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喧嘩するほど仲がいい? 前編

 喧嘩というものには二種類ある。


 仲が良い者同士が行うコミュニケーション。

 いがみ合う者同士が行う争い。


 さて。では白柳香澄の目前にて繰り広げられているそれは、一体どちらだろうか。


「君さぁ、なんでそんなに無駄な動きするわけ?」

「あぁ? どこが無駄なんだよ。全部必要な動作だろうが」

「へぇー。必要な動作、ねぇ。敵を倒した後にわざわざ二秒近く決めポーズしてみたり、大仰な動作で切り込んで見せたり、回避もちょっと体動かせばいいだけなのに一々派手なアクロバットをする。僕の目から見ると、無駄だらけにも程があるんだけどなぁ? 付け加えると、その無駄な動きが無駄に洗練されてるところが妙にムカつく」

「……お前の挙げたもの、全部必要だろ? 何言ってんだマジで」

「なんで僕がおかしいみたいな感じの顔してんのかなぁぁぁ? 僕等がやってんのは実戦であってヒーローショーじゃないんだ。今後は効率重視で動きなよ、この特オタ野郎」


 街の道路、そのど真ん中にて。

 本日もベヒモスを相当し終えてのこと。只野義人と神代天馬は、こうした会話の末に大喧嘩を開始した。


 とはいえ、全て口論。以前のような殺し合いでは断じてない。


 二人の罵り合いを見つめながら、香澄はやれやれといった調子で嘆息する。


 ――はぁ。こいつらはなぜこうもギャースカと喚きたがるのだ……。

『下らぬことでストレスを溜めるでない。奴等がしているのは、いわば兄弟同士のじゃれ合いだ。この光景は我等が真に家族となれた証であろう。微笑ましいものではないか』

 ――そうはいってもな……。


 ユキヒメと会話している最中も、白髪の少年と栗髪の少年は壮絶に罵り合っていた。


「オレのアクションのどこがダセェんだよ! キレっキレだろうが!」

「キレとかそういう問題じゃないんだけどなぁ!? そういうのは特撮番組でやるからかっこいいのであって、リアルにそんなんやってもキモイだけなんだよ、このカッコつけ名人様 (笑)!」

「んだとゴラァ!」

「僕何か間違ったこと言いましたかぁぁぁぁぁ!?」


 鼻同士がぶつかり合うような距離で睨み合い、火花を散らせる。

 いつまで経っても止まらぬ怒鳴り声に、さしもの香澄も堪忍袋の緒が切れた。


「やかましいッ! いい加減にしろ、馬鹿共がッ!」


 右手にハリセンを創造し、二人の頭を思い切り叩く。

 スパァンという小気味いい音が響いた後、痛そうにする両者へ向けて香澄は説教を開始した。


 が、義人も天馬も全く悪びれない。どころか、依然として睨み合っている。


 ――あぁ、もう、うんざりだ。面倒くさすぎるだろう、こいつら。

『くふふふふふ。このガキ共の面倒を見るのもまた、お前の役目だからなぁ。ま、精々頑張れ、お母さん』

 ――こんなデカい息子共はいらん。


 相棒にツッコミを入れ、一息吐くと。


 ――この馬鹿共、早急になんとかせねばな。このままでは私の胃に穴が開く。

 

 そんなわけで、彼女は弟分二人をなんとかすべく動き出したのであった。


   ◆◇◆


 一二畳の広いスペースに物物物。

 空間内には新しいものから古いものまで、数多くの“家族”で満たされており、常時部屋主に幸福感を与えてくれる。


 そんな、香澄曰く宝部屋にて、彼女は二人と共に勉強会を開いていた。

 

 ここにおいても、両者は対照的だった。

 義人は真面目に問題を解いていくが、天馬は面倒くさげに顔をしかませ、問題集を眺めるのみ。


 ――共に同じ作業をやらせれば、おのずと連帯感が生まれる。結果として絆が深まり、口論などしなくなる……と、お前はそう言ったよな、ユキヒメ?

