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その39.ひちゅぢゅひん

 鬼全は今頃どうしているだろうか。

 願わくば学校へやって来たりとかいう行動はしてほしくないものだ。

 今のところ心配はしなくてもよさそうでもあるがね。

 多分だけど、アパートに住み始めてまだ間もないのだから生活する環境が整うまで動かない……かな?

 暮らすには必要なものが多いからなあ。

 冷蔵庫や洗濯機、フライパンなど数えたらどんどん浮かんでくる。

 今日は街の家電量販店にでも行ってたりして。

「ねえ、忍野」 

「な、何?」

 いつもの面子で昼食を取っていると、勢いよく扉を開けたのは豊中さん。

 ノアの隣に座って開口一番に俺へ声を掛けた。

 俺、何か悪い事でもしたかな?

 何も、うん、何もしていないはずだ……。

「蔵曾が放課後付き合って欲しいって」

「蔵曾が?」

「さっき校門に呼び出されてね、それだけ私に告げてどっか行ったわ」

 何だろう。

「そこらへんにいるんじゃない? 校内に入っていったしあんたを観察するのがあいつの趣味だから」

 そんな趣味捨ててしまえ。

「心配だから私も同行したいんだけど、今日は用事があるからよろしくね」

 用事ねえ、天使とかそういった存在が関わるような用事?

 ……余計な詮索はしないでおこう。

「解ったよ」

 それにしても――と俺はあたりを見回してみる。

 ここは屋上だ。

 蔵曾が俺を観察するとしたらどこから観察してるんだ?

「どうかしたのか?」

「いや、蔵曾がいるのかなって思って」

 薫とノアも一緒に見回し始めた。

「そこらへんのベンチの下にでもいるんじゃない?」

 豊中さんの助言を受け取って屋上に設置されている五つのベンチ、その下を三人で見てみるとした。

 いやいや、まあ、いるわけないよなっ。

 どれも生徒達が腰を下ろしている、その中の一つ――二本の足の間に何か、見えた。

 いやいや……。

「あっ」

 ノアも見つけたようだ。

 なんか丸まってる奴がベンチの下に、いる。

 座ってる生徒は気づいていない。

「いた……」

 薫も見つけて、三人分の視線がそこへ集中する。

 豊中さんは深いため息。

 あいつ何してるのかしら、と言いたげだ。

 蔵曾は俺達に見られているのに気づいて、ぞもぞと匍匐状態で後退。

 すっと立ち上がるや座っていた生徒は驚いて飛び上がった。

 そりゃあ驚くわな。

「すぐ近くにいるなら自分で用件言えばいいのに」

「まったくよ」

 すたすたとどこかへ行ってしまった。

 学校にいつもの服装のまま行ってよく先生に止められなかったな。

 もしかしてあれか? 長波先生に接触して手引きしてもらったのか?

 よく見れば申し訳程度に学校指定のスカート履いてたし。

 猫耳フードは相変わらずなので何気にいいファッション。

「……放課後はアパートに行けばいいの?」

「さあ?」

「さあって……」

「どうせ今日はずっと学校に潜んでるから放課後になればやってくるんじゃない?」

 それもそうだな。

 つー事は今日は蔵曾に授業風景をずっと観察されている、と。

 なんか嫌だ。

 観察されるのはもう慣れたといえば慣れたけどさ。

 午後からの授業は見られてると解ると少し心地が悪いなっ。



 全ての授業が終わり、俺はノア達と一緒に校門付近へと向かった。

「神様、いるのかな?」

「どーだろ、いるんじゃね? 探してみる?」

 二人の視線は落ち着きが無い。

「萌え萌えキュンやればすぐ来るんじゃないか?」

 ボディブローを食らった。

「じ、冗談だって……」

 ほら、ノアと一緒に帰りたい勢達が後ろで見てるぞ?

 皆ちょっとビビッてるよ?

「こほんっ」

 薫は軽く咳払いして、なんでもないですよ? みたいなにっこりとした笑顔。

 安心したのか、何人かの生徒がノアと薫へと駆け寄った。

「あの、よかったら一緒に帰宅してもよろしいでしょうか……?」

「えっ、あっ、えっと……」

 慌てふためくノア。

 ふむ、こいつらノア様ファンクラブの会員だな?

