前に是非この風景写メらせてくれ。
俺は携帯を取り出して、一枚パシャリ。
「記念写真も撮ったんで」
「困りましたね……私は異世界移動魔法を使えないのです、てっきり長居してくれると思っておりまして……異世界移動魔法使える魔法師とは同行してていないのです……」
「な、んですと……!?」
彼女は顎に指を当てて声を呻らせる。
「こ、こんなとこにいられるか! 俺は帰るぞ!」
「死亡フラグを振り撒いてのご帰宅はおやめください!」
つーか俺、この岩をどうやって降りればいいの?
軽く下を覗いてみたらいつだか修学旅行で東京観光に行った時に、タワーの観光エリアで下を見下ろしたのを思い出した。
――あれよりも高いな。
引きつりながら俺は笑う。
「仲間の下へ行きましょう、そうすればいつでも異世界へ戻れます。私としましてはすぐには戻ってほしくありませんが」
「あんたの目的は何なんだ……?」
「それはゆっくりとお話できる場所で、いかがですか?」
「ああ、そりゃあ賛成だ」
自分が予想以上の高所にいると解ってから落ち着かない。
俺、あんまり高いとこは好きじゃないんだよ。
「私の手をお掴みください」
言われて腕を掴むと彼女はまた詠唱を始めた。
俺の知る言葉ではない、漫画などでよくある光景が目の前で繰り広げられていると、妙な感じ。
自分がその世界に入り込んだんじゃないかって、錯覚してしまう。
オウルエイスさんの背中には青い翼が浮き上がり、するとどうだ、俺と彼女の体がふわりと浮き始めた。
「うおぉ!?」
「浮遊魔法でございます」
……あんまり下は見ないようにしよう。
彼女と手を握っていれば落ちないようだが、手を離せば落ちる――当然の事を考えて、俺は今青ざめている。
「どうですか? この世界、素晴らしいでしょう?」
「あ、ああ……そうだなっ!」
感動していられる余裕は無いがね!
ゆっくりと降下していくも、先ほどの足場が早くも恋しくなってくる……。
こちらのほうでは季節は夏に入ったあたり?
暑すぎではないが、外にずっといれば汗を浮かべるくらいの温度だ。
俺の住んでる世界では涼しい空気とそれほどギラついてはいない太陽、ああ、早く帰りたい……。
こういうのって大抵帰れなくなるからな。
……いやいやいや! そんなの考えないようにしよう! 俺は帰れる! 絶対帰る!
「こちらをどうぞ」
折り畳まれたやや堅めの紙を貰った。
見た目は完全に観光のパンフレットっぽいんだが、今は片手が塞がっていて読み辛い、あとで読んでおこう。
「是非観光案内を致したいのですよ、それにこの世界の食べ物もご賞味してほしいです!」
これから様々なサプライズがあるから早く見せてやりたいといった――純粋な瞳で彼女は俺を見てくる。
どうしよう、ものすごく帰りたいのに。
ありえないくらいホームシックにかかってるのに。
何でだろう。
……状況の変化は多少慣れてはきたはずだが、何かが、俺を焦らせて、心細くさせている。
……ノア。
……薫。
……。
……蔵曾?
蔵曾がいないから、心細い?
……いや、えっと、なんつーか。
……異世界という未知の領域に踏み込んでしまっただけ、ああ、それだなっ。
大地に両足を着いて俺は小さなため息をついた。
あの浮遊魔法とやら、これからはそんな移動は是非とも避けてもらいたいね。
「先ずは私達エルフの住処である城へと向かいましょうか」
「……ああ、解ったよ」
どうあがいたってどうにもならん。
彼女に行動は全て任せるとする、今すぐにでも帰りてぇぇえ! と駄々をこねて叫んだところですぐには帰れないのだから。
すぐに帰れるとしても俺のために折角異世界からやってきてもらったのだから、申し訳なくも思って、言葉がうまく出てこない。
右を見ても左を見ても森。
大自然の中に俺は立っている。
遠くから聞こえるのは動物の声であろうか、聞いた事のない鳴き声からどういった動物かは想像しづらい。
「ここはエルフの国・フェルアルビオネでございます。国は広く、しかしこの森含む自然は土地の七割を占めている自然国家なのです。又、エルフは魔法に長けておりまして、魔法国家とも呼ばれておりますね」
「へえ、なんかすごそう」
いよいよファンタジーな話になってきたぜ。
蔵曾がいたら興奮してメモとってるだろうな。
「ここの平穏を求めて魔獣も多く生息しております、水や木々からなる果物、地に生えるは食せばその濃厚な味わいと食感が幸福へと至らせる野菜も多々ございます」
「ちょっと食べてみたいかも」
「城に調理したものをたくさん用意しておりますので、是非お城へ!」
「う、うん……」
まあ行くしかないよな。
しかし何だ。
俺の世界じゃあ水も果物も野菜もある森林なんてない。
この環境を分けて欲しいな、ちょっとした楽園を築けそうだ。
「パンフレットにそのあたりの説明は載せておいてますので、ごゆっくりとお読みください」
そうそう、パンフレット受け取ってたんだった。
早速見てみるとしよう!
