第二章 密林の悪魔 12
「なんというか、色々とツッコミたいところがあるんだけど」
「おう、あたしも聞きてーところがいくつかあるぜ。まず、モノリスってなんだよ?」
『そのままの意味です。真っ黒な石版。それ以上でも以下でもありません。これについては、見ればわかるようになっておりますのでご安心ください』
返答と同時に、他の面々も次々と声を飛ばし始めた。
「提示された問題、とは、一体いかなるものなのだ?」
『お答えできません。ただ、物騒なものではないとだけお答えしておきます』
「ヒントを得て、真実を解き明かす。そう言ったわよね? その真実とやらは一体どういうことかしら?」
『そうですね……あの狂人様はそこまで細かく設定しておりません。とりあえず、“黒幕を当てる”という解釈をしていただきたく思います』
「つまり、こういうことかな? ボク等はモノリスとやらを探し、問題なるものを解き、得られたヒントをもとに、おそらくはこの島に居るであろう黒幕とやらの正体を暴く、と」
『肯定いたします。ただし、黒幕がこの島に居る、という部分のみ、否定も肯定もいたしません』
「はぁ。ということは、ここに居るかどうかはわからないってことですねぇ……」
「……面倒」
反応は人それぞれだが、状況を受け入れているという点は共通している。
それを悟ったか、代理人が締めくくりの言葉を送ってきた。
『では、これよりゲームをスタートいたします。……あ、説明事項に言い忘れがありました。まぁ、別段進行の障害になるものでもありませんし、後々お伝えいたします』
なんともいい加減な感じ。そこらへんもイヴにそっくりだった。
嫌気が吐息となって放出される。その後、義人は今後の方針を確認すべく、口を開いた。
「僕等の最終目標は、ヒントを集めて黒幕の正体を暴くってことでいいね? それと並行する形で、怪獣について調査。破壊しても問題ないといった確証が得られたなら君達は脱出。僕がこいつを消す。と、こんな感じかな?」
それに対し、全員が肯定の意を返した。
そんな彼女等に頷くと、
「じゃあ、早速行動しようか」
先陣を切って、歩き出す。
彼に従う形で、六人もまた進行を開始した。
この密林エリアは、まさしくジャングル内部といった風情である。気温、湿度共に高く、鬱蒼と生い茂った雑草が邪魔でしょうがない。
当然、人の手など入っていないため、一行は道なき道を行くこととなった。
腰まで伸びた草花を、義人が異能で切断し、進む。ちょっとした崖を登ったり下ったりもした。
探索をスタートしてからおよそ三十分。凡人であれば、とうの昔に精根尽き果てているだろう。だが、そこはさすがスペシャルチーム。誰も彼も平然とした顔を維持している。
しかもそれだけでなく、雑談をするぐらいの余裕まであるらしい。
「にしても、マジであっちぃなぁ。あ、暑いといや、ちょっと前に聞いた話なんだが――」
「言わなくてもいいわよ。どうせくだらないジョークでしょ?」
「おいおい、ネタつぶしはマナー違反だぜ? つーか、あたしのジョークはウケを狙ってるわけじゃねー。場を和ますためにやってんだよ」
「む? そうだったのか? オレはてっきり、場の空気を寒くするためだと思っていたが」
「……レイチェル。オメーの毒舌は悪意がねぇから心に突き刺さりやがるぜ……」
こんなやり取りをしながら、メンバー一同は頻繁に笑い合う。
どうやら、ナンシーはチームにおけるムードメーカーの役割を担っているらしい。
他のメンバーについても、義人の主観でしかないが、誰がどういうことを担当しているのかこの短時間で簡単に把握できた。
ソフィアはリーダー、レベッカとセシリーは参謀、レイチェルは荒事、イリアは周辺の警戒。
皆性格が面白いくらいハッキリしていて、それが行動にも表れるため、非常にわかりやすい。
反面、そのわかりやすさが怪しさを生んでいる。
『こいつら、やっぱり妙にわざとらしいですねぇ。演技してるのがもろバレですよ』
相棒の言葉は、否定できなかった。
表面上、気のいい女集団であるが、内面で何を考えているかはわからない。
さりとて、どういった企みをしていようとも、自分を害することはまずできないだろう。籠絡されるということもありえない。
なぜならば、彼の心は一人の少女に捧げられているのだから。
――白柳さん達は、今頃学校、かな。
『おやおや、もうホームシックですか。情けないですねぇ。しかし寂しがることはありません。わたしが居るのですから。それだけでもう十分でしょう? マイダーリン』
――確か、この時間は数学の授業だっけ。白柳さんは今日も問題を出し返して、先生を半泣きにさせてるのかな。天馬の方は……きっと寝てるな。あいつ数学嫌いとか言ってたし、三回に一回は寝てるもの。
『相変わらず清々しいスルーっぷりですね。それならばこっちにも考えがあります。昨夜一晩かけて考えた淫語責めを延々――』
と、その時、奇しくも相棒の言葉を遮る形で、レベッカが声を上げた。
「ねぇ。アレって、例の石版じゃないかしら?」




