その34.なんで俺励まされてんの?
あれから丸一日経過した。
あの怪異は何だったのやら。
その……俺がそういう奴なら襲ってきてもいいとは思ったけどさ、なんか目的地に向かう際に通りかかった障害物みたいな感じであれから接触は無い。
こういう系はまた次の日の朝とかすぐ襲ってくるもんなんだぜ?
フラグ的なの活用しろよな、蔵曾のインスピレーションのためにもさ。
逆に今あいつがどこにいるのか気になっちまうなあ……。
蔵曾ならもう把握しているかな?
豊中さんは蔵曾に何か聞いてるかもしれないと、話しかけようとしたものの……昨日はずっと不機嫌そうで聞けなかった。
休み時間になるといつもノアの元へ駆け寄ってノア様ぁ♪ って懐きすぎた猫みたいになるのにその日だけは眉間にしわを寄せて廊下で腕を組んでた。
何かあったのかな?
……まあ、いいか。
どうしたの? って聞いた瞬間に殴られそうだし。
そんでもって特に予定の無い休日やってきた。
ノアからは『クラスメイトに誘われて映画館なう(´ω`)キェー 面白いの、いっぱいある! (´ω`)キェー』と、携帯電話を地面に叩きつけた朝。
渋々返信、内容は単純に『そうか、よかったな』だ。
メールはこれといってしないんでね、こういう時はどういう返しをすればいいのかも解らん。
三十分後には『今度、是非暇な時に、よかったら、一緒に(´ω`)キェー』と、返ってきたが、前から気になってるんだけどそのキェーという顔文字は何なんだ?
それとお前、メールの時だけ活き活きしてるよな。
普段でもその活き活きっぷりを発揮してくれないかね?
「はあ……暇だ」
居間でテレビを見ながら、ため息混じりに呟き。
「男は外で遊ぶか女の子を誘ってはっちゃけるものよ浩太郎」
「母さんからそんなアドバイスを貰うとは思わなかったよ」
いや、ほんと。
「いざ行ってらっしゃい! 早く孫が見たいわ」
「せっかちすぎて引くわ!」
「母さん、今ものすごく傷ついたわ……煙草復活させようかしら」
「やめてくれ!」
前より家族らしくなったと思う。
母さんとの会話はものすごく増えた、家族との会話がこれほど心地いいとはね……予想外だった。
「ノアちゃん誘いなさいよ」
「ノア? なんで?」
「もう、幼馴染でしょう?」
そりゃあそうだけど。
「将来は、ね?」
「ね? じゃねえよ」
何を期待してやがるんですか母さん。
太陽を顔で表現しましたみたいなその笑顔やめてよ、眩しいよ。
母さんの押しの強い会話から逃げるよう俺は家を出るとした。
「うぉ、眩しっ」
いい天気だ、無駄にいい天気すぎて早くも引き返したい。
……薫に連絡でもするか。
『こちらは、留守番伝言サービスで――』
電話をかけてみるも、応答無く留守番電話サービスお姉さんの声。
完全に予定が無い、兎に角暇の一言だ。
とりあえずは警戒だっ。
「さあかかってこいっ」
……四方を見る。
近くにいるのは犬の散歩をしているおじいさんのみ。
静かな住宅街。
どうやら怪異はいないらしい。
散歩するのもいいかな……いつもの本屋にでも行ってとりあえず立ち読みするとしよう。
ああ、そうだ。蔵曾のアパートに行くのもいいな。
ラップの件でまた謝りに行かないとね。
――とか思っていたら、
「浩太郎」
普通に曲がり角でばったり遭遇した。
「おお、蔵曾。おはYO!」
「おは……むう……!」
「いや、嘘嘘っ冗談っ、悪かったって」
「うむ……」
今日は機嫌は良さそうだ、すんなりと許してくれたし、無表情ながらこいつの醸し出す雰囲気からそう感じられた。
「ジュース、飲むか?」
丁度すぐそこに自販機がある。
「飲みたい」
「奢ってやるぜ」
「りんごジュース」
「あいよっ」
この前の件はこれでチャラな――っていう互いに言わずとも理解し合っているこのやりとり。
「うまい」
「そうかそうか」
「ぱねぇ」
「……お前、あの怪異と会った?」
最近その言葉を使った奴は一人しかいない。
そろそろ死語になるんじゃないかと思われる、本当に俺も久しぶりに聞いたぜ。
「名前は鬼全」
「きぜん? ……毅然たる態度が感じない名前だな、きぜんなだけに」
なんつって。
「……」
鳥の鳴き声が聞こえる爽やかな住宅街に静謐が訪れた。
「……」
「長い沈黙やめろ」
「…………」
「おいやめろ」
「………………」
「やめてください……」
「……………………鬼全は観察していて実に面白かった」
何事も無かったかのように話を戻しやがった。
……何事も無かったようにしてくれて構わないのだけれど。
「けど弱すぎる」
「君が願ったから」
「そうだけどさ、予想以上に弱かったぜ。先輩のほうが強いかも」
「戦わせてみる?」
「興味はあるな……」
どっちが勝つのか見てみたいが、先輩は鎌を使うから……危ないよなあ。
「しかし毎回敵は女だな」
「今回は君が願った」
「俺が? 別に性別は……」
「男に襲われるのと女に襲われるの、どうせ襲われるならどっちがいい?」
「そりゃあ女だ」
即答して、ハッとした。
蔵曾はりんごジュースを傾けて口に注ぎ込み、「男ってみんなそう」みたいないため息をついた。
すみませんね、強弱どうであれ男に襲われたくなんかないし。
いきなり目の前に筋肉ムキムキの敵が出てきたらどうするよ?
