エピローグ二 神代天馬はヒーローを目指す
六月五日。午後一時三〇分。鏡原市霊園。
親族の墓前にて、天馬は言葉を紡いだ。
「最近忙しくてさ、だからあんまり来れなかったんだ。ごめんな」
中で眠る父母に、彼は自分の思いを打ち明ける。
「墓参りに来ない間、色んなことがあったよ。まぁ、全部オレがどうしようもねぇ馬鹿だってことをアピールするような内容なんだけどさ。ほんっと、散々な一カ月だった……でも、マイナスばかりってわけじゃない。オレさ、これからは自分と戦ってみるよ。椿さんに言われて、気づいたんだ。オレは憎しみを正当化してたってことに。親が殺されたんだから当たり前、これは自然なことなんだ、みてぇに言い訳してさ、そんで、この感情はしょうがないものだって、そう思い込んでた。でも、それは逃げでしかないんだよな。オレ、自分の中の闇から目をそらして、逃げてたんだ。だから、間違った方法でそれを消そうとして……最低なこと、しちまった」
俯きながら、後悔の念を吐き出す。だがすぐに前を向いて、決意の言葉を口にした。
「オレはずっと、敵とか運命とか、そういうのとは戦ってたけど、自分との戦いには逃げてばっかだった。けど、これからは違う。もう自分から逃げたりしねぇ。憎しみとか復讐心とか、そういう気持ちに負けたりしねぇ。絶対打ち勝って、そういうどうしょうもねぇ感情を綺麗さっぱり消してやる」
そこで一度呼吸すると、彼は穏やかに微笑んだ。
「それが、オレのすべきことなんだ。自分に勝って、“もう一度”ヒーローの心を得てみせる。椿さんは“多分無理だけど頑張れば”みたいに言うんだろうけどさ、オレは何があろうと諦めねぇ。あん時味わった気持ちを、もう一回感じてぇんだ」
先月の激闘を回想しながら、天馬は言葉を紡ぐ。
「上位ベヒモスと戦っててさ、こう思ったんだ。“オレ達”は今、最高のヒーローだ、って。あん時ゃ憎しみとか復讐心とかそういうの全部消えててさ。一緒に戦ってたあいつの思いとか、自分の必死さとか、そういうのがリンクして……うまく説明できねぇんだけど、オレは短い時間、完全なヒーローになれた。その時の気分が忘れられねぇ。ひたすら真っ白、っていうのかな。本当に綺麗で、眩い感じなんだ。あれ味わったら、もうウジウジなんかしてられねぇよ。自分は人間だからとか、そんな言い訳もう二度とする気になれねぇ。……後何年生きてられっかわかんねぇけどさ。そっち行く前に、絶対ぇヒーローになってみせる。あいつらと、一緒にな」
二人の顔を思い浮かべて、彼は美貌に微笑みを張り付けた。
それから親に別れの挨拶を述べ、帰路へつこうとする。
その背中に。
『頑張れ、天馬』
弾かれた様に、後ろを向く。
そこには誰もいなかった。だが、それでも。
栗髪の少年は力強く頷いて、両親に感謝の念を捧げるのだった。




