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その44.ノア、頑張れ!

 蔵曾の引きこもりが早い段階で阻止できたのは良かったと思う。

 おかげで蔵曾は外に出て、現在後方の電柱の影にいた。

 それも、鬼全と一緒にだ。

 ……尾行がバレバレすぎる。

 朝から視線は感じていたが、時間が経つにつれて雑になってきているぞお前ら。

 授業中なんか窓から見える木によじ登ってこっち覗いてただろ。

 鬼全は俺を観察して弱点でも探ろうってのか?

 蔵曾も蔵曾で鬼全側についていい噛ませ犬の養育中ってとこかね今は。

「な、なんか、いつもより視線を多く、感じるっ」

「俺もだ」

 今日はノアと二人きりでの帰宅だ。

 薫は今頃バイト先に向かっている、バイトは皆には知られたくないようなので急いでこそこそと向かっているんだとよ。

 大変だねぇ、中身が男なだけあってどんな気持ちで接客してるのかなあいつは。

 つってもメイド姿も悪くは無いとか言ってたな……本人は意外と乗り気なのかも。

 俺達に見られるのは嫌ってだけでさ。

「まあ、気にしなくていいだろ」

 後方にはノアと一緒に帰りたい勢の他に、別な方向からの視線も二つある。

 それぞれが帰路へ着いて徐々に人数が減っていくや、


「よしっ、こっちにこい!」


 鬼全は動き出した。

「あ、おいっ!」

 まだ街中だってのに、ノアを連れてわき道へ入ってしまった。

「わ、わわぁー!?」

 ノアのアホ面が完全に見えなくなったところで俺は深いため息をついた。

 蔵曾は何を求めている?

 この後俺が「ノア!」とか叫んで追いかければいいのか?

 台本でもよこして欲しいものだな。

 この後ノアを追ってください、主人公のモデルなので主人公らしく! 的な台本をさ。

 よこされたらよこされたでそりゃあ俺は台本を破り捨てるがな。

「……帰るか」

「おい!」

 あ、わき道から鬼全の顔が出てきた。

「こいつがどうなってもいいのか!?」

 随分と手早いな。

 鬼全はノアを見せてくると、ノアの両手はもう縛られていた。

 蔵曾も鬼全に積極的に協力してるとしたらこの後俺はあいつの頭に拳骨をかましてやるとしよう。 

「いいよ」

「えっ、ちょっ……」

「こ、浩太郎君……」

 ノアが涙目になって俺を見た。

 まいったなぁ……。

 そんな拾って欲しい子犬みたいな目をするんじゃないよおい。

「やっぱよくない」

「よく言った!」

 なんで俺、敵に褒められてんの?

 二人はまたわき道へ姿を消してしまった。

 追いかけるとするか……。

 わき道に入ると二人の後姿を発見。

 お隣は飲食店、ゴミ箱が置かれていて道は狭く感じた。

 奥に進んでいく二人だが鬼全はどこへ向かってるんだ?

 街中のわき道は行き止まりが多いぞ?

 あんまりわき道ばっかり使われると清掃も大変で不良に屯されるのも困るからって金網を張って対処したんだよな。

「行き止まりだとっ!? み、道間違えたか!?」

「それは残念だったな」

 追いついた。

「ぜぇ……はぁ……ちょっとタンマ……」

 相変わらず体力無いなぁ……。

 背中に背負ってるギター重くない? 大丈夫?

「ノア、大丈夫か?」

 ノアは自分の置かれた状況が飲み込めず、俺を見て縛られてますアピールなのか両手を上げていた。

「よし、大丈夫だな」

 さっきも確認したよそれは。

 それより縄を解けないか少しは試みてくれ。

「くっ、折角用意した罠が……」

「罠を用意してたのか、警戒しておこう」

「言ってしまったぞ!」

「聞いちゃったぞ」

「ぱねぇ!」

 何がぱねぇ! なの?

 鬼全はもしもの場合の作戦は何も考えていなかったようだ。

「くっ、おい! 立ち位置をよこせ!」

「典型的な噛ませ犬だよなあ……」

「おいこら! どうなんだ!?」

「どうなんだって言われても……」

 するとノアを縛っていた縄を金網に結び、開いた両手で鬼全はギターを取り出した。

 彼女の左右に出現するアンプ。

 本当に、どうしようもない能力だよなぁ……。

「爆音を鳴らすぞ!?」

「耳を塞いで逃げるとしよう」

「待てや!」

 引き止められた。

「こいつどうするんだよ!」

「好きにしろ!」

「それは困る!」

 ピィィンと弱々しいギターの音色がアンプから流れた。

「立ち位置よこせ!」

「立ち位置は渡せない! はい、おしまい!」

 またピィィンという音色。

 こいつは人質さえ取れば立ち位置などすぐに頂けると思っていたのか?

「……えっと、ぬぉぉお!」

 どうしていいのかよく解らなくなってきたのか、鬼全はとりあえず見せようみたいな勢いで角を出した。

「はひっ!?」

 ノアは変貌を遂げた鬼全に恐怖し、空気の抜けた風船のように地面へへたり込んでしまった。

 怖いのは見た目だけだからそんなに怯えなくてもいいのに。

「こ、この角でこいつを刺すぞ!」

 頭が震えてるけど大丈夫か?

「……でも角欠けてるし」

「反対側の角で!」

 首の角度的に苦しそう。

 ノアは縛られた両手を突き出して刺されまいと抵抗しているが、意外と抵抗できていた。

 力を入れているのであろう鬼全だが、既に押し負けているのは気のせい?