アァン? あんかけチャーハン? とかホイホイ♂とか襲ってきたらもれなく俺はアッー! という間にやられる自信があるねっ。
「ともあれ、ハーレム要素が着実に築かれている」
「怪異混ざった時点でおかしいだろ」
「怪異であれ、女」
そうっすか。
「私も、女」
「そうだったな、忘れてたよ」
ぽこっと、弱々しい肩パンを食らった。
「鬼全がどこにいるかは解る?」
「今は解らない、街でふらついているかも」
じゃあ街に行くのはやめにするか?
折角の休日をぱねぇ! って襲われるのもあれだしな。
襲われても別に問題は無いんだが、休日はゆっくりと過ごしたい。
誰かとどっかぶらぶらするっていう条件も今達成したし、こいつと二人でふらついて何かいいラノベを書けるようなものを観察させるものありかな。
「今日の予定は?」
「君の観察」
それで朝から俺の家に向かってたと。
「君の予定は?」
「無い、今日一日暇」
「ぼっち?」
「ちげえよ、馬鹿」
頭にチョップを食らわしてやった。
貴重な体験だと思う、神様にこんな事できるのは。
「ノアは?」
「友達と映画館だって」
「薫は?」
「電話繋がらない、なんか用事でも入ったのかもな」
「ベリアルドは?」
「アドレス知らん」
「他、クラスメイトは?」
「学校で話す程度で普段は遊ばないな」
「……いつかいい事あるから」
「なんで俺励まされてんの?」
別にぼっちにされてるんじゃないからな?
高校では現時点で他のクラスメイトはあまり距離は縮まってないけど中学の頃は意外と友達いっぱいでわいわい休日は遊んでたからな?
「本屋行くか……」
「賛成」
鬼全に遭遇したらしたで全力で逃げよ。
本屋に入るや、蔵曾はラノベコーナーではなく雑誌コーナーで足を止めた。
「少年誌」
「読んでんの?」
手に取る少年誌は昔よく読んでたものだ、最近は全然読んでないなあ。
「友情・努力・勝利」
「そういうの書きたいのか?」
僅かに首を傾げてか細くうーん、と唸っていた。
好きだけど――書きたいとまではいかないあたりかな?
