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その15.学園ラブコメハーレム能力バトルもの

 歩く事数分、いつもの通りからちょいと交差点に差し掛かったところを曲がってすぐ先の小さな喫茶店を前にして、蔵曾は足を止めて看板を指差した。

「ここにしよう」

 近くにこんなレトロな雰囲気の喫茶店があるなんてね、全然気づかなかったよ。

 店内はコーヒーの香ばしい香り、クラシックが流れていてここだけ時間がゆるやかになったかのようだった。

 ふーん、朝でも意外と人がいるんだな。

 サラリーマンが何人かいてコーヒーを口へ運んでいる。

 俺もその一人となろう。

「俺に話でもあるのか?」

 席に座って俺は喫茶店に誘った意図を早くも尋ねた。

「話があるのは君のほうでは?」

 ごもっともだ。

 つまりは俺のために話し合いの場を設けてくれた、と? それはありがたいね。

「何か頼む?」

 蔵曾はマスターにメニューを見ながらモーニング、と一言。

 俺はコーヒーを一杯注文するとしよう。

 注文したものはすぐに届けられ、蔵曾の前にはトーストとスクランブルエッグにウインナー、ハム、サラダ――朝食を食べたとはいえ食欲そそるものがある。そんでもってコーヒー付きだ。

 食事中でもフードは取らないようだ。

 右手をそっと出して――どうぞ、と質問を促す仕草に俺は遠慮なく口を開いた。

「先ずはそうだなあ……」

 一番最初に。

 そう、一番最初に気になったのは、だ。

「金は持ってるのか?」

 ものすごく重要な質問である。

「無いに決まってる」

「今すぐ出て行け」

「君は本当に酷い奴だ」

 俺の金で飯を食う奴とどっちが酷い?

「お前の不思議な力で金くらいどうにでもなるだろ」

「やりたくない、君がどうやりくりするかを見たいから」

「じゃあどうやりくりするか見せてやろうか? お前が食事を終えて会計する時に俺はお前を厨房に投げ込んで逃げる、それでどうだ?」

「身長を少し伸ばしてあげるから」

「いっぱい食え」

 やっぱり蔵曾様は違うぜ、ケーキも食うか?

「ほんと滅茶苦茶な奴……身長を伸ばすのもちょちょいのちょいだもんな。一体何なんだよお前は」

「君達が既に心の中に抱いているもの」

「自分が何者かってはっきりと言わないんだな」

「言ったところで何になる? 何にもならない、私がはっきりと言ったところで、君の中にある現実は既に書き換えられている。そこに一つ、私が何者かという、君が薄々感じている情報が追加されても変化など無い、違う?」

 それも……そうだな。

 お前と出会って、その次の日には非現実的な事が起きすぎて俺の中にある現実は木っ端微塵だ。

 こいつの正体――簡単に納得するなら神様? だが彼女の口から直接聞いても俺の心境は特に変わらないのも確かである。

「そもそもこの世には様々なものが存在している、君達は知っていながら見た事が無いからありえないものだと、いないものだと決めつけているだけで」

「様々な……?」

「異世界人、怪異、妖怪、幽霊、超能力者、魔術師、神様、天使、悪魔、など。君は偶然その中の一つと遭遇した」

「……ほ、本当にそういうの、存在するのか?」

 箕狩野蔵曾という、滅茶苦茶な力を使う奴を前にして俺はどうしてこんな馬鹿な質問をしているんだか。

 目の前にいる奴はいともたやすく非現実な力を発揮する存在、なら他にも想像上のものだった奴が存在していてもなんら不思議は無い。

「君達が想像して作り上げたものは元々存在していた、あえて表に出させて我々は引っ込む。そうする事でこれらは想像の産物で“現実にはいない”と悟らせる。それが君の知っている――いいや、知っていた“現実”」

 奥が深いね、現実ってのも。

 真実を知っても、今一ピンとはこない。

 あまりにも規模がでかすぎるのだ。

「ちなみに、私のような者が力を使うと他の者も引き寄せられて近づく傾向がある。もしかしたら会えるかも。いいや、もう会っている……かも」

「魔術師っぽいのなら会ったな」

「それは私の力によって変化した者。本当の魔術師が持つ力は比じゃない」

 是非とも一生会わないでおきたいな。

「この世界はファンタジーで溢れている、今は君を中心に回っていて君の世界観がそれを抑制している、遭遇は難しい。けど君の心境は変わりつつある、加えて私が遭遇させようとすれば、可能」

