怪奇! ゴミ女の恐怖! 前編
本編とは完全に無関係かつキャラ崩壊の短編です。そのためツッコミどころ満載となっております。
「夏だし、せっかくだから」といった気分で作りました。ひんやりできるかどうかは不明ですがorz
夏。
本日の気温は三五度を超えるらしい。
うんざりするような暑さだが、しかし、義人の心中にある熱さに比べればどうということはない。
「本当ごめんね。貴重な時間割かせちゃって」
「なに、気にすることはない。私でよければいつでも頼ってくれて構わん」
本日、少年は香澄に勉強を教えてもらう約束をしていた。
で、現在、彼は思い人の自部屋に居るというわけだ。
『もう何度も言った台詞ですが、繰り返させていただきます。……なんともまぁ汚らしい部屋ですねぇ。こんな空間を創る人間はよっぽど心が汚らしいのでしょう。ついでにあそこも汚――』
――君が言っても説得力皆無なんだけどなぁ? この汚物女。
相棒を罵倒した後、彼は現状を振り返る。
本日、天馬は居ない。香澄曰く急な出張とのこと。つまり――今、ここには自分と思い人しかいないということ。
俗にいう、二人きりである。
これがときめかずにいられようか。
今まではいつもいつもお邪魔虫が二人いたのだ。一人は今もなお香澄への罵倒を心中に響かせているが、ガン無視可能である。
この場に邪魔者は居ない。それゆえに、もしや今回の勉強会で思い人との距離が縮まるのではないか、と期待してしまう。
濁り切った瞳をハートマーク状にする義人。そんな彼に、香澄は長い髪をかきあげながら、
「ふむ、冷房はつけているはずなのだが……少々熱いな。もう少し強くするか」
リモコンを拾い上げる黒髪の美少女。
現在、彼女は普段着である。彼女の普段着はぱっつんぱっつんな白Tである。
そして香澄は今、リモコンを拾うべく上半身を床へと落としているわけだ。
となると、必然的に彼女の豊満な胸が地球の引力に引き寄せられるわけで。
そうなれば、Tシャツの隙間から思い人の乳肉が一部丸見えになるわけで。
結果として、義人は立ち上がることができなくなった。反面、肉体の一部は立派に立ち上がっている。
『腹立たしい。非常に腹立たしい。でかい乳の何がいいというのですか。あんなもの歳取れば垂れ下がるだけの不要物ですよ。そもそもあの女の乳は下品です。わたしのように上品な――』
――貧乳は黙ってろカス。
心中にて迷いなく言い放つ義人。
その一方で、思い人はリモコンを操作した後。
「さて、では飲み物でも持って来ようか。ついでに茶請けの菓子もな。それでもつまみながら楽しく学習しよう」
義人は頷き、彼女を見送った。
そして。
「……壮観、だなぁ」
室内を見回しながら、呟く。
内心、義人はイヴに賛同していた。思い人の部屋は少々行き過ぎている。
物に溢れ過ぎていて息苦しい。自分と香澄、天馬、三人の座るスペースがギリギリ確保されているのみで、その他の面積は全て多種多様な物で埋められている。
「本当、色んなのがあるなぁ…………ん? これは……」
膨大な物の中に在る一つの人形。義人はそれに興味を抱いた。
「……ちょっとぐらい触っても、大丈夫だよね」
彼は人形を手に取り、まじまじと観察した。
「なんとも……不思議な人形だなぁ。ちょっとこけしに似てるとこがなんか不気味」
『あぁ、これはあれですよ。形、太さからして間違いありません。あの女は毎晩これを――』
「白柳さんはオナニーなんかしない! 性欲とか超越した女神なんだよ、あの人は!」
相棒にツッコミを叩き込む。
それが、いけなかった。
無意識のうちに人形を握る力を強めていたらしい。彼の手の中で、こけしに似たそれがボキリと折れた。
「ああああああああああああ!?」
『は、は、は、は、は。性欲処理用疑似チン〇がへし折れましたねぇ。あなたの股間もこんな感じになればいいのに』
冷や汗を流す少年と、無機質な笑い声を吐き出し続ける少女。
