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暗黒騎士の伝説 ――成り上がった僕が、世界を支配するまで――(旧題:僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――)  作者: 下等妙人
【第二部前編:最強VS最狂 ――THE MONSTER PANICK――】
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プロローグ二 悩める狂人 2

 毎度のことだが、気分は最低だった。


 上空を亜音速で推進しながら、義人は思う。

 地獄があるとしたなら、それはこの世界そのものだ、と。


 紛争地帯に在る、小さな村での一時を振り返りながら、少年は心を暗くさせた。

 それに反して。


『ヒーロー活動(笑)お疲れ様でした。いやはや、とても素晴らしいところでしたねぇ。あれぞまさに世界の縮図です。一種の美を感じますよ、えぇ。とはいえ、それもあなたによって破壊されたわけですが』

「……あれの、どこが美しいっていうのかなぁ? 反吐が出るよ、クソッタレ」


 義憤が燃え盛る。


 本当に、この世界というやつはどうしようもない。


 少し前、上位ベヒモス襲来の際、義人は己の幸福を捨て、全世界の弱者を救うことを人生の指針とした。それからすぐに救済活動を始めたわけだが――


 その凄惨さは、少年の心を抉り、人格の変革をもたらすに十分なものだった。


 当初、義人は自身の活動にモチベーションがさほどなかった。

 自分を幸せにしてはならない。これは決定事項だが、完全に納得しているわけではない。

 まだまだ、自分を幸せにしたいと願う己は居る。だからか、世界の救済について、やる気が出なかった。


 しかしながら、今は違う。


 この世の地獄を見たことで、彼は誓ったのだ。絶対に、全ての弱者を救って見せる、と。


 あんなおぞましい光景を目視し続けたなら、そう考えざるを得なくなる。

 自分の幸せ云々など、どうでもいい。とにかく救うのだ。

 そうしなければ、ついさっき防いだ悲劇が、無数に繰り返されることになる。そんなのは絶対に許せない。


 義人は先刻救った幼き少女の顔を思い浮かべる。


 もし、ちょっとでも駆けつけるのが遅かったなら。そう思うだけで、心がドス黒く染まった。

 けれども、最悪の悲劇は回避されたのだ。何人もの人々が死んでしまったが、被害としては最小限であろう。


 あの後、彼は一人一人と“話し合い”を行い、事態を穏便に解決した。

 あの民族達は、今後仲良く手を取り合って生きていくことだろう。義人の“説得”により、彼等は“改心”したのだから。


 しかし――そのやり方を、イヴが嘲笑う。


『それにしても、あなたはやはりわたしのパートナーですよ。善人面をしていますが、その実吐き気を催すような邪悪です。人の全てをブチ壊しにするようなことを平然と行って、いいことをした、という調子で喜んでいるわけですからねぇ』

「……否定はしないよ。僕だってこんなことはしたくない。けれど、こうする以外に方法はないんだ。……全員、“洗脳”して“人格を書き換え”なきゃ、憎悪は絶対に消えない。彼等の中に根付いてるナショナリズムは、言葉じゃ絶対に消えやしないんだ」

『でしょうねぇ。けれど義人、あなた、ナショナリズムを全否定していますがね、それは彼等の存在を全否定するのと同義であると自覚していますか? そして、自分のしていることが結局のところ。己の価値観を他人に押し付けているだけの独善でしかないということを、理解していますか?』

「……あぁ、わかってるよ。彼等には彼等の事情がある。殺し合うのも、憎しみ合うのも、彼等にとっては筋の通った道理なんだろうね。……そのことを、別に否定はしない。殺し合いがしたければそうすればいい。他民族を憎んで、襲って、強姦して、嬲り殺す。そういうのが文化だって言うなら、勝手にやればいいんだ。そんな土人共を救うつもりなんか、僕はさらさらない。けど……」


 一呼吸してから、彼は続けた。


「子供が巻き込まれるのは、許せない。闘争と憎悪を望まない人々を巻き込むことは、許さない。人殺しがしたいクソッタレ共が共食いする分には、僕はノータッチでいよう。でも、この世界はそういう風には回らないんだ。殺したくない。殺されたくない。そんな人達が容赦なく巻き込まれて、酷い死に方をする。……それも不愉快だけど、そうした人間の悲劇を食い物にする連中は、もっと不愉快だ」


 今回治めた紛争、実は陰で某国が動いている。

 その国が後ろ盾となり、武器を流し、殺し合いを促したのだ。

 全ては、国益のために。


 義人は己が持つ異能をフルに使い、情報を得たことで、今回惨劇を最低限の被害者数で終わらせることができた。


 けれども、喜び以上に怒りの方が大きい。


「君はきっと、こう言うんだろうね。人間社会においても弱肉強食は絶対的なルール。あぁいう弱者達は、強国の食い物とされるのがお似合いだ。弱者が不幸になることで強者が幸福になる。そうすることで、社会は円滑に回っていく、みたいな。……僕からすれば、クソくらえだね、そんなもの。君はこの世界の破壊を望んでたっけ? じゃあ見せてあげるよ。僕はこの世界を破壊する。そして、弱者も強者も平等に笑える理想郷に作り変える。そのために――この世界を、征服する」


 少年の堂々たる宣言に、イヴは無機質な声で笑った。


『は、は、は、は、は、は。素敵ですねぇ。さすがわたしの愛しいパートナー。自分が邪悪の権化となりつつあることに全く気付いていない。それどころか、自分を全肯定していますね。よろしい。やってみなさい。あなたが進む道に在るのは、世界の滅亡のみです。わたしはそれが見たい。だから、協力してあげましょう。最後の最後まで、ね』


 無感情な音色に、僅かだが熱狂の色があった。

 それに鼻を鳴らした後、義人は思索する。


 ――世界を支配する、といっても、さすがに僕一人じゃ無理だ。僕には力がある。けれど、単独で世界の統治や改変ができるわけじゃない。だから……どう足掻いても、僕には“組織”が必要になるな。


 そう思い、彼は一人の人物を思い浮かべた。


 日本最大の暴力団、海山組組長、山田良真やまだりょうま。もう一年程前に出会ったあの男と、一度話し合いをしてみようか。


 言うことを聞けばよし。聞かぬなら聞かせるまで。

 いずれにせよ、まずは世界の裏側を支配する。そうすれば、悲劇の半分は阻止できるだろう。


 その足掛かりとして、日本を手中に入れる。

 そんなプランを頭の中で描きながら、彼は帰路を行くのであった。



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