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その1.リア充が果てますように

「浩太郎! おはようっ!」


「……おはよ」

 美少女が朝から元気な挨拶をしてきた。

「お、お、おはっ、おはようっ」

 続いてまた美少女が言葉はやや躓きながらも、挨拶をしてくる。

 美少女二人と肩を並べて学校へ向かう、男子高校生誰もが羨ましがる朝なのではないか。

 右を見ても美少女、左を見ても美少女。

 周囲には優越感を振り撒いての通学、口元がにやけてしまうってもんよ。

 しかし、疑問が一つ。

 それは大きな疑問だ。

 何がどうしてこんな朝を迎えられているのか――俺の日常というのは、綺麗で可愛い幼馴染とか、女友達なんていやしないはずなのだ。

 一体何処でこうなった?

 何が引き金だった?

 振り返ってみるとしよう。

 ……ああ。

 あれかもしれない。

 ほんの少し前の話――ではあるけどその前に、だ。



 先ずは退屈な俺の学校生活一日を知ってもらうのがいいかもしれないな。

 いや、退屈すぎるから知らなくてもいいがね。



  *  *  *  *



 高校生になって早数週間。

 俺は既に退屈を感じている。

 これといったイベントというイベントも特に起きず、恋愛? 青春? そんなものが早くも消えうせた日常となっている。

 高校生になったからといっていきなりハーレムになったり、異世界にタイムスリップしたり、交通事故(大抵が何故かトラックに轢かれる)に遭って神様が何故か手違いとか言って転生されたりもない。

 実は俺の家系は異能の力を持っていて、唐突に力が覚醒やらもせず、敵なんて現れもしない。

 学校へ行く途中に曲がり角でパンを口に銜えた女の子とぶつかて恋愛フラグに繋がるようなイベントも無い。

 つーかこのご時勢、パンを口に銜えて駆ける人などいるわけものない。

 平凡で平和で、退屈な日常である。

 異世界からの侵略者も悪の組織も怪異も妖怪も幽霊も、漫画などでよくあるのは魔術師や化け物が突然現れて襲われる――期待する妄想は全て叶わず。

 自分はずっと人生に高望みしすぎていたのかもしれない。

 些細なイベントだってそうだ。


 例えばクリスマス。


 幼い頃に一目だけでもと望んでいたサンタクロースはいつまでたっても現れず、いないのだなと悟った頃に、ある意味ではサンタクロースの正体である父さんにサンタクロースを望むも、少しはサンタクロースに扮してプレゼントを届けるくらいの努力をすればいいのにクリスマスの夜は酒を飲んでそのまま寝て、ソファにクリスマスプレゼントが置いてあるのが幼い頃のクリスマス。

 悲しい思い出だ。

 何から何まで平凡すぎて、退屈すぎて、普通すぎてつまらない。

 高望みするだけ損だ。

 俺の人生っていうのは、きっと退屈のみで構成されていてこれからも退屈が待っているんだと思う。

 父さんだけに限らず、


 ――母の作る炒飯は美味い?


 母さんの作る炒飯はしょっぱくて辛いぜ。

 家族にはもはや何も望まない。

 そんなに美味しくない朝食、だらだらとした家族、こんな朝じゃあ気分もまったく乗らないね。

 朝から倦怠感をたっぷりと込めたため息をついてニュースを見た。

 ニュースでは新人の美人キャスターは毎日と言っていいほど一回は噛み、他のチャンネルに切り替えても興味を引くものは無く、テレビすら今や俺の中では退屈に飲み込まれてしまっている。

