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その32.とたとた。

 また騙されたと知った蔵曾はしばらく腕を組んで目を合わせようともしてくれず、何度も頭を下げたが今日は許してもらえないっぽい。

 そのうちまた美味しいものを持ってこよう。

「なあ浩太郎」

「なんだ?」

「神様ってさ、かなり馬鹿だな」

「ほんとそれ」

 最初の頃はクールな少女でしかも神様、すげえ奴と思ったのに今じゃあすぐに騙される馬鹿で俺の印象は固まってしまっている。

 強度で言うとコンクリレベル、ちょっとやそっとじゃあ砕けん印象だ。

「けどいじるのは面白い」

「ほんとそれ」

 さっきは豊中さんに説教されて酷い目に遭ったが、それでもまた蔵曾をいじりたくてたまらない。

 ただ俺の頭部にはたんこぶが出来ており、蔵曾をいじるたびにたんこぶが重なっていくのが辛い。

「しばらく神様で遊ぼう!」

「いいな!」

 目的が大きく脱線してい微塵も関係ない方向へと突き進んでいるが今はそれでいいかな?

「じゃ、また明日な! 何か良い案があったら是非教えてくれよ!」

「ああ、お前もな!」


 今を楽しむ、それは人間にとって大切な事である


 けどまあ……ほどほどにはしておこうと思う。

 時々息抜きに蔵曾をいじって遊ぶ、これだっ。

 一人でにやりと笑みを浮かべてしまった。

 もう夜と言ってもいい空模様、橙色はすっかり黒に侵食されちまっている。

 さっきバウムクーヘンを食ったおかげで腹の虫は大人しくしてくれているが、早いとこ帰って母さんの料理を頂きたい。 

 蔵曾のおかげで母さんはバリバリの料理上手な主婦だ、もう料理は力を入れまくりでクオリティーの高さから俺の一日の楽しみに母さんの料理を食べるがランクインしている。


 この前なんかピザを“ピザ生地”から作ってたくらいだしな。


 こればかりは蔵曾に感謝してるぜ、父さんもなんかかっこいい感じになったし。


 つーかなんかこの数日で課長に昇格してたし。


 俺もお返しにと、蔵曾が面白いラノベを書けるよう協力はしたいがな……。

 蔵曾をいじって遊ぶ――うーん、こうなっちまう。

 だって蔵曾の奴、今までのメモで何か活路を見出して書く! とかならまだしもあれから結局何も書けずに仕舞いには――


『人間がこれほどに面白いものを書けるのは何か秘密があるんじゃないかと、思う』


 ……だぜ?

 ラノベ作家のみならず、作家志望の方々と作家全員を舐めてかかってるとしか思えない。

 俺が作家志望ならその言葉を聞いた途端に蔵曾の頬に平手打ちからの往復ビンタからの最後におまけで平手打ちかましてたね。


「おいてめぇ」


 家までそろそろ――のところ、唐突に。

「……はい?」

 曲がり角から現れた女性は俺の前で仁王立ちしてきた。

 ……ぎょっとした。

 黒を基調とした服、手首には派手ではなく“ど”派手なアクセサリー、ショートパンツは鎖だらけ、主に骸骨ばっか。

 ご丁寧に黒のロングブーツにも骸骨つきだ。

 ついでに上着のフードにも骸骨。

 これらの説明を一言で簡単に表すとしよう――パンク、はい、目の前にはパンクな女性が立ってます。

 パンクさんとしよう。

 そんでもってこんな俺の人生と微塵も関わりの無さそうな女性は一体俺に何のようなのかな?

 心臓の鼓動が徐々に早まっていってる。

 これはもしかして、カツアゲというやつか? 人生で初めて受けるカツアゲはこんな女性からなのか?

 それはそれで嫌だなっ。

「聞いたぜぃ?」

「……聞いたって、何を?」

「《立ち位置》……持ってるんだろぉ?」

 まさか……。

 この人が、襲撃者?

 やばい、普通に強そうじゃん。

 蔵曾の奴……叶ったとか言ってたけど間違いんじゃ?

 見るからにやばそうだよ、眉のとこにピアス、口のとこにピアス、耳にもピアス、不良三点セットをご購入いただいた方だよこれっ。

 髪は黒だけど不自然なほど深く濃い黒、パンクっぽさが三倍増し!

「ど、どこでそれを……?」

「風の噂ってやつさ。お前を倒せばもらえるんだって? 勝負しようや」

 口元が釣りあがり、悪魔の笑顔を作り出した。

 暗くなり始めた時間帯――彼女の青い目がほのかに光を帯びた。

 人外、なんだな……。

 ゆっくりと歩みよってくるが、考える時間は数秒程度。

 どうする?

 一旦逃げる?

 闘う? 

 どうしたらいい?

