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第八章 POWER to TEARER 7

 地上からの対空砲火。

 視認不可能な程の超遠距離から放たれる、射撃の嵐。

 それらが爆炎を生み、直撃を食らった下位ベヒモス、プリンシパリティーが粒子に変わり、いずこかへと飛んでいく。


 そんな状況の只中、鎧の体表を流れる血色のラインがその軌道に合わせて閃光を描き続けていた。

 

 そうしながら、義人は目についた化物を片っ端から始末する。


 宙空を縦横無尽に飛び回りながら、左右の手に持った赤黒い剣を振るう。

 体の周りに生成した紅の矢を間断なく放つ。

 こうして雑魚共を蹴散らし、さらに砲弾をギリギリのタイミングで躱しつつ、闇色の鎧は目標へと接近する。


 どうやら奴はそれに気づいたらしく、その鎌首をもたげこちらを睥睨した。

 瞬間、竜の如き敵の全身に電気が帯び、その直後、奴は自身を雷撃そのものとして、突貫してきた。


 その疾さは音の壁を破り、ソニックムーブを発生させる。だが、対応不能レベルな速度では断じてない。

 義人は左方へ急加速し、下方から接近する敵の巨体を回避する。


 そして、二体の怪物は周囲の雑魚など歯牙にもかけず、正面切って視線を交錯させた。


『まさか貴公がおられるとは、なんたる僥倖。生まれ出でてより幾星霜、念願の時を迎え、感無量である。なれど滅ぼす者よ。我は貴公の力量を完全には把握しておらぬ。ゆえに無礼を貫かせていただこう。我が名を訊きたくば、己が最強を証明してみせよ』

「さっさとかかってこい。この中二野郎」


 宣戦布告に挑発を返すと、少年は更なる上空へと飛翔した。

 追いすがる竜の気配を感じながら、彼は雲の中へと突入する。


『我が姿は完全にあらず。最強の試練と争うに相応しいものとはとても言えぬ。ゆえに、この姿における肉体の秘は御自分で暴かれよ。何せ貴公は我等が頂点である。対して我は一介の強者。その差を思えば、この程度の不利は負っていただかねば面白みがない』


