第六章 エンドロール 1
本日も、探索開始の時間はこれまで通りだった。
しかし、その様子は平常運転とはいかない。ムードメーカーのナンシーですら口を閉ざしており、そのため、一行は完全に沈黙したまま進行する。
黒幕が同行者の中に居るから。というのがその理由なのだろうが、義人からしてみればどうでもよかった。
特定の一人を除けば、彼女達はカカシも同然の存在である。
だから。
「……おい、もうモノリスに触るこたぁねぇだろ」
そんな言葉も、完全に無視する。
探索の途中、一行は道路の真ん中に配置された石版を発見した。
もしも黒幕がセシリーであったなら、ナンシーの言う通りである。けれども義人の推理は全く違うものだ。
それが正しいことを証明するためには、材料が必要となる。
それを求めて、彼は次なる問題へと挑戦した。
◆第一〇問
Q、マラソンで三位の人を抜きました。さて何位になったでしょう
提示された問題に、義人はしばし考え込む。
それから。
「三位。答えは三位だ」
結果は、
『コングラッチュレーション。正解です。なんとも調子がよろしいようで、こちらとしても喜ばしい限りでございます』
代理人の称賛の後、イヴが声をかけて来た。
『ひっかかりませんでしたか。面白くありませんねぇ』
――解き方のパターンがもうわかったって言っただろ。……まぁ、一瞬間違えそうになったけども。
先刻の問題、何も考えずに答えると、正解=二位と言ってしまう者が結構いるのではなかろうか。
三位を抜いた、という部分が、挑戦者をひっかける要素である。
三を抜いた。つまり順位は三の次、二であると錯覚してしまう。
だが、よく考えればそうでないことがわかるはずだ。三位を抜いたのは自分。であれば、自分は四位の状態にある。
四位が三位を抜けば、順位は三位になるに決まっているのだ。
――本当に、巧妙な形で引っかけて来るな。思えば、この状況は全てがそうだ。全てが、ひっかけ問題と同じだ。あの手この手で真実を隠し、僕を騙そうとして来る。けれど、そんな茶番はもう終わりだ。あと一歩で、真実に辿り着く。
此度のヒントは、それを実現してくれるものであろうか。
そう思いつつ、彼は言葉を紡ぐ。
「さぁ、ヒントを貰おうか」
『了解いたしました。第五のヒントは……“私が生きているとは限らない”』
その情報に、義人は最後のピースがガッチリとハマったような感覚を覚える。
だが、それと同時に。
上空より、けたたましい咆哮が轟いてきた。
天を見上げてみると、一〇メートル近い巨体を持つ、翼竜に似た化物がこちらへと接近していた。
怪物が再度吠える。
それに対し、義人は瞬時に変身し、
「うるさいんだよ、この鳥野郎」
怪物のすぐ傍に血色に光る剣を無数に創造し、それを推進させる。結果、翼竜じみたそいつは一瞬でハリネズミへと変貌したのであった。
邪魔者が居なくなったので、思考を再開しよう。
そう思った矢先、背後から何かが砕けた音が響いた。
振り返る。それと全く同じタイミングで、彼の視界に在った人物、セシリーの上半身が消えた。
事態の詳細はこうだ。
地中よりワーム型の化物がアスファルトを突き破って出現。奴は多くの牙が生え揃った口でセシリーの上半身を食いちぎると、すぐさま堀った穴の中へと退散した。
これでまた犠牲者が増えたわけだが、義人にはなんの関心もない。
 