 あとの二人は薫と最近親しく話していたクラスメイトだ。

 大人気すぎて嫉妬ものだぜ、俺には声を掛けてくれる生徒なんて一人もいねーの。

 しかも彼女達の敵意は明らかに俺へ向けられていて、ノア達との間に入って通せんぼときた。

 おいおい少しは優しくしてくれよな?

 俺だってな、よく見たら結構イケメンなんだよ?

 ……いや、嘘、ごめん。

 心の中で呟いて悲しくなってきた。

「じゃあ、俺は用事があるからここらへんで」

 ここは俺が引くのが荒波立たずに済むよな。

 空気を読んで退散するとします、今夜は一人で枕を涙で濡らそう、そうしよう。

「おいおい浩太郎」

 俺に付き合って親しくしてくれる人から距離を取っちまうのも駄目だぜ薫。

 俺と違って人気者なんだからよ。

「こ、浩太郎君っ」

「また明日なっ!」

 手を振って直ぐに離れるとする。

「ごゆっくりぃぃ……!」

 いつの日か俺も人気者になれますようにっ。

「あとで蔵曾のとこ、行くぞ」

「わ、私もっ」

「大した用じゃないと思うから別にいいって」

 ちょっと寂しい、疎外感をどうしても感じてしまって。

 別にノア達が悪いわけじゃないさ、二人を慕う人達にとっては俺は目の上のたんこぶでしかない。

 こんな時に鬼全が出てきたら「俺一人なんだねぇ、どう? 歩かない?」なんて誘ってしまいそうだぜ。

 蔵曾よ、主人公ってもっと周りから慕われるもんじゃないかね?

 俺を主人公のモデルとして観察したいなら少なくともそうしてもらいたいんだが。

「こうしてぼっちが出来上がる、と」

 メモを取りながら蔵曾がうしろから歩いてきた。

「おいこら」

「ノア、薫、人気。浩太郎……」

「おいやめろ」

 お隣の息子さんは賢いのにあんたといったら……みたいな比べて悲しむ流れほんとやめろ。

「つーかお前のせいだろ!」

「君も人気の波に乗れればこうはならなかった」

「どうやって乗れと!?」

 あいつノア様達の何? って女子から敵意向けられるわ、男子からはお前だけどうして二人と仲良いんだって嫉妬されるわで居心地悪いんだが。

「……まあいい、それで、今日はどうした?」

「……コン」

「え? 何?」

 メモ帳の上を走るシャーペンが止まった。


「パソコンが欲しい」


「パソコン? どうしてまた」

 いきなりだな。

「便利、使いたい」

「まあ、インターネットを使えば資料集めも容易いしキーボード操作が慣れれば執筆もできるしな」

「そう」

 このご時勢、神様もパソコンを使う時代になったか。

「文明の利器、進化しすぎ、そろそろついていけなくなる」

「お前神様だよな?」

「世の中は神様を置いていっている」

 電子機器が苦手なのかお前。

「だから……」

「その前に使えるようになりたい、と?」

 蔵曾は頷いた。

 ……うーん、じゃあパソコン見に行くか?

「それで、パソコンを買うとして、金は?」

「ある。とりあえず十万」

 とりあえずって何だよおい、とりあえずの額じゃねぇだろ。

 しかも財布何気にいいもん持ってるな、その茶色で横長のやつ、ブランド物だよな? その辺の知識は疎いけどパッと見それくらいは解るぞ。

「一割くれたらめちゃいいの選んでやる」

「断る」

 ちくしょう。

 てなわけで街の家電量販店へと向かうとした。


 ……ん?