「やっぱりあの主人公がどうたらとか先輩が喋ってたのは……」

 蔵曾が口にした世界観という言葉で思い出した。

「“立ち位置”は、世界で最も価値がある。所謂主人公というものになれるに等しい。しかし、敵に倒されたらその立ち位置は奪われる」

「じゃあ誰にも襲われない世界観を願えば俺は安全か?」

「変化させられた者、異能の者、強大な力を持つ者、世界に何らかの強い感情を持つ者、影響を受けない場合がある」

 なんてこったい。

「……それで、変化させられた者として先輩は自分の中二病を現実にしてもらって俺の敵にさせて、お前はその立ち位置がなんたらと説明して襲わせたってか」

「君は頭がいい」

 正解のようだ。 

「主人公に敵はつきもの」

「いやいやいや……ジャンルによるだろ、どんなジャンルのラノベ書きたいんだよお前は……」

「学園ラブコメハーレム能力バトルもの」

「詰め込みすぎ、俺の人生をどうぶちこわすつもりだ」

 俺の身が持たない、絶対に。

「そこは、調整する」

「……こんなの、いつまで続くんだ?」

「どうか協力して欲しい、まだまだ満足できない。君がこの素晴らしい日常を過ごしてくれるだけでインスピレーションが刺激され、アイデアは湧いてくる。それを私はメモするの繰り返し、今は執筆にすら至っていない。まだ至る気配もない」

「つまりまだまだ続くって事かよ」

「そう」

 敵に襲われる日も来るであろう。

 先輩は俺を確実に倒す計画をこれからは練ってくるかもしれない、ものすごく不安だ……。

「不安がらないで。ラノベというのは主人公にはとても優秀な能力が備わっているらしい。それを活用する」

「という事は……俺にも能力を!?」

「ご都合主義能力」

「あー……そゆ事」

「頑張ってご都合主義になるような状況を作る、君は敵に負けないよう戦い抜いて。さっきの注意して、というのはそういう意味。メモする時間も欲しいから、よろしく」

「よろしくじゃねーよっ」

 お前のメモのために俺は身を挺して戦わなきゃならんのか。

 ため息が出てしまう、頭を抱えてしまう。

 俺はコーヒーを口へと運んで、とりあえず今は一息つくことにした。

「なんでお前のラノベ執筆のためにここまでやらなきゃならん……」

「君にはお礼をちゃんとする」

「じゃあ今すぐ長身とキリッとした顔つきのイケメンにしてくれ」

「今のままでも十分、その提案は受け入れがたい」

「十分じゃねぇよっ! イケメン希望!」

 わがまま、と呟いて蔵曾はトーストをほおばった。

「この際ショタっぽくしちゃっていい? ショタ主人公の学園ラブコメハーレム能力バトルもので」

「本気でやめろ馬鹿」

 肩をすくめてウインナーをほおばやりやがる。

「ったく……人を何だと思ってるんだ」

「すまない」

 俺の日常をぶち壊しといてその一言のみかよ!

「私からも聞いていい?」

「どーぞ」

「こうなる前と今、どっちがよかった?」

 微妙に悩む質問だ。

 前は前で退屈な日々すぎた、特にこれといって何も無かったあの日々……。

 ああいう平穏はちょっと恋しい。

 けれど今は綺麗な幼馴染に可愛い女友達、寡黙で威厳のある父と料理上手でバリバリ家事をこなす母(しかも煙草は禁煙したらしく煙草臭さはもう無い)、友人関係と家庭環境は今がいい、学校面は孤独を感じるがそれはまあ置いといて。

 誰かに襲われる心配の無い平穏な日常が付け加えられば今のままで問題なし。

 総合的に、考えて――

「……今だな」

「ふむ。私としては幼馴染と女友達とハーレムを築き上げて後々にはベリアルドも引き込ませてもらいたいと願っている」

「ハーレム要素は却下の方針で。あとお前の力で無理やりハーレムってのも絶対にするなよ!」

「しない、君には環境を与えるだけ。あとは自力でやってもらう事に価値がある」

 それは安心した。

 ならばハーレムは今後無いと思っていただこう。

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