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暗黒騎士の伝説 ――成り上がった僕が、世界を支配するまで――(旧題:僕は主人公になりたい ――最強の歯車・只野義人――)  作者: 下等妙人
【第二部前編:最強VS最狂 ――THE MONSTER PANICK――】
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プロローグ一 笑う狂人


 もう、どれだけ旅をしただろう?

 何百年? 何千年?


 長い長い旅路だった。様々なことがあった。

 その旅全てにおいて、“失敗”した。


 そして――


 悠久の時の果てに、彼は、彼女は、そこに辿り着く。

 願わくば、“この世界”が最終地点でありますように。



 アメリカ合衆国。ニューヨーク、サウスブロンクス。

 ここは米国における糞の掃き溜めだ。


 この地に三日も住めば誰だって理解できるだろう。

 人外などより人間の方がよほど怖い。そんな社会常識を、嫌でも学ぶことができる。


 そんなクソッタレ過ぎる土地に、彼女は居を構えていた。


 アメリカにおいても有数のスラム街。その危険度は折り紙付き。こんな場所に彼女の様な“美形”が居たなら、半日以内に強姦されることうけ合いだが――


 住人達は、誰も彼女に手を出さなかった。そう、誰一人として、である。


 皆恐れているのだ。彼女を。

 それゆえに、スラムの者共は誰しもが彼女を居ない者として扱う。ついでに言えば、居なくなってほしいとも。


 さて、そんな彼女は本日も自部屋にて漫画を読んでいた。


 ボロボロのアパート、その一室なだけあって、内部環境は最低。雨はしのげそうだが暴風が来たら吹っ飛びそうなボロさ加減だ。

 さりとて、彼女はそんなこと一切気にせず、室内を歩く。


“ツインテール状の白髪”を揺らしながら、彼女は本棚へと近づき、一冊の漫画を手に取った。


 タイトルはNIGHT・騎士ナイト


 そして数ページ程めくった直後。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ! お腹が! お腹が痛い! やっぱ日本のコミックは最高だね! 特にラノベチックな奴はもう、表現不能レベルで面白いよ! こんなにも笑える作品を生み出せるのは日本人だけ! あひゃひゃひゃひゃひゃ!」


“天使のような美声”だが、気の狂ったような笑いによって全てが台無しにされている。


 その後も彼女は床をゴロゴロと転がり、腹をかかえて狂笑を続けた。


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! なんでこんなに都合よく主人公が現れるの!? なんでちょっと助けてやっただけで女の子が惚れるの!? 凄い時はニコッと笑っただけで顔紅めたりとかさぁ! やばいわー、マジやばいわー。この作者は“ボク”の腹筋を的確に破壊してくるねぇ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 大音量で吐き出される笑声。それに対し、不快を示す者が現れた。


「うるっせぇええええええええええ!」


 絶叫の直後、二つの部屋を隔てる薄い壁がブチ破られる。


 破壊音を響かせなからの派手な登場を決めたのは、少女であった。

 一六〇センチそこそこの華奢な体。ボーイッシュな顔立ち。ショートヘアの茶髪と勝気そうな瞳が印象的。


 で、彼女は登場してそうそう、笑い転げる白髪の美少女へ近寄ると、


「糞やかましいんだよ、アホンダラ! あたしの安眠を妨害すんじゃねぇ!」

「あひゃひゃひゃ。さっすが雅ちゃん“もどき”もといゴリラちゃんだ。寝るかバナナ食べるかの二つしかしてないんだねぇ。だったら漫画を読んで笑うっていう文化的なことなんてちっとも理解できなくて当然――」

「そぉい!」

「ぐほぉっ!?」


 寝転がる彼女のみぞおちを、雅と呼ばれた少女は容赦なく踏みつけた。

 それにより、白髪の少女は腹を押さえてうずくまる。


「うぅ……ひどいよエテ公ちゃん……ボクはただ事実を言っただけなのに……」

「だぁれがエテ公だゴラァ!」


 白髪の少女を抱え上げ、そのままジャーマンスープレックスを叩き込む雅。


「うげぇ!? ……さ、さすがチンパンジーちゃん、容赦がないねぇ……ていうかイリアちゃん、君、一応ボクのパートナーって“設定”なんだからさぁ、ボクのこと守ってくれてもいいんじゃないかなぁ?」