 アニメや漫画みたいな世界にでもなれば退屈しないで済むかもなあ。

 ああ、でもどうかなそれも。

 ああいうものも中学の折り返し地点あたりから退屈だと思い始めていた。

 当時、全国的に大ヒットしたラノベがあったのだけど、勧められて読んでみたものの俺にはそのラノベの面白さが一切分からずにつまらないと一蹴していた。

 自分が退屈な人間で退屈だと常々思っていて、退屈まみれな人生だから、何もかもが退屈でつまらなく感じてしまうのかもしれない。

 何でもいいから、この日常……変化して欲しい。

 ……くだらない願いだ、そしてこんな俺の願いなど叶わないのは分かっている。

 これからも退屈な日々は変わらない。

 俺の周りが何か変わるわけもない。

 幼馴染も実はいる。

 平凡な家庭に平凡な友人関係、その中で幼馴染の女の子がいるというのは貴重だ。

 幼い頃はいじめられているところを助けてやったり、よく一緒に遊んでやったりしていた。

 日常を変えてくれるスパイスになるかと思いきや、今じゃあ話どころか、一言すら言葉を交わす事が無くなった。

 高校では同じクラスになったのに、接点が皆無でいないのと同じだ。クラスでもあいつはいるかいないか解らないくらい存在がぼんやりしてるしね。

 何かの手違いで空気と融合してしまったんじゃないかな。


「なあ浩太郎こうたろう。お前さ、あの子幼馴染なんだろ? 仲はいいの?」


 中学からの付き合いである友人――雪寺薫ゆきでらかおるは、歩道の端をなぞるように歩く幼馴染を見て呟いた。

「もう何年も話してない、目が合ってもすぐに逸らされるくらいの仲」

 彼女の名前は上月こうづきノア、名前は日本人っぽくないが歴とした日本人だ。

 身長は低く、寝癖がついたままのややぼさぼさした感じに見える髪に牛乳瓶みたいな眼鏡。

 体形を一言で例えるなら寸胴。

 身だしなみに気を配らないところから、女を捨ててるのか? そう言いたくなる容姿だ。

 寝癖くらい直せよな。

「変わった名前だよなあ、ノアって」

「そういう名前付けるの昔流行ったろ? そのうちの一人さ」

 外国じゃあノアって男の子につける名前なのに、響きだけでつけられたっぽくてちょっとかわいそう。

 けれど確かに響きは可愛いって思っちまう、本人はどう思っているか分からないけど。

「なるなる。しっかしあの暗いオーラ、近寄りがたい。それにあんな眼鏡、分厚すぎてやばくね?」

「相当目が悪いっぽいな」

 話をしているとノアはこちらをちらりと見て、目が合った。

 言葉を付け加えるならば“今日も”だ。

 何気に毎日俺を一瞥してくるのだあいつは。

 何の意味があるのかは知らないし知らなくても構わないし知る必要も無いがね。

 けど見られるたびに少しばかり、ほんの少しばかりイラっとする。

 何か言いたい事でもあるのなら口で言ってほしいぜ。

 ノアとはいつも一定の距離で同じ歩調。

 その距離が縮まるのは学校に到着して靴を履き替える時くらいだ。

 さあて。

 平凡な学校、クラスに到着。

 これといって不良がいるわけでもなく、学園のアイドルもおらず、ごく普通のクラスメイトばかり。

 可愛らしいヒロインすら存在しない。

 担任はというと、

「皆さんおはようございます授業をはじめますので席についてくださいそれでは出席をとります」

 少しは読点をつけて話してくださいよ長波先生。

 ロボットかよってツッコミを入れたくなるくらいに淡々として不気味なんですけど。

 しかも無表情でホームルームや授業は作業の一つみたいにでも思っているのか? もう少し熱意を持って指導して欲しいものだ。

 俺の知ってる熱意っていうか熱いって感じのは「頑張れ頑張れやれるやれるできるできる絶対出来る出来るって!」てな感じでものすごいよ?

 少しはその人から学んだらどうかな? ネットで調べれば動画いっぱいあるから。

 先生ももっと熱くなれよぉ!

 心の中で叫んでおこう。

 色々と考えてみると……。

 高校の選択を間違えた気がしてならない。

 いいとこを見つけるのが難しいくらいに、この学校はこれといった良さが見つからない。

 部活も弱小の集まり、学校の年間イベントを見たが変わったものや面白そうなものは一切無く、この学校はいつ盛り上がるのかと問いたくなる。

 環境もちょっとな、よろしくないね。

 置かれてる自動販売機は種類が少なく、食堂はメニュー豊富であるがどれもごく普通の味。

 購買はいい品揃えでもなく、昼休みはその購買で普通のおにぎりとパンを購入ときた。

 ほんと、ため息が出るね。

 午前中だけで何回ため息ついたかな?

 薫は弁当を作ってもらってて羨ましい限りだ。

 母さんも面倒がらないで弁当作ってほしいな。

「よくあいつら校庭とか体育館で遊んでられるよな」

 薫は冷たさをたっぷりと込めた視線で騒がしい校庭を見つめていた。

「体力の配分ってものを知らないんじゃないかな」

「若しくは青春真っ盛りだぜ! 的なのをやろうとしているのかねえ」

「人生楽しそうだな」

 俺達の会話はいつだって退屈で内容が高校生としては終わっている。

「屋上は屋上で、来るのはリア充ばっかでこれまた楽しそうだ」

「リア充は爆発すればいいのに」

 殺意を込めて俺はリア充共を見た。

「本当にな、汚い花火となって爆発すればいい」

「リア充が果てますように」

「激しく同意なのでその願いが叶いますように」

 空に向かってお願いを呟く男二人。

 嫉妬に塗れた酷い会話。

「……何か面白い事起きないかな」

 俺は空に向かってその願いを呟いた。

 当然空は何も言葉を返してくれず、小さな雲がゆっくりと揺らめいているだけ。

「面白い事って?」

「何でもいいよ、ため息が少なくなるような事であれば」

 些細な事でいいんだ、退屈を紛らわせてくれるなら。

 願ったところで何も変わらず。

 退屈な午後を終えて放課後。

 俺はいつものように薫と帰路についた、話す内容は眠気を誘う授業の愚痴や嫌いな先生の愚痴ばかり。

 毎日飽きずに、いいやもう飽きているのだけど話題がないので愚痴にすがっているだけだ。

 俺達の青春は始まる前から終わってる気がしてならない。


 俺の学校生活はこんなもんだ、これまでを漢字二文字でまとめると――退屈、はい終了。


「あ、俺今日ちょっと寄るとこあったんだった」

「そっか、またな」

 薫と別れるのは惜しいが仕方が無い。

 そこそこ時間があるので街の本屋へと俺は向かった。


周りにリア充が多すぎて辛いです

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