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エピローグ一 三人のこれから

 六月二日。午後七時。ベルズタワー。


 本日の復興支援作業も滞りなく終了した。

 街の被害は明浄通りを除けばさほど大きなものではなく、死傷者の数も上位襲来という事実が信じられなくなるような数字だ。

 これはまさしく奇跡そのものとして世界中で取り上げられており、テレビやネットではしばらくこの話題で持ち切りだろう。


 さて、そんな奇跡を起こした英雄たる三人は今、一所ひとところに集結していた。


 ベルズタワーは高級マンションと同等レベルの設備と間取りとなっている。そのため各部屋のスペースはかなりのもので、彼女の部屋もまた一二畳という結構な広さを持つ。


 それなのにこの室内ときたら、広さという概念を感じさせないような狭っ苦しさである。


 多種多様な物があらゆる場所に置かれており、足の踏み場がない。

 手入れは怠っていないようなので汚らしさはないものの、これはもうゴミだろうとしか言えないような代物がパッと見ただけで一〇、二〇と発見できた。


 それが、白柳香澄の自称宝部屋だ。


 誰がどう見てもゴミ部屋としか思えぬ空間にて、香澄は対面する二人を見つめていた。


「……謝って済むような問題じゃねぇけど……悪かったよ」

「……僕の方こそ悪かったよ。お互い過去のことは全部忘れて、今後も一緒に頑張ろう」


 固い顔で言い合うと、白髪の少年と栗髪の少年はがっしりと握手した。


『うむ。これで一件落着だな』


 ユキヒメの声に頷くと、彼女は前日の出来事を思い返す。


 朝、天馬が義人と仲直りをするため一席設けてほしい、と頼み込んできた。

 で、復興支援中義人と二人きりになった際、今度は彼の方から天馬と同じ内容を頼まれたのである。


『いやはや、偶然にしてはできすぎであったなぁ。もしかすると、こやつらは良きコンビになれるやも――』


 途中、彼女の言葉が妄想でしかないということを、二人が証明して見せた。


「……ねぇ、いつまで握ってるつもり? ていうか君、力入れ過ぎじゃない?」

「……そっちが離そうとしねぇからだろ。つーか力込めてんのはお前の方じゃねぇか」

「は? 僕よりも君の方が相当強く握ってんじゃん。あぁもう、早く離せよ気持ち悪い」

「あぁ? 気持ち悪ぃのはてめぇだろ。なんだその白髪頭、カッコいいとか思ってんの? サイコパスみてぇでキモイだけだっつーの」

「これにはちゃんとした意味があるんだよ。それを読み取れないなんて、君の脳には蛆でも湧いてるのかなぁ? あ、ハエならたかってそうだね。このウンコ頭」

「あぁぁぁぁ!? 誰がウンコ頭だ、ゴラァ!」

「ウンコみたいな色の髪だからウンコ頭なんだよ。理解できたかなぁ? このド低能」

「オレはウンコ頭でもねぇしド低能でもねぇッ!」

「前者はそうだとしても後者はどうかなぁ? 君さ、戦ってる最中いつもいつもダッサイ技名叫んだり、無駄な動きしまくってるよねぇ? なんなのあれ? 特撮ヒーローのつもり? だったらもうカラーズなんかやめてスーツアクターにでもなったらぁぁぁ? そういう無駄だらけなことしまくってんのに自覚してそうにないところが低能極まりないんだよ、この万年三歳児野郎」


 ギリギリと手を握り合いながら、口喧嘩。

 ぶつかる視線が火花を散らし、罵倒の内容と声量が徐々にエスカレートしていく。

 その様を見かねたか、ヴァルガスが二人の間に出て。


「お前等、ちったぁ大人になれよ。仲直りするために面合わせたんだろが。なのに――」

「「黙ってろ、この馬鹿犬!」」


 怒声の種類が、一つ増えた。

 

 二人と一匹が喚き合う。

 それに嘆息しながらも、香澄とユキヒメは安堵を覚えていた。


『こやつら、どうやら本質的に馬が合わんようだなぁ。しかし、わだかまりがない分安心できる、か。双方共、声に憎しみが乗っておらぬ』

 ――あぁ。二人は今、なんら偽ることなく己を見せ合っている。そうしながらも、繋がりに傷が付きそうにない。こいつらの結びつきは、ともすれば親友以上かもしれんな。だが、それにしても……。


 いい加減罵り合いが見苦しくなってきたので、香澄はその手に大きなハリセンを創造し、


「やかましいッ! この馬鹿共がッ!」


 両者の頭を思いきり叩き、スパァン、という気持ちの良い音を鳴らせた。


 そうしてから二人を正座させてガミガミと説教する。その最中、義人と天馬は幼子の様にちょっかいを出し合い、その度に香澄のハリセンが振るわれた。


『くふふふふふ。まるで子を叱る母親だな。これからちゃんと面倒を見てやれよ』

 ――こんなでかい子供はいらん。


 自分達の関係性とこれからについて思いを馳せると、自然にため息が漏れ出てしまった。


 ――子育ての大変さ、身に染みてわかりましたよ。椿さん。


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