第三章 影が行く 6
数瞬後、結果が発表される。
『正解。コングラッチュレーション。おめでとうございます』
代理人の、無機質な称賛が響き渡った。そのすぐ後。
『正解を確認いたしましたので、ヒントを差し上げます。第二のヒントは……“私は嘘つきである”』
それを受けて、義人は眉根を寄せる。
――私は特等席でお前を見ている。私は嘘つき。……もしかして、前者は嘘のヒント、ってことか? そもそも、ヒントに意味なんかないって線もありうるな。
ひとまず、考えるのはやめにした。無線を使って状況の報告を――
と、ここで、義人は違和を感じる。
さっきから、レイチェルが静かだ。
彼女の性格からして、正解時はもっと騒ぐのが自然ではなかろうか。
では、なぜこうも喋らない?
嫌な予感を覚えつつ、白髪ツインテの方を向いた。すると――
「――――っ!」
思わず、息を飲む。
最悪だ。また、犠牲者が出てしまった。
佇立するレイチェル。その頭部を覆うように、何かが付着している。黒みがかったピンク色のそれは、まさに肉の塊。その内部から、ぐちゃぐちゃという気持ちの悪い音が聞こえてくる。
刹那、白髪の少年は瞬時に攻撃行動を取った。
漆黒の鎧へと変身。次いで、自然発火にてレイチェル、否、彼女だったモノを焼き尽くす。
様子からして、生きてはいまい。あの肉塊がこれ以上何かする前に始末する。その考えのもと実行された攻撃は、二秒とかからず標的を焼き尽くし、後には灰すら残らなかった。
『やっぱアレでしたねぇ。まぁ、微妙な違いはありましたが。それはさておき……今、あなたどんな気持ちですか? 絶対守れるとか思ってましたよねぇ? でも結果はこのザマ。あなたチョー恥ずかしい人になっちゃってますけど、今どんな気持ちなんですか? ねぇ?』
イヴの言葉に、少年は何も返さなかった。
その代わり、心の中で疑問符を吐き出す。
――レベッカの時と、全く同じだ。何も感じない。守れなかったのに、なんの苦痛も感じない。心底からどうでもいいって気分だ。まるで、そう、興味のない音楽番組を見てるような感じ……。
その理由は、薄情だから、の一言で説明できるのだろうか。
いや、違う。やはり、それは違う。
では、なぜこうも感じ入るものがないのか。そう問われたなら、黙るほかない。
とりあえず、ヒトの姿へと戻った。
その途端、無線が同行者からの連絡を知らせて来る。
操作し、通話。すると。
『よ、義人さぁん! た、助けて下さぁぁぁい!』
イリアの叫びが、耳朶を叩く。
「場所は?」
『お、汚水処理棟ですぅ! だ、大至急――』
途中で無線が切れた。状況を想像すると同時に、義人は変身し、現場へと向かう。
居住棟と汚水処理棟は、丁度向かい合うような形で配置されている。そのため、普通に通路を進んでいくと時間がかかりすぎる。
よって、彼は最短ルートを選択した。
壁をブチ破り、二階から外へと跳ぶ。刹那、創造を発動し、着地地点にバイクを創り出した。
それに乗り、すぐさま発進。次いで、竜を模したヘッドの両側面に存在する、ブレード状の部位を前方へと展開。切っ先が一点に集中し、刃が血色の輝きを放つ。
そして対面の壁を突き破って、汚水処理棟へと侵入。
内部には巨大なタンクが並んでおり――その只中にて、四人が謎の怪物達と交戦中であった。
敵方の姿は、まさにおぞましいという言葉の体現。肉の塊が表することのできぬ歪極まりない形状となっている。そんな化物が、棟の内部全域におびただしい数存在しており、四人の少女達に襲い掛かっていた。
『必死こいて応戦してますが、分が悪そうですねぇ。数の暴力があるとはいえ、こんな雑魚っぽい奴等に押されるとか、どんだけ弱っちぃんですか』
イヴの毒など、構ってはいられなかった。
四人の状態は、非常に危うい。戦闘に参加しているのは二人だけ。ソフィアが短い茶髪を揺らしながら体術で応戦し、ナンシーが口から音の衝撃波を放ち、攻撃する。
イリアとセシリーは、怪我をしているようだった。特に、セシリーはかなりの重傷であるらしい。腹部を抑え、膝をついている。そんな彼女の傍に居るイリアもまた、顔色が悪い。
早急に片付け、治癒せねば。
そう判断し、義人は攻勢を開始する。
それは、ただただ一方的な虐殺だった。
バイクを駆動させ、敵の群集を刃で貫く。機体の後方部、膨らんだ両側面を展開し、ミサイルを全方位に射出。爆炎により怪物達が次々と木端微塵になり、肉片が四方八方に飛び散る。
結局、義人がやって来てから一分に満たぬ時間で、怪物の群れは殲滅されたのであった。
ド派手に暴れたがために、棟内部は惨憺たる有様となっている。その中を歩きながら、漆黒の鎧はイリアとセシリーに近寄った。




