第二章 密林の悪魔 11
さりとて、やはり確証はない。よって思考を切り替え、メンバーに向けて声を投げる。
「君達はこの任務に向けて選抜された一流の人間。そういう解釈をしてもいいのかな?」
「ははははは! 面映ゆいなぁ!」
「べ、別に、ブラックナイト様に褒められて嬉しいだなんて思ってないんだからねっ!」
「あひゃひゃひゃひゃ。あたし達ゃ軍の中じゃ割と有名だぜ? 見た目と実力のギャップがすげぇってよぉー」
「嘘はダメだよ、レイチェル。ボク等の情報は秘匿されてるんだ。軍内部でもボク等の腕を知ってる人間なんかさほど居ないじゃないか」
「け、けど、お仕事はしっかりやりますよぉ。今まで失敗したことはありませぇん」
「……肯定」
各々の反応を聞き届けた後、義人は小さく頷いてから。
「うん、わかった。君達は自己防衛が十分可能な人達ってことだね。じゃあ、僕が居なくても問題はないってわけだ」
「えっと、それはどういうことかな?」
「僕の活動速度は君達よりもずっと早い。異能を駆使すれば、怪獣の体表全土を回るのに三時間もかからないんじゃないかな。だから、僕は単独調査を――」
喋る最中、“聞きなれた”声が周囲一帯に響き渡った。
『それは困ります。いえ、別にわたしが困るというわけではないのですが』
突如耳に入ったそれに、義人を除く全員が、顔に警戒の色を宿した。
そう、少年のみ、別の反応を示したのである。
なぜなら――
聞こえて来た声が、相棒のそれと全く同じだったからだ。
――おい性悪。やっぱお前だろ。お前が黒幕だろ。何やってんだコラ。さっさと全部白状しろ、この痰カス野郎。
キレる寸前まで、怒りのボルテージが上昇する。
だがそんな彼に対し、イヴは普段通り無機質な声で、
『いや、そんなん言われましても。知りませんよ、マジで。そもそもこんな風に世界へ影響を与えることができるのなら、わたしはとうの昔にクソ柳カスみを殺しています』
彼女の言い分はもっともだが……とはいえ、あまりにも似すぎている。
「……何者だ?」
意図せず吐き出された疑問符に、姿なき相手方は即座に応答を寄越してきた。
『わたしは此度の“ゲームマスター”、その代理人を務めさせていただきます……おっと、危ない危ない。うっかりネタバレをするところでした。わたしのことは天の声とでも呼んでくださいませ』
無機質無感情。しかし慇懃な調子が妙に人をイラつかせる。
そんな相棒の声と瓜二つな音色に、義人は不快感を覚えながら、
「ゲームマスター、とか言ったねぇ? てことは、この怪獣、人工物ってことかなぁ?」
『お答えできません』
「あっそう。なら、そのゲームマスターとかいうクソッタレはここに居るって解釈でいいのかなぁ?」
『そちらもお答えできません。ただ、ゲームマスター=クソッタレという部分は肯定いたします』
「ふぅん。要するに質問には何も答えられないってわけか。けど、これには答えてもらう。……君、狙ったようなタイミングで声を飛ばしてきたよねぇ? 僕の行動を制限したいって思惑が透けて見えるんだけど、実際のところどうなのかなぁ?」
『肯定いたします。あなた様のお力はゲームバランスを著しく破壊する、いわばチート。よって、探索速度を変化させるような異能の使用は全面的に禁止いたします』
「そっちの都合を、僕が聞くとでも?」
『聞くか否かはあなた様のご判断にお任せします。ただし……聞き届けていただけない場合、ご一同が踏み場となされているそれが、東京都上空へと移動することになりますが』
その一声により、スペシャルチームの面々が緊張を張り付けた。
そして。
「義人。ここは相手の要求を飲むべきだ。君だって、それは理解できるだろう?」
「……そうだね。正直なところ、予想通りの展開だよ。僕がここに来ることは相手も承知してるだろうし、動きを封殺するための脅し文句ぐらい用意してて当然だ」
『そのお言葉、肯定の意と捉えてよろしいでしょうか?』
「好きにしなよ」
『了解いたしました。では、皆様に此度のゲームについて説明をさせていただきます』
そのように前置いてから、声は淡々と言葉を紡ぐ。
『ゲームのルールですが、猿でも理解できるぐらいに簡単です。あ、別にご一同を猿扱いしたわけではありませんよ? さておき、ルールは三つ。一、全四種のエリアを探索し“石版”を探し出す。二、石版に触れ、提示された問題を解く。三、問題に正解し“ヒント”を得て、“真実”を解き明かす。以上になります』
説明終了後、義人はとりあえず人間の姿に戻る。それから。