開いてみると『いせかいをかんこうしよう! その1! エノキノルだいしんりん!』が目に飛び込んできた。
日本語で書かれてはいるがほとんどがひらがなだ。
漢字の表記は苦手と見た。
「ほほう」
一ページ目には異世界についての説明がひらがなで書かれていた。
この世界は、ノリアルというらしい。
多くの種族がいる世界、大大陸と呼ばれるものは二つあり、自分たちは西側のボルアニス大陸にいるとな。
「ボルアニス大陸、ねえ」
「はい、ここからでは見えませんが、東側に大海原がございまして、その先にもう一つの大大陸、アルカンディウス大陸がございます。大海原の中央には浮遊する島がありまして、あちらの世界でのファンタジーな要素はこちらでは当然の如く存在しますよ」
世界一周旅行でもしたら俺の世界観が滅茶苦茶変わってしまいそう。
「あちらの世界では驚きました、人間は想像だけでこちらの世界が解ってしまうのですね」
「想像して妄想するのが得意だからな」
退屈がそうさせたんじゃないだろうか。
あっちの世界はさあ、何も知らないと本当につまらなくて退屈な世界なんだ。
少しだけ最近は退屈しないもんが出てきたけどね。
ま、それはいいとして。
二ページ目にはこの周辺の地図が記載されていた。
大きな白いものはさっき俺が尻をついていた岩に違いない。
その岩から北西のところに城らしき絵が描かれていた。距離はそれほど無いようだ。
……この赤い点はなんだ?
「あの、これは?」
「それは現在位置を示すものでございます、貴方の行動とリンクさせていまして。そのですね、気合を入れて魔法を使用しました!」
「気合入れすぎぃ!」
少し歩けば赤い点も少しずつ動いていた。
なにこのハイテクパンフレット。
歩く事数分、
「これは貴方のいう世界で、りゅんごのようなものです」
「りゅんご?」
……なんだろそれ。
木からもぎ取られたそれは、赤く手に収まる程度の大きさ。
丸っこくて艶があるものといったら――りんご?
「どうぞどうぞ」
受け取って、まじまじと見てみる。
うん、りんごだ。
食した感想を求めているようだ。
勇気がいる、なんていったって異世界の食べ物だからね。
恐る恐る俺は軽くかじってみた。
しゃりっとした食感、甘酸っぱさが口の中に広がったそれはまさにりんご。
……こっちの世界のりんごのほうが、美味しいかも。
確実に、ああ、確実にこっちのほうが美味しいな。
果汁も豊富で軽く絞るだけでジュースとして飲めそうだ。
「美味しい」
「よかった! この世界の食べ物を一つ残らずご堪能くださいませ!」
「一つ残らずは難しいかなぁ……」
それから数分後、俺はどでかい扉を見上げていた。
森の中に建つ城門、外国の観光スポットでこんなの見た事がある。
ただしそれよりも目の前のこいつは大きいがな。
扉はゆっくりと開かれた。
左右には彼女と似た容姿をした男女らが俺を見るや会釈。
「どうぞお入りください」
中からはひんやりとした心地いい空気が流れてきた。
魔法かなんかで温度調節でもしてるのかな?
「そろそろお昼時でございます、お話をしながらお食事でも、いかがですか?」
そうだな、気を失っていたのは数時間ほどな気がする。
腹のほうも空腹だと騒ぎ始めていた。
いつでも戻れるのなら、逆に異世界を堪能してから戻ってもいいんじゃないか?
よし、満足するだけしてから帰ろう。
「じゃあお言葉に甘えて」
彼女が俺を異世界につれてきたかった目的も聞きたいしな。
門をくぐると、全体像が大体解ってきた。
城壁は城を囲むように円を描いて建てられており、まるで高層ビルが寄り添って重なりあったような城が空へと伸びていた。
大地からは草木が伸びて、城へと巻きついていて一つのアートにすら見えてくる。
いいね、観光スポットにやってきたみたいで。
にしても高いな……。
何階まであるのだろう、最上階には行きたくないな。
出来れば一階あたりでゆったりとお話したいね。
「それでは最上階でお食事といきましょう!」
そっかぁ……。
最上階かぁ……。
今日はもう高所には行きたくないけど、仕方あるまい……。