「読んでいると、君に能力を与えたくなる」
「是非与えてくれ、チート能力お願いしますぜ」
「……では刀を用意する」
「ちょっと待て」
色々とそれはまずいぞっ。
「刀を抜いたら卍――」
「おいやめろ」
それにな、刀を持ち歩かなきゃならない時点で俺は銃刀法違反しなきゃならん。
「ではゴムゴ――」
「ほんとやめろ」
体がゴムのように伸びるのはなんか嫌だし俺はカナヅチにはなりたくないんだ。
「他の少年誌は読むのか?」
「いっぱい読む、これが一番好きなだけ」
そういや意外と漫画も読むんだよなこいつ、アパートにもいくつかあったな。
「特に好きなのは、この少年誌にはもう載っていない」
「完結したのか?」
「別の雑誌に移った」
「へえ」
他の雑誌をいくつか手に取るとした、意外とラノベ中心の雑誌もあるんだな。
お前さ、ラノベ系の雑誌もあるんだからこういうのを手に取れよな。
「……君の精神体を作ろう」
「いきなり何を言い出す?」
「名前は……スター・コウタロ」
命名が雑すぎるなぁ……。
もしそれ作ったら今すぐ時を止める能力を発動させてお前をぼっこぼこにするぜ。
「私はザ・ワールゾーソを作る、精神体バトルしよう」
「なんでそうなる」
蔵曾は別の雑誌を手に取った、おそらく元ネタが載っている雑誌だ。
一つ解った。
お前はあんまり漫画を読まないほうがいい、ろくなアイディアが生まれない。
インスピレーションも悪い方向で発揮してるしよ。
「ほら、ラノベコーナー行くぞ」
「まだ読んでない」
「漫画とラノベ、今はどっちが大事なんだよ」
「……うう」
「悩むなよ!」
ったく、こいつはぁ……。
フードを掴んで引っ張る、そうすりゃあこいつはフードを取られまいと俺へと引き込まれるしかない。
その結果、ようやくラノベコーナーに到着だ。
もう疲れるわあ……。
「お前がいつも読んでるのはあるのか?」
「様々、こだわりは無い」
「好きなジャンルも?」
「そう」
濫読っぷりは知っていた、それでも好きなジャンルくらいはあるかと期待していたんだがな。
「浩太郎、今流行っているジャンルは何?」
「難しい質問だな……」
それほど俺は詳しくないのもある。
「ジャンルはどうであれ、学園が舞台ってのは多いかな」
「学園もの……」
「高校生っていう貴重な青春を活用したいのかもしれん」
「小学、中学は駄目?」
「……恋愛ものを絡め辛い、とか? ほら、高校生あたりが成長して異性を意識して恋愛するような時期じゃん」
知らんけど。
蔵曾は関心したようでほほぅ……と大きく頷いた。
「君も、恋愛は?」
「さあな、気が向いたら恋愛するかもな」
「ノア?」
「さあな」
「薫?」
「知るか」
「ベリアルド?」
「なんでまた先輩が出てくる?」
「鬼全」
「そいつはもっとおかしい」
この手の話は止めだ止め。
「高校生、君は主人公のモデルとして適正」
「……まあ、一応は」
「それも一年生、これからイベントたくさん」
「ああ、そいや高校一年生っていう設定も多いな」
物語を始めるにはいいスタートラインだからかもしれない。
そういうのは大抵入学してからすぐに何かとイベントがあったりして、物語が発展するものだが俺はしばらく退屈な学校生活を味わったな。
俺が学校生活と家族に鬱々としてこのまま五月に入ったら確実に五月病を発病していたがお前と出会って助けられたぜ。
「部活、作る? 浩太郎を大いに盛り上げるための団」
「更に超常現象起きそうだからやめてくれ」
「ならぼっちの浩太郎のために、友達を作るを目的とした隣○部を。そして浩太郎は友達が少ないというタイトルでいつか出ぱ――」
「誰がぼっちだオラァ!」
それと色々な意味で危ないからやめようね?
そういう本がこの棚にあるわけで、俺は何冊か手にとってみた。
表紙の雰囲気から学園もので部活を作る系は大体把握できる。
「何故、部活を作りたがる?」
「何かしら作る理由が主人公に、若しくは登場人物にあるからだろ」
何かとイベントが起きて、主人公は登場人物――ほとんどがヒロインであろう、その子と一緒に部を作って過ごす。
大体が入学して一ヶ月以内にそれは起きる。
俺の人生では起きない。
人生はクソゲーだ。
「思い切って作ろう」
「嫌だよ、人数集めも必要だしちゃんとした部活じゃないと許可されないだろ。どんな部を作るつもりだよ」
「ラノベ研究部」
「お前のための部かよ」
「是非」
「是非、じゃねえよ。貴重な放課後をそんな部に費やしてたまるか!」
しゅんっ、と蔵曾は項垂れた。
「それにお前学生じゃねえし」
「入学する、私の力で」
「変な時期に入学はなあ、つーかお前……そうなったら俺のクラスに来るつもりだろ」
蔵曾はこくりと迷わず頷いた。
お前がうちのクラスに来たら俺の疲労がものすごい勢いで蓄積しそうだ。
「よろしく」
「やめろ」
「えー」
「えーじゃねえ!」
あ、そうだ。
「豊中さんがいいって言うなら仕方がねえけどさ」
「……無理、諦める」
ですよねー。
神様が変な方向に暴走しないのは豊中さんがいるからなんだなあと思いました、花丸。




