第五章 クライマックス 1
六月一八日。
本日も、一行は早朝から探索を開始した。
だだっ広いエリア内を、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。そんなこんなで三時間程度が経過したものの、やはりなんの収穫もない。
そういうわけで、別のエリアを目指して進行し――
一行は、そこへ足を踏み入れた。
此度の探索地は、大都会である。摩天楼と評するに相応しい建造物が無数に並び立つ。それらが等間隔に配置され、広々とした道路が碁盤状を形成している様は、アメリカ人の同行者達にとって相当なじみあるものであるらしい。
「まだこっち来てから四日だけどよぉー、この街並み見てると、なんだかホームシックになっちまうよなぁー」
「そうだね。ここはボク等のホームタウンにそっくりだ。早く帰りたいもんだよ。ニューヨーク、マンハッタンに」
「帰ったらまずステーキが食べたいですねぇ……ウルフギャングの絶品ステーキ……」
「……わたしは寝る」
周囲の景観を眺めながら、同行者達は口々に言う。
一方で、義人はというと、
――これで探索エリアも四つ目、か。前情報だと、エリアは残すところあと三つ。……タイムリミットまでまだ余裕があるけど、探索する場所はそうでもない。どんどん減ってる。それなのに怪獣のことが未だにほとんどわかってないってのは、相当まずいな。
危機感を覚えつつ、同行者と共に街の中を歩く。
道路の真ん中を進み周囲を見回す。そうしながら、白髪の少年は考えを巡らせた。
――黒幕がこの中に居る。一時は嘘の可能性が高いんじゃないか、と思ってたけど……もしかすると、あり得るかもしれないな。
脳内にて、義人は入手したヒントを並べる。
――私は特等席でお前を見ている。私は嘘つきである。私には重要な任務がある。……まず特等席云々は僕等の周辺に居るって意味じゃない。もしそうなら、僕の探知能力に引っかかるはずだ。だから、このヒントは僕等の中に黒幕がいることを意味してると見ていい。で、次に私は嘘つきである。これが曲者だ。ヒントの中に嘘があるって意味なら、もはやこの犯人探しそのものが成立しないといっても過言じゃない。……けど、どうにも“別の意味”がありそうなんだよな、このヒントには。それはさておき、三つめの重要な任務があるってやつ。これについても、色々と解釈できる。でも、そのまんまだとした場合……。
考え込んだ末に、義人は一人の少女を脳内に浮かべた。
――セシリー……この子が、今のところ一番怪しい。氷雪地帯で吐いた、任務云々って台詞は三つめのヒントを示してる感じだし、二つ目の嘘つきってところも、彼女は当てはまってる。……でも、ちょっとおかしいんだよな。あからさまに怪しすぎる。というかそもそも、“今まで得たヒント自体、何か妙だ”。ヒントには“一つの法則”が存在するように思えてならない。もし、それが事実だった場合……。
義人の中には、多くの疑念があった。
黒幕、ヒント、違和感。しかし、それを解決するにはまだ材料が足りない。
だから、それを得るために彷徨う他ないのだ。
そして――彼と同行者達は、材料の一つを提供してくれるかもしれない物体の前に到達した。
駅前エリアの駐車場。その只中に在る、まっ黒なモノリス。もう見慣れてしまったそれに、義人は触れた。
◆第八問
Q、今日は『スイーツ』の国の舞踏会
その途中、アップルパイ君は踊っている最中にサイフを盗まれてしまいました。
アップルパイ君は「最初に僕が会った相手が盗っていったんだろう」と思い、
今日会った相手にどういう順番だったかを聞いて周りました。
すると
マカロン「僕はタルトよりも前のグループさ」
タルト「えっと、私はクッキーのすぐ後よ」
キャンディ「僕? 確かタルトよりも後だよ」
ビスケット「僕はマカロンよりも前だったね」
クッキー「ビスケットの後ろをずっとくっ付いていたんだ」
キャラメル「マカロンは嘘をついてるよ……」
チョコレート「ワタシはタルトちゃんの後の後の後なのよ」
さて、財布を盗んだのは誰でしょう
提示された問題に、皆が首を捻る。これもまた、定番化した光景である。
『今回の問題も、随分といやらしいですねぇ。作った人間がどんな顔をしているのでしょう』
――きっと君みたいに不愉快なツラだろうよ。
『わたしのような美少女を捕まえて、随分な言い草ですねぇ』
鼻を鳴らす義人。そうしてから必死に考えるが、やはりわからない。