『うむ。それがどうした?』

 ――絆が深まる気配が微塵も見られんぞ。正反対過ぎて距離が縮まるどころか開いているようにすら感じられる。完全に失敗ではないか。

『まぁ焦るな。まだ始めてから三〇分も経っておらんではないか』


 納得いかない。といった調子で顔を歪める香澄。

 そんな彼女に対し、義人が問いを投げて来た。


「ねぇ白柳さん。ここの問題ってどう解くんだっけ?」

「ふむ、そこは……」


 熱心に聞いてくる義人。心なしか、彼の濁り切った瞳に喜悦が宿っているように思える。


『こいつはお前に惚れておるからな。こうした熱烈な態度は必然であろうよ。しかし……今回は、それが悪い方向に転びそうだ』


 奇しくも次の瞬間、ユキヒメの宣言通りとなった。


「……天馬、君さっきから全然進んでないよね? 何してんの?」

「あー? 進んでるよ、多分」

「いいや、全く進んでない。君、一〇分前五ページ目だったよねぇ? で、今も五ページ目なんだけど、これはどういうことかなぁ?」

「チッ」

「舌打ちする資格が君にあると思ってるのかなぁ? 思ってるんだろうねぇ、この糞色頭。せっかく白柳さんが貴重な時間割いてまで勉強教えてくれてるってのに、そういう態度はないんじゃないのぉぉぉ?」

「チッ。うっせーな。オレはこんなもんやんなくたって高得点取れんだよ。この前の中間だって全教科九〇点だったしな」


 得意げに言った後、彼は嘲笑じみた顔となり、


「で? お前は? がり勉の義人君はさぞかし高得点なんだろうなぁ。一〇〇点とか当たり前なんだろ?」

「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」

「なぁ、教えてくれよ。お前、前回の中間で最高何点だった? ちなみにオレは九二点だったけど。まっさか、オレより低くはねぇよなぁ? そんなに勉強してんのにさぁ、なんの勉強もしてねぇ奴より点数低いとか、そんなもん馬鹿ってレベルじゃ――」

「うるせええええええええええええええええッッ! 人が気にしてること言いまくりやがって、このウンコ野郎ッ!」

「あ、ごめんごめん。気に障っちまったかぁ。でもオレは事実を言ったまでだしなぁ。オレとお前とじゃ頭の出来に差があるっていう事実をさぁ、言っただけなんだけどなぁ?」

「むきいいいいいいいいいいいいいいいいいい! もう黙れよこの野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 義人の大絶叫と同時に、口喧嘩の火蓋が切って落とされた。

 騒ぎまくる馬鹿二人の横で、香澄は頭を抱える。


 勉強会でなかよしこよし作戦、大失敗。


   ◆◇◆


 第一の計画がなんの成果もなく終わってから数日後。

 香澄は第二の親に協力を願うべく、カラーズネスト関東支部の一つ、その代表執務室に足を運んだ。


 で。


「……以上です。協力してくれますね? 椿さん」

「やだ」


 即答であった。


 香澄は美貌を憮然と歪ませながら、口を開く。


「……なぜです?」

「そんなくっだらないことに時間使いたくない馬鹿馬鹿しい」


 問うてから返答までにコンマ一秒の間すらない。


 非協力的な態度を見せる第二の母に対し、香澄は「ぬぅぅぅ……」と唸ってから。


「あの馬鹿兄弟は私の手に負えません。何度も何度も何度も何度も何度もハリセンでブッ叩いているというのに、三〇分もすればもう忘れている。このままではあの鳥頭野郎共のせいで私の胃袋はボドボドもといボロボロになってしまうッ!」

「うん、それさっき聞いた」

「……これだけ頼んでもダメですか」

「ダメです」

「……………………ちょうど八年前の夏、貴女は私の目の前でミケ――」

「わかった! やる!」


 血相を変えて結論を覆す椿。その顔にはダラダラと冷や汗が流れている。


 脅すためのネタを握っておいてよかった。

 そう思いながら、香澄はまっ黒な笑みを浮かべるのであった。


   ◆◇◆


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