「……動くんじゃないぞっ」

 ……途中で立ち止まられた。

「えーっと」

 覚束ない。

「鬼門、解放」

 彼女は空へ顔を向けると、こめかみあたりから妙なものが生えてきた。

「くふふ」

 少々うねりのある円錐が二つ、フードを取ってそれを隠さずに見せてくる。

「つ、角?」

「そう、角だ! あたしは鬼の怪異、貴様の立ち位置を頂くっ! この世を怪異の世界にするためにな!」

 怪異とは鬼っぽいのか、それとも怪異の中にも様々な奴らがいるのかはどうでもいいが、兎に角パンクさんが何者かは解った。

 相当強そうだ、田島先輩よりは強そう。

「とぁあ!」

 想像以上に。

 なんていうか……想像以上に移動速度は遅かった。


 とたとた。


 そんな足音が似合いそうなくらいに。

 しかも彼女の攻撃は俺の頭を狙ってのチョップ。

 さっと後退して回避。

「何故避ける!」

「そりゃあ避けるよ!」

「黙って頭を割られろ!」

「嫌だよ!」

 まるで子供のように両手を振って何故か執拗に頭を狙ってくるが、一々その動作が遅くて簡単に避けられてしまう。


 この人弱い……。


 絶望的なくらいに弱い。

 テレビで軽く格闘特集を見たのか知らんが、さっきから構えがおかしいわ重りでも付けてるの? と問いたくなるくらいに動きが遅い。

「ほらほらぁ、どう、したぁ! ……どう、はぁ……はぁ……」

「先輩より体力無いなあ……」

 先輩ならもっと追いかけてきたぜ?

「ちょ、たんま……」

 襲撃者からそんな台詞出るとは思わなかったよ。

 横を通る主婦らはヒソヒソしながら微笑んで通り過ぎた。

 カップルの喧嘩と勘違いでもしてるのかな、それより彼女の額見て、角だよ角。

 おあついわねえ、若いっていいわねえ、じゃないんだよ?

 ……駄目だ、救いの視線を投げまわっても誰一人気にも留めてくれない。

 これも世界観の影響なのか? 普通なら驚くべきだろ角の生えた少女を見たらさ。

「てめぇ……中々やるな」

「俺何もしてないよ!?」

「あたしの体力を奪う能力を持ってやがるなぁ? てめぇには神がついてるからなぁ、奴が何か力を与えても不思議じゃねぇ」

「あいつは何も与えてないのですがっ」

「つまり、貴様が元々持っている力か! 最近の人間ぱねぇ!」

「全然ぱねぇくないよ!」

 そのうちあの馬鹿からすげえチート能力を貰おう。

 一発で敵を吹っ飛ばせる力が欲しいな。

 てか俺が願えば世界観が変化して俺にその力が手に入るんじゃ?

 ちょっと試してみる? までも無いな。

 俺自身に関しては立ち位置は働かない、働いていたら今頃長身のイケメンになっているはずだ。

 しかし始めて叶った立ち位置での世界観の変化が、弱い怪異のいる世界観ってのもなあ……。

 強いのは困るけど。

「只者じゃねえなぁ? 一見冴えないどこにでもいる平凡そのもののようなもやしとあだ名がつけられていそうな奴なのに……」

「そこまで言わなくてもいいだろ!」

 傷つくわぁ……。

「隙あり!」

「おっと」

 普通に避けられた。

「なっ! 貴様、あたしの攻撃を避けるとはすごい反射神経を持ってるな……」

「君の攻撃が遅いだけなんだよなあ……」

「馬鹿な!?」

 やばい。

 この人、蔵曾と同じにおいがする。

「貴様にはあたしの攻撃が遅く見えると……」

 ああもうっ!


 俺は普通にゆるやかなストレートボールを投げてるのにあっちはフォークとみなして受け取ってナックルで返してきやがる!


 まともな会話のキャッチボールしようよっ!

「じゃ、俺腹減ったから帰るね……」

「ここを通りたくばあたしを倒してからにしろ!」

「やべえ! 敵っぽい台詞だ!」

「敵だ!」

「あ、うん、そうだったね、ごめん……」

 あまりにも敵とは思えない弱さだったから、つい。

「せやぁぁあ!」

 チョップ。

 それを俺は軽く横に避けて、パンクさんはバランスを崩して前のめり。

「わ、わたたっ!?」

 そこへ頭にチョップをお見舞いした。

「ふぎゃっ」

 倒れた。

「では、さらばっ」

 そのままダッシュで逃げるとした。

 遠くから待てぇとか聞こえた気がするけどこのまま彼女ともちゃもちゃなんかしていたら変な噂がたちそうだから勘弁してくれ。

 念のために遠回りして、一定時間毎に後ろを確認。

 うん、追いかけてこないな。

 というよりあの運動神経だ、追いつけもしないだろう。

 家の前に到着し、最後に周囲を確認してみるもやっぱりパンクさんの姿は無く、周囲は人気すら感じない。

「ふう」

 ため息をついて、俺は家に入った。

 たまにはああいう軽い運動も必要だな、是非パンクさんはまたいつか戦ってほしいぜ。

 俺の運動不足を解消してもらいたい。

 ピアスしているから見た目は怖くもあったが、パンクさんのあの整った顔立ちは普通に可愛かったなあ。

 外見からして十代かな? 怪異っていうから何気に何百歳と生きてたりして。

 しかし。

 立ち位置の効果でやってきたとして、まあなんといいましょうか、退屈はしなかったけどあの弱さは……。


 なんだかなー。

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