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その29.それな(笑)

 その四時間後。


 俺は屋上で正座させられていた。

 目の前には豊中さんが俺をまるで親の仇を見つけたような形相で見つめている。


「今朝、あの馬鹿に変な事……吹き込んだでしょう?」


 あの馬鹿とは――蔵曾に違いない。

 変な事とは――面白いもの書けるダンスに違いない。

「交番にね、身元引受人として行ってきたわ」

「お疲れ様っす」

 場を和ますべくてへぺろしておく。

「はぁあん?」

「いや、ほんと、すみませんでした!」

 駄目だ! 場が和む要素が皆無だった!

「すみませんで済むならグローブはいらないの」

 両手に装着した鉄製グローブ。

 それで俺の頬を殴る気ですか? あれだよ? 暴行罪だよ? 警察来るよ?

「つい魔が差しただけでして……」

「警察に捕まる神様、馬鹿だと思わない? そんな神様、何処の世の中にいる?」


「それな(笑)」


 にこやかに、再び和ますために(笑)的なものがつくような口調と、表情をするも――


「粉砕するわよ?」


 目の前にはグローブが風圧と共にやってきた。

「いやいやいやいや冗談ですよ冗談! 俺のせいで申し訳ないです許してください今後絶対やりません!」

「あのっ……こ、浩太郎君も反省してるようだから……そ、そのへんでっ」

 半開きの扉から顔を出したノアがか細い声で豊中さんへ俺を救う言葉を言ってくれた。

「……ノア様がそう言うなら」

「マジ反省してます」

「……はぁあん?」

「心の底から反省してます!」

 豊中さんの眼光はいつも鋭く恐ろしい。

「忍野、今度あの馬鹿に何か変なの吹き込んだら私はノア様にぎゅっと抱きつくからな」

「なんでなのっ!?」

 ていうか抱きついてるしっ。

 こうして見ると仲のいい姉妹に見える、見えるだけで豊中さんはなんつーかキマシタワーな感じ。

「勿論、貴様に見せつけてやるためだっ! 罰なのだよこれはっ!」

 にしては鼻血垂らして息は荒くて満面の笑みでノリノリじゃないかっ。

「……ば、罰なら仕方ない」

「仕方ないじゃないだろノア! 絶対こいつ自分のた――」

「はぁあん……? 何かしら?」

 またその眼光だよ、まいったね。

「なんでもないです……」

 下手な事言ったら殺すから――そういう意味を含めた眼光だ。

「こんな天使、嫌だ」

「何か言った?」

「いえいえなんでもございませんっ」

 話も終わったので昼食にするとしよう……。

 さっきから腹の虫が騒がしくてしょうがなかったぜ。

 薫の姿は無く、来る気配も無い。

 きっとクラスメイトにでも捕まっちまったんだなあ。

 俺とノアと、豊中さん。

 妙な面子だが仕方ない、飯を食おう。

 ノアの隣に座り、豊中さんはノアという壁を挟んでもらう形での着席。

「今日はノア様の大好物であるから揚げ、作ってきたんですよ。是非食べてくださいっ!」

「はわっ!? あ、ありがとうっ!」

「俺も食っていい?」

 から揚げ食べたい気分。

 こういう揚げ物、めちゃくちゃ食べたくなる時ってない?

「え? 何? 聞こえない」

「いいじゃん一個くらい」

「パードゥン?」

「すっげえムカつく!」

「はいはい」

 ノアの口元へから揚げを近づけて二人は幸せそうだ。

「お、美味しいっ」

「光栄でございます。私、この日のために生きていた気がしますノア様」

「その想いは重すぎない?」

「はぁあん?」

「あ、いや、ごめんなさいっ」

 もくもくと弁当を食べるとしよう。

「い、いっぱいあるし、食べきれないから……こ、浩太郎君にも是非、一つ分けてあげるのも、いいかも?」

「ノア様がそう言うのならば仕方ありませんね。おい忍野、食え」

「わあ、どうもありがもごご!?」

 口に突っ込まれたんですけどっ!?

「うまいか?」

 しかも更に押し込まれたら全然味わえないんだけどっ!?

