第三章 影が行く 5
イリアから予備の無線をもらい、それから別行動を取る。
義人・レイチェルチームは居住棟を調査することとなった。早速通路を歩き、目的地へ向かう。その最中。
「……忘れてた。気温調節をしてなかったね」
ブラックの力により、少年の周辺環境は常に快適なものへと変化する。しかし、その恩恵をレイチェルは受けられない。
それを失念していたため、彼は熱操作による気温調節を行っていなかった。なのに。
「寒いのなら我慢せずに言って欲しいな。体調が悪くなっても治せるけどさ、傍に居る人が苦しむのは気分が悪いし」
「ん、あぁ、すまんすまん。寒さには強い方でな。すっかり忘れておったわ」
ガハハと豪快に笑って見せる白髪ツインテ。そんな態度に、義人は怪訝となった。
――いや、おかしいだろ。ここの気温、高く見てもマイナス一〇度前後だぞ。それを寒くないって……どういう神経してるんだ?
『馬鹿は寒さを感じないのでしょう。ほら、あなただって寒くないでしょ?』
相棒の悪口など、興味の埒外だった。
妙な違和を感じる。しかし、それが何を意味しているのかはわからない。
モヤついた気持ちを抱きながら、義人はレイチェルと共に居住棟へと入った。
一階の時点では、特にこれといった何かはない。しかし、二階に上がった矢先、二人はそれを発見した。
通路のど真ん中に在る、モノリス。
義人とレイチェルはそれに近寄ると、
「皆を呼ぶか? オレとしては、二人で挑んでも問題ないと思うがな!」
これまでほとんど役に立っていないというのに、なぜドヤ顔ができるのだろう。
そう思いつつ、義人は顎に手を当て。
「……そうだね、別に、二人でも問題ないか」
これまでの経緯を思い返してみると、同行者達の頭脳が役だった場面がほとんどない。そのため、彼は実質一人で問題に挑むこととした。
石版に触れる。瞬間。
◆第四問
8 10 3 1 7=4
4350 701 83=□□□□
パスワードは□□□□
という内容が表示された。
「おぉ、今回はオレにも気づくところがあったぞ!」
「……何かな?」
「正解は数字だ! それも四文字!」
「……スゴイネー」
棒読み口調での返答。それから、イヴによる追撃。
『こいつもうわざとかってぐらい馬鹿ですね。数字か否かはまだ判然としていませんし、正解が四文字かどうかもわからない。後者については我々を偽るための情報である可能性もあります。そこにすら気づかないとは……芝居であってほしいと願うぐらいの馬鹿ですねぇ。頭も股もゆるゆる――』
――なんで一々下ネタにつなげようとするのかなぁ? そんなことより、君も考えてよ。戦力が君しか居ないんだから。
『面倒くさいですねぇ』
その一言を最後に、しばし沈黙。
頭をひねりながら、義人は思索する。
――数字毎の空白、区切りに何か意味でもあるのかな? パッと見だと、なんらかの法則性とかはなさそうだし……数字を単語に変化させる、といった仕組みもないように感じる。
瞬く間に一分が経過。
それに焦りを感じつつ、考察を続ける。
――正解は数字、か? けど、どうやってそれを求めるんだ? イコールが配置されてるってことは、なんらかの計算を行うことになる、はず。でも、計算をするための記号なんか、どこにも……。
瞬き一つすることなく、数字の羅列を凝視し続ける。
と、ここで、少年の脳内にアイディアが浮かんだ。
「もしかして…………変化させれば……」
頭の中で、それを実行に移す。
各数字を、漢字に変える。
つまり、
8 10 3 1 7=4
4350 701 83=□□□□
これを、
八 十 三 一 七 =四
四千三百五十 七百一 八十三=□□□□
こうする。
と――
「記号が、できあがった……!」
漢字に変更した数字達を少しいじくってやると、
八+三-七=四
四千三百五+七百-八+三=□□□□
こうなる。
よって、この問題の解答は、
「五〇〇〇。答えは、五〇〇〇だ」