 ジャーマンをかけられた状態、体の上下が逆さまになっている彼女。

その口から問いが発せられた直後、彼女の眼前に一人の少女が突如現れた。


 顔立ちは絶世の美貌と言っても過言ではない。けれども、その美しさは彼女が持つ卦体けたいさによって台無しにされている。


 まず髪。

 長さは床に届くどころか、自身を中心におおよそ半径三メートルに至るまで広がっている。

 その色も異常だった。黒を基調にしているが、カラフルな水玉模様が各所に存在し、なんとも気持ちが悪い。


 服装は左半分が純白の美しいウェディングドレス、右半分が汚らしい真っ黒なスーツ。一体どのように着たのかさっぱりわからない。


 そんな出で立ちの少女が、無感情に言葉を紡いだ。


「申し訳ございませんが、我々はあくまでも“監督者”“立会人”ですゆえ。介入は自己の裁量にて行うことを許可されております。その点は“プレイヤー”であろうと“エネミー”であろうと変わりございません」

「……つまり?」

「あなた様の如き狂人は、叩きのめされるのがお似合いかと」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! やっぱり君は楽しいねぇ! そういう言たいことをハッキリ言うとこ、ボクは素敵だと思うなぁ」

「お褒めに預かり光栄至極です。今後最低半年、声をおかけにならないでくださいませ。では」


 恭しく一礼した後、彼女は姿を消した。

 それから。


「……ねぇ、雅ちゃんもどき。これからボク、シリアスモードに入るからさぁ、もうそろそろ放してくれない?」


“最初の世界”にて“お気に入りの玩具”と認定した彼女の“贋作”に対し、そう頼んだ。


「はぁ、またどうしようもないことすんのかよ」


 言いつつ、雅は拘束を解き、


「で、今度は何すんだ?」

「只野義人。この名前、君のミニマム脳みそでも覚えてるよねぇ?」

「うん、とりあえず殴っとく」

「ぐぼぉあ!? …………か、彼のことをね、ちょっと、テストしようと思うんだ。そう、今をときめくブラックナイトその人の力を、ね」


 言って、彼女は新聞記事を手元に“召還”した。

 その一面には、ブラックナイトの活躍ぶりが記されている。


「彼は果たして救世主か、はたまた……とまぁ、この記事の見出しと同じ疑問をね、ボクは抱いてるわけだよ。で、今回、その疑問を面白おかしく解消しちゃいまーす、ってな感じ?」

「いや、あたしに聞かれても。……で、あたしと萌香は今回何すりゃいいんだ?」

「何もしなくていいよ? 今回は君達に動いてもらう必要はないからねぇ」


 言った後、白髪の美少女は携帯電話を召還し、とある人物へと電波を飛ばした。


「あ、もしもしリッちゃん? 君暇だよね? 暇じゃなくても暇ってことにするよ! 残念でした! でさぁ、この前ボク話してたじゃん? ブラックナイトマジやばくない? って。でねぇ、今回あの子が役に立つかどうかをさ、テストしようと思うんだ。ついでにあの子の“取り巻き”についてもね、今後の展開について来れるかどうか試してみようと思う。そんなわけで、君にはニューヨークの管理をお願いするよ! ……え? “レギオン”にやらせればいい? おいおい、何言ってんのさリッちゃん、君ってば馬鹿だなぁ、この馬鹿! レギオンは今回のプランで総動員させるに決まってるじゃないか。そんなこともわかんないなんて、君はひっじょーに馬鹿だよねぇ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 楽しそうに相手を馬鹿にした後、彼女は有無を言わせぬ調子で、


「そんじゃ、とにかくよろしくねー! 特に、“バットマン”の監視はちゃんとやっとくんだよ? サボったら君の国ぶっ潰しちゃうからそのつもりで。じゃーねー!」


 一方的に言いつけて電話を切る。

 そうしてから、彼女は手元の記事を見つめつつ呟いた。


「さぁ、テストを始めよう。果たして、君は真実に到達できるかな?」



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