表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/112

第八章 POWER to TEARER 6

 午後七時五〇分。娯楽集積地帯跡。


「らぁッ!」


 天高くを舞いながら、真紅の鎧が裂帛の気合いを放つ。

 その拳が捉えるは、敵の左肩を覆う外殻。

 その一撃によりむき出しとなったコアが破壊され、残す部位は二つとなった。


 天馬の快進撃はまだ終わらない。攻撃の反動で後方に推進してからすぐ、彼は左足にエネルギーを纏わせ、右前足前面外殻を狙い、落下。

 敵はそれを回避すべく跳躍を実行しようとするものの、間に合わなかった。


 紅い鎧による、天からの蹴り。それは見事正解部位の一つに直撃し、次々と外殻を削っていく。

 その破壊たるやド外れており、おおよそ数千の層を持つ外殻を一発で粉砕する。


 それでもまだ彼の勢いは止まらず、その動作が停止したのは、二つ目のコアを蹴り砕いた後だった。

 大穴が穿たれた右前足前面をさらに蹴り、後ろへ跳ぶと、二回転して着地。


 まさに圧倒的。


 天馬の思想はヒーローらしく振舞うこと。スペックアップの感覚からして、それに反しているというわけではないらしい。

 確かに、不思議と敵への憎悪はなかった。そういう淀んだ感情なしに人外を倒そうとしているのは、もしかすると生まれて初めてかもしれない。


 溢れる力が、勝利を確信させる。


 奴とは異能の相性もいい。

 天馬がセカンドとして所持する能力は、破壊だ。森羅万象を消滅させるエネルギーを操り、それに触れた事象を全て破壊する。

 例外は精神攻撃系統だが、此度の敵にはそのような能力はない。


 無限に上昇し続ける基礎スペックと異能。

 客観的に見ても、勝つ要素しかない。


 そして、天馬は決着をつけるべく前進した。

 目指すは四本足に囲まれた場所、敵腹部の真下。そこを破壊したなら終わりだ。この騒動に終止符がやってくる。


 二蹴りで目的の場へ到達すると、彼は顔を上げ、攻撃目標に意識を集中。それからすぐ蛇腹状の腹部目掛け跳躍。

 と、その直前、彼の第六感が危険を察知した。


 もっと、早く怪しむべきだった。

 なにゆえ、敵方は未だ微動だにしようとしないのか。


 これは、罠。そのことに気付いた頃、怪物の攻撃が開始される。


 四本の脚部、内側方面の外殻が、観音開きの如く展開。内部には金色の輝きで満ちており――


 それが熱を持つ光の波となって、一斉に襲い掛かってくる。


 まるで電子レンジのようだった。

 これをするために、敵方は敢えて自分を潜り込ませたのだろう。

 巨体の真下にて、足に囲まれ全方位からの光波照射。その攻撃機能による痛みは筆舌に尽くしがたい。


「ぐ、あ、あああああああああああああああああああああああああッ!」


 あまりの激痛に、天馬は膝をつきそうになる。

 されど。


『天馬ぁッ! ヒーローは! どこのどいつだぁッ!』

「オレ、だ……オレがッ! ヒーローだッ!」


 相棒に焚き付けられ、意志の強さが苦痛を凌駕する。

 刹那、彼の全身を炎に似たエネルギーの奔流が覆い尽くし、続いて、それが全方位、広範囲に放たれた。


 アーマー・ザ・インパクト。そう名付けた、己が必殺技。

 破壊エネルギーを総身に纏い、爆発のイメージと共に放射。自身を中心に半径三〇メートル圏内にある全てを消す尽くす、攻撃と防御を兼ね備えた大技である。

 

 それによって光波が一瞬消滅。それは秒数にしてコンマ五にも満たない時間であったが、天馬からすれば十分に過ぎた。


 彼は両足で大地を蹴り、勢いよく飛翔すると、敵腹部、最後の部位へと突撃。先刻同様頭から爪先までエネルギーに包まれ、頭頂部から腹を突き破っていく。

 その姿はまさしく紅蓮の弾丸。

 全身を攻撃の手段と化した天馬は化物の体内にあるコアを砕き、そのまま突き進んで敵背部から脱出。


 そうして放物線を描きながら推進し、丁度敵の目前に着地した。


「はぁ、はぁ、これで、終わりか……」


 両膝をつき、勝利の余韻に浸るべく、天馬は変身を解こうとする。

 しかし。


『まだ終わってねぇぞ! 左向け!』


 ヴァルガスの一声により、すぐさま左側を見やる。

 すると、敵方の全身に変化が起きていた。


 体表に走る幾何学模様が強く発光し、その体に纏う鎧のような外殻に亀裂が走った。


 次の瞬間、殻が四方八方に飛ばされる。

 殺到するそれらを両腕で防ぎながら、天馬は事態の収束は未だ見えていないことを知った。


 吹き飛んだ外殻は大地に衝突した途端、粒子となって消失。この行為は、奴にとって脱皮に似たものであったのだろう。

 黒ずんだ茶色をしたそれを脱ぎ払ったことで、敵はその姿を大きく変えていた。


 宙に浮くその外見は、まさにドラゴンそのもの。

 体躯は大幅にサイズダウンし、全高七メートル、全長一五メートル。されど体が小さくなったからといって、その威容が衰えたわけでは断じてない。

 むしろ、威圧感はさらに強まっていた。


 屈強さを感じさせる四肢。太く長い首。口元にズラリと並んだ牙と両手の爪は、触れただけで切り裂かれそうな鋭さを感じさせる。


 だが特に気になったのは、その翼だった。

 全身を覆えそうなぐらい巨大なそれは、常に電気を纏っているのか、金の閃光と放電現象を起こしている。

 あの部位はなんらかの攻撃機能を有しているのだろうが、現段階では定かでない。


 色合いは、瞳が青紫、角・牙・爪・翼膜が琥珀色、全身基調は玉虫色、幾何学模様は白。


『先程までの戦振り、まことに見事であった。なれど乗り越えし者よ、我が名を訊かすにはまだ足りぬ。この姿の我を超越して見せい。狙うべきは背部、両翼付け根、首の右側ぞ。さぁ、かかって参れ』


 滞空するそいつから放たれた、闘争開始の合図。だがそれに対し、猪突猛進とはいかなかった。


 このシチュエーションは不味い。天馬は地上での近接戦闘を得意としている。それはセカンドとしてもそうだし、ファーストとしても、だ。


 即ち、空中戦などできないということ。

 そのため、上空にてこちらを睨む巨竜は、天馬にとり不得手な敵といえる。


 といって、勝つことを諦めることなどしない。

 心を折り、たおれるわけにはいかない。


 奴は自分が倒す。

 都合のいい時に現れてくれるヒーローなどどこにもいない。だから、この戦いは自分の力で切り抜けるしかないのだ。

 と、天馬は心底から考えていたが――


 それを否定するかのように、“彼”は来臨する。


 紅い鎧は、白銀色の双眸で確とそれを見た。

 遠方、敵背後、上空より飛来する、漆黒の鎧を。

 ジグザグの軌道を描き、闇色の天空に居座る化物共を斬り刻む、只野義人を。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