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その16.人間は誰もが人生では主人公。

「つーかほんとにさ、俺に主人公の素質ってのがあるのかよ」

「ある」

「俺以外にさあ、もっと優秀なのがいるだろ」

「いる」

 はっきり言うなよおい。

 軽く傷ついたぞ。

「じゃあなんで俺を選んだ? 特に悩む様子もなかったよな? 今からでも素質のある奴に切り替えればいいじゃん」

 本屋での彼女の様子を思い出してみる。

 たった数分話しただけだった、それもただラノベについて語っただけ。

「私が君の望むものを与え、君は私が望むものを与える。この関係を今は保っていられればいい」

「俺が望むものはまだ叶ってないぞ」

「家族を変えてやった、君が望んだ家族の姿。最も、君の両親は心のどこかに君が望む家族の姿をとわずかながら願望があった。その願望を叶えてやったから少しばかり違うかもしれないけど」

 少しばかり、かあ。

 父さんは寡黙になったので俺の理想はもう少し喋る父親であってほしかったかなってのはあったりするので少しばかり……確かに少しばかり理想と違う。

 けれどこれもいい。

「本屋で会って話をした。それだけ、だがそれだけだからこそ、私は君を選んだ」

「どういう事だよ」

「人間は誰もが人生では主人公。そして誰もが物語の主人公になれる素質を持っている。誰でもよかった、けれど私にも主人公の好みがある。君も好みはあるはず」

 そうだな、俺にも好みはある。

 アクション系の漫画なら長身の主人公であれば購入してしまうかもね。

「お前の好みの主人公は俺みたいな奴と?」

「そう」

「本屋で偶然主人公としては好みの奴に会ったから俺に決めたと?」

「……そう」

 最後に残ったウインナーを食べ終えて、蔵曾は一息ついてから再び口を開いた。

「会ったばかりで解らんだろそんな事。俺の事を何一つとして知らなかったろ」

「見ただけで解る」

 そうですか、そうですよね。

 目の前にいる奴に現実的な話をぶつけても無意味だった、非現実的な力がある限り何でもそれで解決されてしまう。

 見ただけで分かるだって? どうして?


 そういう力を持ってるから、はい解決。


「君は現実に退屈していた、現実は退屈なものだと既に諦めていた、現実は何も変わらない、このままずっと現実は常識と退屈で構成されたままなのだと、君は悟っていた。けれど、君はわずかながら願っていた」

「……」

 俺はただただ蔵曾の話に耳を傾けていた。

「私という存在を、私という非現実を君は願っていた。偶然出会ったというのは言い換えると、運命的な出会い。私達はお互いに引き寄せ合い、惹かれ合った」

「まさか」

 ははっと最後に付け足して笑ってやった。

「まさか」

 彼女はオウム返しのように発音を変えて同じ言葉を俺へ。

「偶然とは、そういうもの」

「そ、そうだとしても……」

「君は今を楽しんでいる、自分でも解っていないかもしれないが、楽しんでいる」

「そんな事は、ない」

 誤魔化すかのように俺はコーヒーを口へ。

「事実、君は強く止めろとは言わない。文句は言うが私に付き合ってくれてる、とても乗り気」

「乗り気じゃない」

「嘘」

「ほんと」

「嘘」

「ほんと」

 しつこいな。

「私に付き合ってくれる」

「つきあってない」

「私と付き合ってくれる?」

「意味変わってない!?」

 こいつとの会話は疲れる。

「素直じゃない」

「ひねくれてるよ俺は」

「可愛い」

「可愛い言うなこの野郎」

 くすくすと笑う蔵曾、ちょっとムカつく。

「そういやお前さあ、箕狩野蔵曾とか絶対偽名だろ」

「ペンネーム、偽名じゃなく」

 そうですか。

「自分の名はよく変わる、本名は無く、あっても無価値」

「本名が無い?」

「あった。もう憶えてはいない」

 その言い方は悠久を感じさせた。

「何歳か、聞いていい?」

「レディに年を聞くのは失礼」

 失礼なのは承知の上だ。

「少なくとも君よりは年上」

「そうかい」

 絶対あれだよこいつ。

 年齢が三桁以上いってるんじゃねーのかな、神様とかそういう存在だし、もしかして年齢は四桁? ありうるな。

 この手の奴ってのは見た目と年齢がマッチしない、現実でこんな奴を見れるとはね。見れてもこれといって特に何も感じないが。

「失礼な事、考えてない?」

「いやいや、別にっ」

 こいつに関しては興味がどんどん湧いてくる、その素顔も見てみたいし蔵曾は自分の事をはっきりとは言わないが、その正体も細かく知りたいものだ。

 あとその猫耳フードが売ってた店も知りたいな、ノアに着てもらったら似合いそう。

 猫耳、嫌いじゃないよ。

「では、やる事があるのでお先に失礼する」

「そのやる事とやらを聞いていい?」

「秘密」

 少なくとも俺に絡む何かである事は間違いなさそうだ。

「ここはパフェが美味しい、帰る前に食べて」

 別に食べたい気分じゃないんだけど――と言おうとしたその時、蔵曾は通りかかった店員にパフェを注文。

「ちょっ」

「また、いずれ」

「また、いずれじゃなくて!」

 席を立った蔵曾は右手を軽く振って店を出て行った。

 追いかけたいが、パフェも会計も済んでいないので追いかけられない……これを狙っての注文だったのか?


 数分後には目の前にチョコパフェが置かれた。


 気分じゃないけど、出されたら食べるしかない。俺のお財布が勢いよく痩せていってしまうな……。

 波乱万丈になってしまった日常、何があってもいいようにとちょっと多めに金を持ってきてよかった。

 悲しいのは他人のために散財している事だがね。

「あっ、美味しい」

 蔵曾の言う通り、チョコパフェではあるも甘すぎず、しかしチョコの味や香りは口から鼻へと広がって丁度いい甘さと心地いい香りを堪能できた。

 乗ってるクッキーも最高、これは……ハマるかも。

 それより、そのうちあいつには奢った分をみっちり利子をつけて返してもらわなければな。

┌───────┐

│ 【WANTED】 │

│┌─────┐│

││ /■\ ││

││ (´∀`*)││

│└─────┘│

│忍野浩太郎に飯│

│を奢らせて逃げ│

│る神様    │

│ ※生死問わず│

└───────┘

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