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第三章 Double-Action 5

「……月初めに天馬が中位を倒した時も思ったけど、虹色の粒子なんて珍しいな」


 何かおかしな感じがする。

 しかしどうせ気のせいと思い、義人は漆黒の鎧から生身へと戻る。ついでにバイクも消滅させた。


 それと時同じくして、少年のもとに天馬と香澄がやってくる。


 二人はどの様な言葉をくれるのだろう。といったワクワク感が、数秒後吹き飛ばされた。


 天馬が無言で近づいてきて、その果てに、義人の胸倉を掴む。


 彼は明らかに冷静さを欠いていた。

 美貌が怒気で歪み、握られた拳が震えている。


 今にも殴りかかってきそうな栗髪の少年に、義人は戸惑いを覚えた。が、それも一瞬のこと。

 負の人格が、歓喜して騒ぎ立てる。

 こいつを徹底的にぶちのめすチャンスだ、と。


 その衝動を必死に抑え込む。

 きっと自分に非があったのだ。だから天馬は怒っている。

 なら、ここは彼の好きにさせよう。ここで迎撃したなら、彼との関係は確実に終わりだ。


 そう言い聞かせる少年であったが、事態は香澄によって収められた。


「……落ち着け、天馬。このようなこと、お前の信条に反するのではないか?」


 それは彼にとって非常に大きな意味を持っていたらしい。

 天馬は唸りながら手を離し、


「……………………悪かった」


 消え入るような声で謝罪すると、そのまま足早に二人から離れていった。


『は、は、は、は、は。糞色頭が本性を現しましたねぇ。チョーウケるー。あいつ全力であなたを殺したがってましたけど、ねぇ今どんな気持ちですか? あんなのと仲良くなろうとか思った自分に対し、どんな気持ちになってるんですか? ねぇ教えてくださいよ』


 無機質な棒読み口調に、少しだけ喜悦の色があった。


 少年の中で様々な答えがぐちゃぐちゃに混ざり合う。


 全く以て、気分が悪い。


   ◆◇◆

 

 ベヒモス掃討後、三人は駐屯地に帰還し、待機任務を続行。

 その間中、義人はずっと香澄と遊戯に興じていたが、一人別の場所で待機する天馬が気になって碌に楽しめなかった。


 さて現在、時刻は午後七時三〇分。

 

 待機任務というのは通常二四時間続くものだが、法により一八歳未満の部隊員は午後七時以降自宅待機となる。


 義人は自部屋へと帰った後、隊服から普段着へと着替え、テレビの電源を入れた。


『だからねぇ、私は何もカラーズから全人権を剥奪しろとは言ってないんだよ。一部を取っ払って犯罪を犯した野良を最低でも無期にできるようにすべきだと言ってるんだ』

『そうすれば野良カラーズが犯罪を起こさなくなると、そうおっしゃりたいのですか? もしそうなら否定するほかありませんな。今でも野良カラーズの扱いは非常に厳しい。人権は表向き所持していますが、実質ベヒモスと同じものとされている。凶悪犯罪に走った彼等の大半が現場で殺害されていることはご存知でしょう? 現実問題、野良には人権がないも同然なんですよ。彼等だってそれは自覚してる。それでも犯罪を犯す者はそうするし、そうしない者は大人しく暮らす。その点は人間と変わりません』

『どうでしょうな? 彼等は超科学的力を持っている。それを使って社会に混沌をもたらしたい、とそう考える輩の方が大多数なんじゃないですか。少なくとも私は彼等を人と認めることはできないね。実質ではなく公的にもベヒモスと同扱いとすべきだ。ベヒモスへの対策システムが完成した以上、今後はカラーズ犯罪への対策を徹底するべきでしょう』

『ベヒモス対策が完成したのはカラーズの存在あってこそ。いわば彼等は人類に平和をもたらした者達だ。彼等は英雄であり化物ではありません』


 画面が映し出したのは討論番組だった。


「は、は、は、は、は。カラーズとはいかなる存在か、などというありきたりなテーマの論争を、人間は何度繰り返すつもりでしょうねぇ。わたしからすればこの反カラーズ論者の方がよほど化物ですよ。なんですかあの醜く肥え太った体は。豚の怪物ですか」


 出演者を馬鹿にして、無感情な笑い声を吐く。


 義人としては、どうでもいい話だった。

 そもそもテレビをつけたこと自体にさほどの意味はない。ただなんとなく、雑音を耳に入れたくなっただけだ。内容には興味がない。


 ベッドに寝転がりながら、目を瞑る。

 

