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その11.希望は無いんですか?

 月曜日、また一週間が始まると思うと憂鬱になる。

 けれども前よりは少しだけ、憂鬱じゃないかも。

 朝は二人の美少女が俺を待っていてくれて、一緒に登校してくれる。

 学校では左右にその美少女が座り、一緒に授業を受けて授業中は主に左側からちょっかい出されたりしてそこそこ会話があって、退屈はしない。

 ただ、あまり薫のちょっかいに付き合ってやると周りからの殺意が半端なく感じられるので少し抑えようと思う。

 聞き逃した内容や分からないところをノアに教えてもらう、その流れも抑えよう。

 ノアに教えてもらっている間、薫と話をしている時よりもクラスメイトの殺意が膨れ上がっているからだ。


「ちょっといいかしら」


 空腹を満たすべく開放感に包まれた昼休み。

 に、なるはずだった。

 俺は何故かクラスメイトに拉致られて、事情聴取を受ける羽目に。

「土曜日、二人と買い物していたというノア様ファンクラブ会員の目撃情報があったのだけれど」

 ようやく名前を憶えてきた。

 豊中素子とよなかもとこ、隣のクラスの子で、休み時間となればノアにべったりくっついていて、最近は薫とも仲が良くなっていて俺の左右をちょろちょろしている奴だ。

 前から気になってたけど、ノア様ファンクラブは公認なのかな。

「どうなの?」

 鋭い眼光、直視できずに視線を床に落とした。

 てか俺はどうして体育館で正座させられているのだろう。

 周りはこっちを気にしているも、どうでもいいかと言わんばかりに昼休みを堪能してるけど、助けてほしいものだ。

「えっと……あの、はい、買い物してました」

「貴方、どうやったか知らないけど二人を取り込んで何をしようとしているの? ナニをしようとしてるのかしら?」

「いえ……」

「はぁあん? 女子に何をナニなんて意味深な事言わせるの? 殺すわよ?」

 理不尽すぎる!

 ただ反論したら周りに群がるファンクラブ会員らしき人達の反感バーゲンセールとなりそうなのでやめておく。

「そんな性欲垂れ流しな目つきでノア様を見ないでもらいたいわ」

「別に垂れ流してなんか……」

「はぁあん?」

「あ、なんでもないです、すみませんっ」

 帰りたい。

「それにお前、ノア様の幼馴染ですって?」

「はい……」

「それを利用してやりたい放題ってわけ?」

「いえ、全然」

「席替えの時もきっと何か細工したのでしょう?」

「まったく微塵も細工なんてしてないですっ!」

 それは蔵曾の仕業だ。

「登下校も一緒らしいじゃないの」

「そうそう、皆見てるんだから!」

「見せびらかしてるの? はぁあん?」

「そんな事はないです……通学路が一緒なだけで」

 目立ってるだろうなあ……。

 左右に女を連れて登下校なんてさあ、俺でもそんな奴見たら殺意が湧くレベルだもの。

「じゃあ引越しなさいよ」

「無理です……」

 そんな無茶な。

「はぁあん? なら夜が明ける前に登校して」

「それもちょっと……」

「じゃあ死になさい」

「希望は無いんですか?」

 追い詰められている、人生的に。

「どうする? やっちゃう? やっちゃう?」

「拷問しちゃう?」

「拷問なら俺達に任せろ」

 周りの相談はあまりにも酷い内容だった。

 俺は全身から冷や汗を流して、これから決まるであろう判決を待つしかなかった。

 どうしてこうなったんだ……。

「ひ、昼飯は、も、もう食べた?」

「いえ、まだ……」

「い、一緒に、食べない?」

「はい……ん?」

 何か質問がおかしい。

 俺は顔を上げると、豊中さんの隣に美少女が一人立っていた。

 うーん、輝かしい。

「ノ、ノア様っ!?」

 豊中さんが今更ながら飛び上がる。

「ノ、ノアですっ」

 皆がざわつき、戸惑いを見せていた。

「あの、これはですね! ちょちょっと、そのののっ」

 特に豊中さんは戸惑いを隠せずに舌がうまく機能していない。

 幼馴染を体育館に連れて正座させて皆で囲み、その先頭に立っていたとなるとノアが抱く印象はマイナスが予想される。

 だが豊中さんの不安は杞憂には終わるだろう、ノアはそういう奴じゃない。

「あのっ、浩太郎君を返してもらっていいでしょうか……?」

「えっ、あ、あ、は、はい!」

「こ、浩太郎君、行こっ?」

 俺を取り囲んでいた人達には何も言わず、ノアは終始笑顔を見せていた。

 彼女が手を差し伸べる。

 俺はその細い指と、ぬくもりのある手の平に触れて心からほっとした。

「あのっ、こ、こういうのはどうか……やめてください。お、お願いします」

 ノアが深々と頭を下げると、豊中さんは泣き崩れながら土下座をした。

「も、申し訳ございません……!」

 そこまでするか? 逆に俺が何か悪い事をしてしまった気がして申し訳なくなってくる。

 それほどまでにノア様ファンクラブっていうのは熱い奴らが集まっているんだな。

 そんなこんなで、今日は少し遅い昼食となった。

「そんな事があったのかあ」 

 薫は笑いながらおにぎりをほお張っていた。

 薫ファンクラブも実はあって、そのうちまた拉致されやしないだろうな。そうなったら今度は薫に助けていただきたいね。

「み、皆悪気があってやったんじゃないと、思うの。だから、怒らないでっ。怒るなら私に……」

「いや、助かったよ。ありがとう」

 するとノアは一瞬で顔を真っ赤にした。

 照れているらしい、分かりやすいな。

「昔は助けてばっかだったのに、まさかお前に助けられるなんてな」

「こ、これからも助けるっ」

「ありがとうよ」

「俺も助けてやるぜ! 実は小学校の頃、空手習ってたんだぜ。何かあったら俺が正拳食らわしてやる」

 やめてさしあげろ。

 それからは緩やかな授業と休み時間が続いた。

 豊中さんは消沈して机から動かず、何か呟いていたので気になってトイレに行くついでに聞き耳を立ててみると「ノア様に頭を下げさせてしまった……」と、弱々しい呟き。

 他のクラスメイトは相変わらずだが、彼女はノアによほどご執心だったためにダメージはでかそうだ。

 廊下には豊中さんと同じ様子だった生徒が数人、その中には俺を取り囲んだ生徒もちらほら。

 普段なら廊下を歩くだけで殺気を感じたり睨まれたりしたが午後からはそれが少なくて俺の足取りは軽やか。

 トイレに行くにも気が気じゃなかったからね。

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