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その30.学校では田島秋保だ

 本日最後の授業が体育――だからこそ今日は頑張れた気がした。

「あっ」

 その移動の際に、とある人物を見て俺は足を止めた。

「……えっと」

「この前一緒に飯を食った人だったよな? あの人も変化させられた人、なんだろ?」

 ちゃんと紹介はしてなかったな。

 もしかしたらいつか何かしら変化した人達の間で交流があるかもしれないし、この際だ、紹介しておこう。

「そうだ、ちなみに二年で先輩」

「二年!? 見えねー!」

 だろうね。

 一年生ですと紹介したら多分誰もが納得するくらいの外見、幼さ溢れる体躯であれ、一応先輩なんだ。

「お、同じ一年かと……」

 ノア、お前は逆に大人びた容姿にも見えて一年とは思えないぜ。

「ベリアルドさんだ」

「す、すごそう……」

「はっちゃけた名前だな」

 先輩は先輩なりにきっと一生懸命考えた名前なんだ、悪く言っちゃ駄目だぜ。

 見たところクラスメイトと思われる女子生徒と話をしながらこれから教室かそこらにでも行く様子。

 何気に普通に高校生をやってるのが正直、驚いた。

 俺の印象的に一人で黒魔術にでも手を出してひっそりと学校で魔方陣を描いて魔術を成功させようと試みているんじゃないかと思ったが……大変失礼な印象だったな、訂正しよう。

 先輩は俺達に気づいていないようですれ違いそうになったために声を掛けた。

「ベリアルド先ぱ――」

 思わず。

 思わず、ベリアルドって名前を出しちまった。周りには生徒が普通にいるのに。

 けど田島って呼ばれるの嫌がってたから、さあ……。

「ベ、ベリアルド、先輩っ」

「おっすおっすベリアルド先輩!」

 ノアと薫が続けて先輩の“中二病”な名前を放った。

「あっ」

 先輩は俺達を見て、一瞬で表情を驚愕へと変えて言う。

「ベ、ベリアルドとここでは呼ぶなっ!」

 クラスメイトにはその中二病設定は隠してるのかな?

 まあそりゃそうだよね、ベリアルドとか名乗っていたら白い目で見られそうだし。

 けど包帯やら眼帯やら、それらがどうも隠すにも隠せないよね。

「秋保ちゃん、あのへんちくりんなやつ後輩にも教えてるのん?」

「ふふふん、秋保ちゃん可愛い!」

 なんか目の前でいきなりお目当てのぬいぐるみを見つけたかのように、左右に立つ二人の女子生徒は先輩へ抱きついた。

 そんでもって頭を撫でたりと、わが子のような扱い。

「や、やめるのだっ」

 先輩可愛い。

「が、学校では田島秋保なのだっ」

「という設定なのさん」

「もうっ、秋保ちゃんの設定は面白いわぁ」

 また頭を撫でられたり。

 なるほど。

 ベリアルドと呼べばこの二人の先輩に撫でられたり揉みしだかれたりするから嫌だと、ね。

「お話があるなら、うちら外すよん」

「秋保ちゃんって後輩にも好かれてるのねぇ」

 何気に親密そうだ。

 いいね、こういう学校生活を送れて。

「……それで、なんだ貴様ら」

 いいように撫でられたおかげで髪が天然パーマみたいになってしまった先輩は髪を整えながら俺達へ睨みながら言った。

 こうなったのはお前達のせいだからな――副音声がつくとしたらこうだ。どうもすいません。

「いや、なんとなく声を掛けただけ」

「なんとなくで我はこの様だ」

「ご、ごめんなさい……」

 ノアよ、深々と頭を下げなくてもいいんじゃないかな。

「すまんち」

 薫よ、そのダブルピースは何?

「……もう一度言うが、学校では田島秋保だ。我の同胞と一緒にいる時は田島と呼ぶがいい」

「解りました。つーか先輩って可愛がられたりするキャラなんすね」

「我のカリスマは時にそのような所業を生む」

 逆に羨ましいぜ。

 所業どころか俺がそんな立場だったらご褒美だ。

「あれから偽使乃さんと会ったりはしました?」

 同じ学校にいる使乃さんとは別人と解ってから、あの人の名前を出す時は偽と付ける事にした。

 この機会に聞いておきたい事は聞いておこうかな。

「いいや、会っていない。我も会いたいとは思わぬ」

「よかった。お互いまったりとした学校生活が送れそうですね」

「我はもっと……いや、うむ、そうだな」

 もっと……何?

 自分の力を使って魔物とか敵とか遭遇して戦いたかったとか?

 ありうるが、それを言いかけて偽使乃さんとの件を思い出して――言葉を引っ込めたように感じる。

「こ、これから何卒、よ、よろしくお願いします」

 なんの挨拶?

「貴様、名前はなんだ?」

「こ、上月ノアと申します」

「……本名?」

「……はい」

 赤面。

 ノアという名前は未だに抵抗があるようだ。

 俺はいいと思うよ? そりゃあキラキラネームだけど、響きがいい。

「羨ましいな」

「う、羨ましい、ですか?」

「我の名ま――いや、我の器の名前は平凡すぎる、貴様、良い名を持っている」

「そ、そうでしょうか……そう、言っていただけると、嬉しいです」

 先輩、いい事言うじゃない。

 少しはノアも自分の名前のわだかまりが溶けたんじゃないか?

「俺は雪寺薫です、どうぞよろしくっ! 今は女子高生だぜ!」

「……今は?」

 先輩は知らないしな、ここで教えておこう。

「薫は元男で、神様に変化させられたんですよ」

「お、男!?」

 見た目から男の薫なんて想像できないだろうなあ。

 俺だって男だった頃のか薫の姿はううろ覚えになってきた、今の薫に見慣れてきたのもあるのかも。

「今は女なので女同士仲良くしましょう先輩」

「……う、うむ」

 先輩が深く刻む眉間のしわは男だった薫がどのような容姿だったのかを想像しているのかもしれない。

「敵とか出てきたら教えてください、立ち位置に関わった人達に何かしらあるかもしれませんし、これからは協力し合いましょう」

「むっ……我の力を欲する時は言うがいい。しかし、貴様とのやらせ役は絶対にやらぬからな!」

「解ってますよ」

 先輩に追い掛け回されて、しかし追いつけずに疲れ果てて地団駄踏む先輩は可愛かったが致し方あるまい。

「けどさあ、立ち位置ってすんげえもんだんだろ? 何気にいらない的な感じだけどさあ、実は先輩欲しいんじゃないのぉ?」

 薫が頭を叩きたくなるような小悪魔的笑顔を浮かべて、先輩を下から上へ嘗め回すような視線で見てきた。

 こういう時はお前が男だった時の姿がスムーズに思い出せるぜ。

「むっ!? うっ……」

「あっ、欲しいんだ」

「ち、違う!」

「せ、先輩……だ、駄目だと、思いますっ」

 ノアに言い寄られて思わず先輩は後ずさり。

「欲すれば、大変な事に巻き込まれる……それに」

「「「それに?」」」

 三人分の台詞。

 そんでもって先輩の言葉を待つ。

「我の世界観が現実になれば……皆に迷惑が掛かると思った。それだけだ」

「ちゃんと考えてるんですね先輩って。中二病しか頭の中に入ってないと思いましたよ」

「中二病言うんじゃない!」

 先輩パンチ。

 しかし浩太郎はダメージを一切くらわなかった。

 鎌があれば少しは変わったかも――あ、うん、当たらないや。

今回は皆の交流メインで話は進みませんです、

田島先輩の普段を少しでも見せたいのもありまして。

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