第六章 エンドロール 2
残された下半身が倒れ、地面に臓物と血液をまき散らす光景を冷めた調子で確認しながら、何事もなかったかのように思索する。
――私が生きているとは限らない、か。さて、これはどんな意味を持ってるのかな。
普通に考えれば、死んだ誰かが犯人、という結論が出る。
けれどもそれはありえない。今まで死んだ者達は、まず間違いなく生きているわけの無い死に様であったのだから。
レベッカ、レイチェル、セシリー……
と、ここで、過去を振り返ったことにより、義人の脳内で一つの疑問が解消された。
――モノリスを最初に触って……第一問目に挑戦した時……あの時感じた違和は、そういうことだったのか。
『あ、ようやく気づきましたか。うすのろですねぇ、全く。頭の回転が非常に遅い。それに反して射せ――』
――あの時点で、今の結論に近い場所へ行くことができたのか。つくづく、作為の臭いを感じるな。ヒントは問題の答え以外にも存在した。僕がここで過ごした時間中、様々なタイミングでヒントが提示されてたんだ。
なんにせよ、パズルは完成した。
あとは、その図面が正しいか否かを確認するのみ。
もし義人の推理が正しければ、今後どこかで再び怪物が襲撃してくるだろう。
そのタイミングで、全ての真相が明らかとなるはずだ。
そう確信しながら、彼は残った三人を連れて歩く。各々暗い表情となっているが、どうでもいい。
どうせ、全員死ぬのだから。
さて。進行を再開してから早二〇分が経過。時刻はまだ昼辺りなので、全然余裕がある。おそらく、本日中にケリがつくだろう。
が、こんな茶番に長々と付き合ってやるつもりはない。
なので、義人は積極的に敵の召喚を狙うこととした。
一一枚目のモノリスを発見する。此度も道路の真ん中に配置されたそれへ、義人は近寄っていく。
「もう問題に挑戦する必要はねぇだろ」
「そうだね。今後は探索に集中した方が――」
「うるさい」
無感情無機質。相棒の口調そっくりな調子で言い放ちながら、モノリスへと近づき――
触れようとした瞬間、何かが地面を抉るような音が、周囲に響き渡った。
ようやく来たか。そう思いながら背後を向くと、ついさっきセシリーを殺した怪物と同種の個体が、今度はナンシーに襲い掛かっていた。
タイミング的に間に合わない。だから、義人は食いちぎられるナンシーを無視して、周辺事情の把握に努めた。
どうやら、現れたのはワーム型の怪物だけではなかったらしい。
どこに隠れていたのか、多種多様なクリーチャーが姿を現した。
左側の道路から、重量感ある足音を響かせてゆっくりと接近する個体。頭がカエルに似ており、体はサイやゾウに酷似している。体色は灰色一色で、なんとも気味が悪い。体高は七メートル。体長は一五メートルといったところか。
続いて建造物に目をやる。
ビル群に巻き付くそいつは、馬鹿みたいにデカいムカデ・ヤスデという説明で事足りる。全体のフォルムもそうだが、小刻みに揺れる触覚が一番気持ち悪く感じた。
さらに空。
ちょっと前に殺した翼竜型の怪物が無数に飛び交っている。ついさっきまでいなかったというのに。
これではまるで、いきなり湧いて出たかのようではないか。
そう思った矢先、本当に複数の個体が湧き出た。
背丈の低い建造物の屋上部に、突如人型の怪物が現れる。その姿は密林で始末した連中と瓜二つ。相違があるとしたなら、右肩にキャノン砲らしきものを装備していることぐらいだ。
グルリと周囲を見回す。
どうやら、完全に包囲されたらしい。
といって、白髪の少年に恐怖など一抹すらなかったが。
それに反して。
「あ、あああああ………………」
イリアは、怯えきった様子で尻餅をついた。
ソフィアもまた、冷や汗を流し、顔を強張らせている。
――さて、次は誰になるのかな?
全員を敵と見定めた時点で、彼の中に情けなど一切ない。
救わねばならぬ対象、救いたい対象、いずれでもない連中がどうなろうとも知ったことではなかった。
というかそもそも――
人間なのかどうかすら、怪しいように感じられる。
これについては単なる勘でしかない。それを黒幕当人に確認するためにも、ここで彼女等は見殺しにさせてもらう。
そして、襲撃が開始された。