 せめて手を後ろに回して縛るべきだったな。

「ふぬぬっ……!」

「はわわっ……!」

 悲しいけれど、ここで一つ大きな事実を確認しよう。


 鬼全は弱い。


 これだ。

 力比べではノアにすら劣り、体力では田島先輩にすら劣り、思考は蔵曾にすら劣っていると俺は分析する。

 見た目だけは誰よりもすごいぜ?

 あっ、それとスッピンでも綺麗ってとこ?

「よし、ノア、頑張れ!」

 俺はじりじりと鬼全に近づいた。

「あっ! こら、近づくな! 卑怯だぞ!」

「人質取ってるお前が言うな」

 ここでノアは現状を打破できると悟ったのか、立ち上がって鬼全の角をしっかりと掴んだ。

「いいぞ!」

「は、離せ!」

 なんのコントだよ。

 鬼全はギターの事なんか忘れて角を掴むノアの手をパシパシと叩き始めた。

「さて」

 俺は鬼全の前に立ち、満面の笑みを見せてやった。

 ノアだけで苦戦してるのに、俺も加わったらどう対処するのか教えてもらいたいな。

 鬼全は苦笑いして俺を見つめる。

 俺は、右手を高々と上げた。

 互いの視線は未だにぶれない。

 次の瞬間、ゴツンという音に続いて、ピィィンという弱々しい音が静かなわき道に音を与えた。

 ――数分後、

「あのさあ、人質を取るなんてやめようよ」

「わ、私もとてもよろしくない行為だと、思いますっ」

 鬼全を正座させて俺達は説教をしていた。

「い、いや……蔵曾が、人質とったら、いいんじゃないかって……」

「あいつは馬鹿だから言う事聞くな」

 ガサリッ――と、近くで物音がした。

 蔵曾がいるのかもしれない。

 かも? 違うね、絶対いる。

「作戦も全然駄目だったよな、人質を使って俺を罠のある場所まで誘導して罠にかけて立ち位置を奪う。計画は大体こんな感じか」

「ど、どうだろうねぇ?」

 目が泳いでますよ鬼全さん。

「あの、貴方のご友人が、人質に取られたら、貴方はどう思いますか?」

「そ、そりゃあ許せん!」

「か、彼もそうだったと、思いますっ!」

 そうなのか?

 鬼全はそんな視線で見上げてくる。

 ここは……そうだな、頷いておこう!

 正直面倒だなって思って本気で帰ろうとしてたけど秘密にしておく。

「……だって、立ち位置欲しかったし」

「あんなの、持ってていいもんじゃねえから」

「そんな事無い! 聞いたぞ! 世界を変えられる力だって!」

「その代わりにお前みたいな奴に毎回襲われるんだぜ?」

 ぐぬぅ! と鬼全は反論できずに息を飲み込み、視線を落とした。

「お前、怪異でも稀少種って奴なんだろ?」

「……稀少種?」

 なんだ、自分の種族がどんなものなのかも解っていないのかよ。

「絶滅するかもしれないってやつ」

「あ、ああ……そうだな、仲間はどんどん減っていってる。大抵が殺されてな」

「仮に立ち位置を俺から奪ってお前の世界観にするとして、だ。仲間の怪異の安全な世界やら何やら作っても、立ち位置を求めてお前を襲う奴は絶対に出てくるぞ?」

「そういう奴らが近寄れない世界観ってのにすればいい!」

 俺も一度はそう考えました。

「完全には防げないらしい。怪異とか強力な力を持つ奴とかは無理っぽい。俺も何度か襲われた」

「なるほど、あたしは強力な力を持ってるから、お前に近づけた、と」

 それは違うけどな。

 弱い怪異なら襲われても別にいいやって俺が願ったらお前が選ばれただけだ。

「立ち位置を奪って危険へ飛び込むより、もっと安心できる道はあるぞ」

「何……?」

 教えておかなくてはな。

 まだ話を聞いていないようだし。

「天使がお前を保護しようとしてる」

「てんし?」

「そういう奴らがいるんだよ」

 天使とは程遠い奴が一人知り合いだ。

「多分お前と同じ怪異も同様に保護するだろうな、だから俺から立ち位置を奪わなくても天使にお願いすれば安全は保障される」

「そ、そうなのか?」

 笑顔で頷いた。

 嘘偽り無いと、彼女に信じてもらうために。

「なあ蔵曾、そうだろう?」

 後方へ振り返り、どこにいるかも解らないが蔵曾を呼んでみる。

 蔵曾は置いてあったゴミ箱の中から、メモ帳を持って出てきた。

 インスピレーションは刺激されたかこの野郎。

「そう」

 頭にみかんの皮乗ってるぞ。

 どうしてお前はどうでもいい時にそういう演出あるあるを自然とやってのけるの?

「ぞ、蔵曾は、天使?」

「神様だ」

「か、神様!?」

「……そう」

 鬼全には自分の正体は隠しておきたかったのか、口を開くまでの一瞬の間が俺にはそう感じさせた。


「へ、へへぇ~!」


 結果、鬼全は蔵曾に両腕を地面にべったりとつけて頭を深々と下げた。

 漫画とかで見た、儀式で神様へ礼儀を示す動作と酷く一致していた。

「かしこまらないで」

「でも神様だし! ぱねぇ!」

「それほどでも」

 まんざらでもないだろお前。

 かすかにでへへって聞こえたぞ。

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