 何か忘れてる気がする。



 平日となると客はまばらだ、やはり休日ゆっくり選びたいってのが多いからだろうな。

「にしてもお前さ、その金どっから出てきたんだ?」

「秘密」

「いや教えろよ、気になるじゃねぇか」

「神様も実は給料がある」

「嘘つけ」

 パソコン売り場は二階。

 エスカレーターに乗るや蔵曾は体を左右に振っていた。

 はしゃいでる、こいつ……エスカレーターではしゃいでるぞっ。

 上り終えるや物足りないと言いたげにエスカレーターを見つめていた。

 もう一回降りて上り直したりすんなよ? 同伴してる俺が恥ずかしいから。


「ついでに生活ひちゅぢゅひんを買っておきたい」


 必需品って言えてないんですがそれは。

「たとえば?」

「扇風機」

 それは必要かもな。

 パソコン込みで考えたら十万じゃ物足りなくなってきたぞ。

 でもとりあえずって言ってたから予備の金も持ってるか。

「優先はパソコン」

 兎に角エスカレーターの前にいても始まらない。

 パソコン売り場へと蔵曾を引っ張っていった。

 左右に並ぶ最新のパソコン。

 どれもこれも見るからに高そうの一言。

 この黒光りした四角いライン、デスクトップパソコンは特に値段を見ずとも高いってのが解るね。

「お前はノートとデスクトップ、どっちがいいんだ?」


「のーと? ですくとっぷ?」


「そこからかよ……」

「見くびらないで、少しは知識ある」

 不服そうに言う蔵曾。

「へえ、どんな?」

「用語の知識」

 用語?

「例えば、ワロス」

「……クソワロタ」

「君も中々知っている」

「少しでもお前に期待した俺が馬鹿だったよ」

「ショボーン」

 知識ってそっち方面の知識じゃないんだよなあ……。

「ノートは薄くてそのメモ帳みたく開くと画面がついてて見れるやつ。デスクトップは箱っぽいのがあって、画面も別々なんだ」

 店員に説明してもらって選ぶのが一番だがこいつの場合、店員の話を理解できずに終わるかも。

 ここは俺が簡単に説明してちゃっちゃと済ませてしまおう。

「パソコンは持ち運びたいか?」

「出来るの?」

「ノートパソコンならな」

 メモ帳を引退させて外で使用したいのならノートだよな。

「……メモで十分、持ち運びは必要ない」

 ならノートじゃなくていいんだな。

 それなら機能を重視してデスクトップでも勧めておくか?

 俺とてパソコンの知識が豊富なわけではないからなんとも言えないが。

「デスクトップはどうだ?」

「かっこいい」

 ペタペタ触って早くもノートパソコンそっちのけのご様子。

 少しはノートパソコンにも興味持ってやれよ。 

 けど……蔵曾にノートパソコン与えたらすぐに壊しそうで怖いのもあるし、やっぱりデスクトップを勧めておくか。

「どれにする?」

「高いの」

 そういうタイプか貴様。

 いるよな、どうせ選ぶなら高いやつをっての。

 パソコン初心者なんだから、後から宝の持ち腐れでこれといってフル活用できないってパターンになるぞお前。

「タッチパネル、すごい」

「そこらのは十万余裕で超えるけどな」

 高級のタッチパネル売り場では、お試しで起動されていたパソコンの画面を指で突く蔵曾。

「手ごろなのにしとけ」

「これ、手ごろ」

 お値段十六万円が手ごろだと言い張るのなら俺はお前の金銭感覚を治すべく拳骨してやらなきゃならん。

「こっちで契約もすると値引きしてもらえるんだな」

「では、高いの」

 はいはい解ったよもう。

 悩みに悩んだ結果、十万を超えるものは無しとして手ごろな額のものを選んだ。

 それほど大きくも無く場所を取らずスペックも良し、店員に聞いてみたところ初心者にも使いやすいとの事で勧められた。

「もう少し、高いの」

「別にいいだろ、ほら、さっさと手続き!」

 かれこれ一時間もお前の品定めに付き合ってるんだ、そろそろ腹が減ってきた。

 ……待てよ?

「……手続きつっても、お前大丈夫なのか?」

 近くに店員がいる、俺は耳元で囁いた。

「何が?」

「だってよぉ、身分証明とか色々あるだろ。契約するにしてもそうだ」

「むむっ」

 むむっ、じゃないよ。


「あの、もしかしたらとお伺いしますが、箕狩野蔵曾様でございますか?」


 ……なんだなんだ?

「そう」

 店員さん、あんたこいつ知ってんの?

「そうでしたか! 本日既にこちらへ来るとお聞きしておりました、インターネットの契約など手続きから配送までこちら側でやっておきますのでどうぞごゆっくりお選びください」

「えっ? そうなの?」

「はい、蔵曾様の保護者様からお伺いしておりました、すぐにお伺いできず申し訳ございません」

 深々と頭を下げられた。

 蔵曾、お前なんか偉い感じになってるぞ?


「苦しゅうない」


 何が苦しゅうないだ。

 蔵曾の保護者となるとやはり豊中さん?

 いやはや彼女のおかげで長引きそうな感じがしたパソコン選びはすんなりと進みそうで助かったぜ。

想像神、パソコン買うってよ。

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