第二章 密林の悪魔 21
「もう、大体予想がつくだろう? オレはギャングに復讐した。その時点で、異能を持っていたからな。報復はさほど難しいことじゃなかったよ。だが、一人残らず皆殺しというわけにはいかなかった。どうやっても、何人かは取り逃がしてしまう。結果として、そいつらに親を殺された。復讐の末に得たものは孤独だけ。それからオレは街を離れ、軍に入った。死地を見出すためにな。……任務と訓練の日々を過ごす中、オレは何度も過去を振り返った。振り返りながら、思うのだ。あの時オレがしたことは、正しかったのか、と」
彼女は片手で顔を覆いながら、
「当時は、正しいも何もなかった。ただ、衝動だけで動いていた。その結果が今だというのなら……きっと、オレは間違ったのだろう。あのギャング達にも肉親が居たに違いない。そいつらはオレと同じ気持ちになったに違いない。復讐をしてオレが成したことは、大勢の自分を作っただけなのではないか、と思うと……オレは、殺した相手の肉親に申し訳なく思うのと同時に、復讐を恐れるようになった」
これでお終いとばかりに息を唸らせるレイチェル。
彼女が述べた過去には、妙な違和感があった。
この内容で、なぜ復讐を恐れるのだろう?
普通、返り討ちにしてやる、といった気持ちになると思うのだが。
とはいえ、考え方は人それぞれ。理解できずとも別段不思議ではない。
ゆえに、義人はそこに言及することはせず、
「……随分、壮絶な人生を歩んできたんだね。僕も一応、そういうギャング的な奴等を日常的に潰してきたから、なんとなく気持ちがわかるよ。……ともあれ、君の話を聞いてハッキリしたことは、君が恐れる復讐者が、僕じゃないってことだ。だって僕は純粋な日本人で、外国に兄弟が居るってわけでもない。だから君を恨む理由が何一つとしてないんだ」
彼の発言に、レイチェルは何も返さなかった。
それもそのはず。純日本人であり、兄弟がいないという情報が、真実か否か彼女には判断不能だからだ。
『別に疑われていようがいまいがどうだっていいでしょう。こいつらに何を思われていようと、わたしがあなたのことを愛しているという事実さえあれば何も――』
――脈絡のない口説き文句ってさぁ、ただひたすら鬱陶しいだけなんだよねぇ、この小蠅女。
相棒を罵倒してから、彼はセシリーに視線を向けると、
「不躾で申し訳ないとは思うけれど……君にも、何か暗い過去があるんじゃないのかな?」
遠慮がちに放たれたその問いに、彼女は首を横に振った。
肩まで伸びた金の髪を揺らすセシリー。それに対して、レイチェルは、
「おいおい、お前だけ言わんというのはナシだぞ。オレだってあまり言いたくなかったんだからな」
少々憮然とした顔となる白髪ツインテ。さりとて、金髪の少女はというと、
「……ない」
ただ一言、そう返すのみであった。
その後も何度か追及してみたが、彼女は「ない」の一点張り。
結局、義人とレイチェルは興味をなくし、各々時を過ごした。
その最中、白髪の少年はセシリーに妙な不審を感じ取る。
心なしか、彼女の深緑の瞳に憎しみが宿っていたような気がした。
それを向けられていたのは――
レイチェル・コフナー。
どうにも胸騒ぎがする。しかし、さしもの義人も、未来を予知して変化させることはできない。
何事も起こらねばいいが。そんな叶わぬ願いを胸に抱きながら、彼は一夜を明かすのであッた。