「そうか、美味いか」

「むふぁい、でふ」

「ああそう」

 俺に対して南極の氷もびっくりなくらい冷たいな。

「はい、ノア様、はぁあ~んしてくださいっ」

 けどさ。

 いやマジで。

 今味わってるけどすっごく美味しいぞ。

 素直に感想を述べたいけどなんか簡単にあしらわれて終わりな気もするから言わないでおこう。

「は、はぁあ~ん。もぐっ……うみゃい」

「はぁぁぁぁあんっ! もう幸せっ!」

 よかったね。

 それより鼻から噴射されたその血液を拭こっか。

 盛大に鼻血を出す奴を間近で見れるとは思わなかったぜ。

「いっぱい食べてくださいっ!」

「た、食べるっ!」

 ノア、お前ほんとから揚げ好きだな。

 俺もから揚げ好きだけどそこまでぱくぱくとから揚げほお張るのはちょいとびっくりだぜ?

「おい忍野」

「な、何かな?」

 ノアの口へから揚げを運びながら、豊中さんは俺をじっと見てくる。

 一々怖いなこの人。


「あの馬鹿の進展は?」


「進展、というと?」

「お前に立ち位置を預けなくてもいいくらいに、蔵曾がラノベを書けるかという進展よ」

 ああ、そうでしたね。

 俺の中には宿した本人が望んだら世界がそのとおりになる――世界観をまるっきり変えられるくらいのチートと言えるもの――立ち位置と言われるものがあったね。


「まったく無い」


 驚くほどに進展はございません、はなまる。


「痛いっ!」


 ビンタされた?

 ビンタされた!

 ビンタされた!?

 親にもぶたれた事無いのに!

「しっかりしなさいよ!」

「ぼ、暴力はっ、よくないっ」

「すみませんノア様、これも彼のためなのです」

「そ、それなら仕方ない……」

「仕方なくないけどっ!?」

 豊中さんのビンタかなり痛いよっ!?

 グローブで殴られなかっただけマシかもしれないが!

「俺はなあ、売れない作家の担当編集じゃないんだ。どうやれっつうんだよ」

「てきとーにアドバイスしてやればいいんじゃいかしら」

「面白いもの書けるダンスとか?」

「今度そういうのやらせたらガチで殴るわよ?」

「すみませんでしたっ」

 ガチは止めてっ。

 その鉄製グローブは殴られたら絶対に骨が粉砕されるから。

「け、けど、アドバイス……難しいと思う……」

「だよね」

「ですよねっ、そこに気づくとは流石ノア様!」

 何が流石なの!?

「先ずさあ、あいつが何をどう書きたいのか解らんし」

「……が、学園もの?」

「学園ものですねきっと! 流石ノア様!」

 ちょっと豊中さん黙っててくれる?

 しかしまあ確かに?

 俺学生だし俺に立ち位置とやら世界でもっとも重要そうなものを預けるとこから考えてそこらへんのジャンルのものを書きたいのかな?

 けれど俺達の学校生活を観察している様子が全然伺えない、密かに隠れて見ているのかもしれないが――だとしたら何かしら進展があってもよかろうに。

「れ、恋愛、とか?」

「恋愛はどうでしょう……?」

「恋愛要素あったか? 俺達の日常はラブコメとは言いがたいが」

「……ど、どう、だろ?」

「こんなクッソ冴えないどこにでもいるような奴で平凡という二文字が似合いそうな恋愛要素など皆無な奴にそのようなものを求めるのも……」

 言いすぎだよ張り倒すぞこの野郎。

「俺だってきっとそのうちモテ期が来るし……」

「もう過ぎたんじゃない? 多分幼稚園の頃あたりに来ちゃったでしょ」

「恋愛のれの字も知らない時にモテ期来て知らぬうちにすぎ去るとか酷くない?」

「それとお前はかなり鈍感だから今後モテ期が来たとしても気づかない」

「なんで豊中さんはそんな自信ありげに言うのっ!?」

「そりゃあ……」

 何か言いかけて、豊中さんはため息。

 から揚げを食べ始めて「はぁあん……」とか謎の哀愁漂うはぁあん。

 俺何か変な事、言った?

「つーかあいつさ、昔本出してたって知ってた?」

「そ、そう、なの?」

「そうそう。豊中さんは知ってたよね?」

 天使だし、神様事情は把握しているだろう。

「あー、なんだったかしら。なんかやってたわね」

「読んではいないの?」

「ええ」

 まあ、読まなくてもいいがね。

「内容は?」

「俺はつまらないと思った」

「あいつは力を使って皆に錯覚させてた……のに?」

「どうしてかそう思ったんだよなあ。実はよ、俺がつまらないって言ったおかげであいつは自力で書こうと決心したんだって」

「全ての原因は貴様か……!」

 ……言わなきゃよかったかも。

「こうなるとは思ってもいなかった、悪気は無かった。今は後悔している」

 十代男子学生によるコメント。


 その後十分くらい説教されました。

ノアはいくらから揚げを食べても栄養は全て胸にいきます。

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