 言葉の終わりと共に、下方より迫る敵の威圧感が爆発的に増大した。


 それを感じ取り、少年は反射的に右へ進行軌道を変更。前後して、今しがたまで自分がいた場所を竜の巨躯が通過する。

 もしあの場に居たなら、突進の直撃を食らっていたことだろう。

 安堵すると共に、義人は反撃に打って出る。


 敵の後ろにぴったりと張り付きながら、己の周囲に大量の矢を形成。数瞬後、赤黒く光るそれを雨あられと浴びせかける。


 雲の中であるため視界は悪い。しかしそれでも、放たれた無数の矢は敵に向かって一直線に飛び、その体へ――


 着弾する寸前、竜の全身を覆う様に、球体状の膜が形成された。


 金に輝くそれが紅の矢を弾き、消滅させる。

 その色と放電に似た現象を起こしていることからして、あれは電磁シールドか何かであろう。

 それを発生させる器官はきっと翼膜、もしくは翼全体。


 まずはあの鬱陶しい防壁を展開できないようにしてやる。そう決定し、瞬時に策を生む。


 同時に、両者は雲海からまろび出て、月下のもとさらに飛翔を続けた。


 地表が遠くなっていく。宇宙に近づいていく。

 そして成層圏を突破した頃合で敵が急転し、こちらを向いた。


 その口内は蒼穹色に煌いていて、それを彼が視認した直後、蒼い線状の熱が放出される。

 まさにドラゴンブレス。

 殺到してくるその熱線を、義人は慣性など無視した、急激に過ぎる直角屈折にて回避して見せる。


 これを皮切りに、攻守が逆転。今度は義人が逃げる番となった。


 星と宇宙の合間で、二体の怪物が命がけのドッグファイトを演じる。

 後方から飛来した雷撃を闇色の鎧が器用に躱し、反撃とばかりに射出された血色の矢を、敵が電子の壁で防ぐ。


 そんな展開をしばらく続けた末に、少年は好機を感じ、策を実行に移した。


 推進速度をさらに上げて、宇宙目指して昇る。

 自身を追いかけてくる敵の気配を感じながら飛びに飛びまくり、外気圏、宇宙一歩手前の領域にまで到達すると、彼はそこで急停止した。


 この行動には敵も面食らったらしい。ゆえに即座対応など望むべくもなく、竜は鎧のすぐ隣を通過。互いの位置関係が逆転する。


 その、まさに一瞬にすら満たぬ隙をついて、少年は両掌から赤黒い奔流を光線の形にして放った。


 狙うは翼膜。あの部位を破壊できたなら、鬱陶しい防御機能は焼失するはず。


 果たして、その目論見は半分のみ達成された。

 そう、あくまで半分だ。


 相手方の吃驚具合はかなりのものだったらしく、電子の壁は展開されなかった。

 よって彼の攻撃は直撃したのだが、両の翼膜が綺麗さっぱり消えた直後、それが瞬時に再生し何事もなかったように元通りとなった。


 ――どうなってんだ、あれ。……考る暇なんか与えてくれそうにないな。だったら、多分奴の秘密を知ってるであろう人間に聞くのが一番、か。


 そう思い立つと、義人は迷うことなく敵に背を向け、地上に向かって急降下。

 それに伴って総身に負担がかかるものの、そのダメージは自己再生機能によって随時ゼロとなる。


 当然、竜はこちらを追ってきているものの、速度差は歴然としていた。

 見る見る間に離れていく彼我の距離を感じ取りながら、義人は細かい軌道修正を行って、目的地へと着陸。


 そこはかつて娯楽集積地帯と呼ばれた場所。

 神代天馬の、真ん前であった。


 真紅の鎧となった彼は膝をついた状態で、闇色の鎧に視線を向ける。

 赤黒い双眸と、白銀の両眼が互いを見た。

 そして少しの間を置いた後、義人は天馬に手を伸ばす。


 それを、紅い鎧はがっしりと掴んだ。


 これだけで、両者は全てを理解し、納得する。

 あらゆる感情、あらゆる過去が流れ落ち、使命感が二人を繋ぐ。


 義人に手を借りて立ち上がった後、天馬は高空より飛来する敵を睨みながら言った。


「あいつは絶対順守型と外殻型の混合タイプだ。正解部位は――」

「なるほどね。道理で再生するわけだ。でも、これでタネはわかった」

「……人の話聞けよ」

「大丈夫。順番なんか守ってやらない」


 いまいち噛み合わない会話の後、義人は巨竜に対し、少し前奴自身が望んだことをしてやった。


 即ち、己が最強の証明である。


 彼は闇に染まった天に向け掌を伸ばすと、重力操作を発動。

 先刻までは飛ぶことにのみ集中していたため、他事をするイメージの余裕がなかった。が、今は違う。


 迫る敵周辺の重力を倍化させ、その動きを強制的に止める。続いて向けた掌の上に反物質の塊を創造し、図太い線状の奔流へと変換。上空向けて走らせる。

 射線上には当然ながら竜の姿があり、その巨躯はドス黒い破壊のラインに飲み込まれた。


 傍から見ていた天馬は、いかなる情を抱いただろう。

 反則? ずる? 卑怯? 

 先程の一撃で勝敗が決していたなら、それに類した気分となっていたはずだ。


 敵は、健在である。


 空中に浮かぶ玉虫色の卵。それがゆっくりと地上に降り、二人から一〇メートル近く離れた場所へ着地すると――殻にヒビが入り、爆散した。


 そして、新しい姿となった怪物が姿を現す。


 体躯は二体の鎧とほぼ同じ、二メートル前後。シルエットも同様で、人型だ。

 フォルムは脚部を覗けば全体的に細見。されどその外見的特徴から、モチーフが判然としない。


 頭部は一見竜を連想させるが、魚類を思わせる鱗と猛禽類に似たクチバシ状の口、額から伸びる一本角など、複数の生物、幻獣が融合しているかの様な形状。


 最たる特徴は肩、肘、大腿部にある、ヒレ、翼に似た器官であろう。

 後方に反り返る形で伸びるそれは魚類の鱗に酷似した外殻も相まって、海の者、という印象を強めている。


 そうした上半身を支える脚部は丸太の様に太く、機敏性は感じられない。が、その特徴に反した動きをしてくることは間違いない。


 両腰に携えられた剣を見るに、あれを攻撃の要としてくるのだろうか。


 色合いは瞳が赤紫、全身が黄金、幾何学模様が純銀。


 絶大な力が凝縮されたような、そんな空気を周囲に浴びせながら、奴は言葉を発した。


『見事だ、滅ぼす者。さすが我等の頂点。さすが最強の試練。さりとて、我もまた強者として創られた身。この完全なる姿であれば、遅れは取らぬ』


 強烈な敵愾心を義人にぶつけた後、怪物は赤紫色の瞳を強く発光させた。


『さて。ここまで我を追い込んだ者共に最大の敬意を払おう。ゆえに――益荒男共よ、我が名を訊け! 我はゼフィルノード! 解き放つ者ゼフィルノードなりッ!』


 吼えるかの如く名乗りを上げると、奴は腰に携えた二振りの剣を抜き放ち、構えた。


『いざ、勝負ッ! 我が命は胸の奥に在り! ゼフィルノードの業前、見事乗り越え、この首をば取ってみよッ!』


 怖気が走るような、圧倒的闘志。

 それに応え、漆黒の鎧と真紅の鎧は並び立ち、同時に構えて見せた。


 義人は右構え。

 右の拳を鎖骨まで上げ、左腕をだらりと下げる。


 天馬は左構え。

 左も右も目線の高さまで上げた、基本的なスタイル。


 かくして、決戦の火蓋が切って落とされた。


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