そして最悪なタイミングで、足音が聞こえて来た。
「あばばばばばば! やべぇ! 白柳さんが帰って来やがる!」
『テンパりすぎて喋り方が変わってますよ、あなた』
「と、とと、とりあえず! これは消すッ!」
人間形態から瞬時に漆黒の鎧へと変身し、異能、破壊を使用。
この力は触れた物体を跡形もなく消し去るという反則的な内容である。
世界広しと言えども、こんなしょぼい証拠隠滅にこの力を使ったものは、義人ぐらいなものだろう。
で、壊れた人形を消去した後、すぐさま人間の姿に戻る。
その直後、ドアが開かれ、
「待たせたな。オレンジジュースと塩せんべいを選んだのだが、これで良かったか?」
「大丈夫だ問題ない」
「……喋り方が妙におかしいが、何かあったか?」
「な、ななな、なんでもないってばよ!」
「……そうか。まぁ、お前がそう言うなら気にしないでおこう」
言うと、彼女は床に置かれた物達をすいすいと避けながらテーブルに近づき、お盆に乗ったコップと菓子の入った容器を置く。
それから座り込んでいざ勉強開始――
というタイミングで、香澄は勢いよくあらぬ方向へと首を捻った。
まるでハエを舌で捕まえるカエルの如き俊敏さ。そんな挙動に、義人はびくりと体を震わせる。
「し、白柳さん? ど、どうかしたの?」
「…………いや、おそらく気のせいだとは思うのだが……何か、足りないような感じがする……」
彼女の戸惑いを聞き入れた瞬間、少年は全身をびくぅっと痙攣させた。
「は、はははははは。き、気のせいですよぉ~。ほら、家族が揃った時になんか一人足りないな、みたいに思う現象があるじゃないっすかぁ~。それと同じですよぉ~。ははははははは」
冷や汗を大量に流しながら、義人は思う。
――やべえええええええええええええ! どんだけ勘鋭いんだこの人! こんだけ物があったら一個なくなったって気づかないだろ常識的に考えて!
焦燥する彼に反し、相棒は無機質な声に喜悦を宿らせるぐらいに上機嫌だった。
『は、は、は、は、は、は。ざまぁ。チョーざまぁ。このままバレて嫌われてしまいなさい。大丈夫、その時はわたしが慰めてあげますよ。二つの意味で』
下品なことを言ってさらに笑うイヴ。その声に不快感を覚えながらも、義人は務めて落ち着いた調子で言葉を紡ぐ。
「ね、ねぇ白柳さん。も、もうそろそろ勉強しようよ。ね?」
「………………やっぱり、一人足りない」
ぼそりと吐き出されたそれに、少年は再び体を震わせた。
怖い。声があまりにも無感情に過ぎる。
その音色には、イヴのそれなどとは比にならない恐ろしさがあった。
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! やべぇッ! これバレるわ! ぜってぇバレてまうわッッ!
唇にグッと力を込め、目を見開き、強く歯噛みする。
そして焦りを思いっきり顔に出しつつ、彼は決断した。
――こんなことは、したくないんだけど……ごめん白柳さん!
義人は異能、創造を使用した。
この力はヒトの姿でも使える。それにより、彼は目前にあるオレンジジュースの中にとある薬剤を入れた。
液体に溶けやすく、飲めば速攻で効果を現す。そんな、超強力な下剤である。
薬が完全に溶けたことを確認した後、義人はコップを持ちながら、
「し、白柳さん、とりあえず落ち着こう。君の勘違いって可能性だってなきにしもあらずだよ。ほら、このジュースでも飲んでさ、もう一回冷静に部屋の中を見てみようよ。ね?」
「……うむ。すまんな」
無表情無感情の応答を行った後、彼女は差し出されたコップを取り、液体を口に含む。
その数秒後。
「ぬ、うぅ…………!?」
香澄の額から汗が流れ、表情が苦悶のそれへと激変する。
それから彼女は荒い息となりながら。
「よ、義人。すまんが、ちょっと待っててくれ……!」
これで精いっぱいといった調子で声をひねり出すと、彼女は別のものをひねり出すべく室内から出て行った。