 この時間、いつもなら二人と共に食卓を囲んでいるのだが、おそらく、本日はやって来ないだろう。

 それもこれも、全ては天馬が悪い。


 ――あいつ、実は僕のこと嫌いなんじゃないかな。組手やって心が通じ合えた、なんて、僕の勘違いだったのかな。だったら、仲良くなろうとするのはそもそも間違って――


 そんな思考の最中、インターフォンが何者かの来訪を知らせる。

 矢先、イヴが舌打ちして消失。

 それを気にすることなく義人は立ち上がり、玄関へ赴いてドアを開けた。


「……白柳さん? 天馬はどうしたの?」

「あぁ、それがな……今日は来れそうにない。色々と事情があってな。そのことについて、話に来たんだ。中に入れてもらえるか?」


 何やら重苦しい空気を纏う彼女に、少年は小さく頷いた。

 そうしてから、香澄と共にリビングへ行き、テーブルの席へと座る。


「此度の天馬の行動。あれは、あいつの本意ではないんだ」


 着席してから間髪入れず、香澄は話し始めた。


「義人よ、お前はセカンドについてどこまで知っている?」

「ほとんど何も、かな。セカンドについての情報は軍事機密だから出回らないんだよね」

「……それは全くのデマカセだ。世界中、どこも同じことを考えるものだな。まぁセカンドの真実など知ったなら、普遍的なカラーズはろくに戦わなくなるだろうし、仕方がないと言えば仕方ない、か」


 一度嘆息して、彼女は会話を続ける。


「これは元来、口外してはならんことだが……罰を受けることは覚悟している。だからな、しかと聞いて欲しい。セカンドについて、天馬について」


 真剣な眼差しを向けてくる香澄に、義人は小さく頷いた。


「……さて、まずはそうだな。そもそもセカンドとは何か、というところから始めよう。お前も知っての通り、ファーストの武装はフェアリーとカラーズの精神が融合したものだ。これがセカンドの場合、フェアリーとカラーズは精神だけでなく、肉体も融合することになる。それによって、我々は鎧の姿へと変身しているというわけだ。そして……セカンドの姿になると、ファーストとして扱う異能は使用できなくなる。その代わり、セカンドとしての力、“思想体現機能”が使用可能となるのだ」

「思想、体現機能?」

「うむ。これは読んで字の如く、当人の思想・信条をそのまま具現化した力を得られる、というものだ。それでな、この能力及び身体機能のスペックは、思想に順じた思いが強くなればなるほど秒刻みで強化されていく。例えば私の場合だが、敵との交戦時、周囲に逃げ遅れた者がいたとしよう。その者を“守りたい”と強く願うことにより、私の能力と身体的スペックは上昇を続ける、といった具合だ。このシステムが、セカンドにおける最大の長所であり……最大の欠点でもある」

「それは、どういうことなの? 今のところ凄いことにしか思えないんだけど」

「……セカンドは思想に順じた思いが強まるだけ力を増す。では、思想に反する思いを強め、敵と戦ったなら、どうなると思う?」

「うーん、力が弱くなる、とか?」

「いいや、その逆だ。思想に反した場合、思想に順じた時よりも力の上昇率が上がる。つまり、思想に反した気持ちで戦った方が我々は強くなれるということだ。しかし、その代償として……精神汚染を受けることになる」

「精神汚染……そういえば、叔母さんも言ってたな。セカンドにも精神汚染があるって」

「うむ。これは私個人の解釈だが、セカンドの汚染はフェアリーとの同調率が影響していると思う。自分の内面であり、理想像でもあるフェアリーと融合し、戦う。その際、理想像である彼等と同じ思考を続けていれば、汚染はされない。しかし彼等に反する考えを胸に抱いて戦ったなら、自分の理想に反した罰を受ける。実際、私も稀に汚染を受けるが、その際は例外なくユキヒメに反発するような心境だった。具体的に言うとな、その時の気持ちは“憎悪”だ。人を守護するという大義を見失い、ベヒモスを憎悪し、殺してやりたいとそう思った時、私は汚染を受ける。それは、天馬も同じことだ」


 そこで一度区切ると、香澄は両肘をつき、美貌の前で手を組んだ。


「天馬はな、特撮ヒーローというものを異常なぐらい愛している。清く美しい心を持ち、強大な悪に立ち向かい、最後は必ず勝利し、大衆の笑顔を守る。それこそがあいつの理想であり、思想だ。あいつはな、心の底からヒーローになりたいと思っているのだよ。そのためにこれまで死に物狂いで努力を積み重ねてきた。だが、どうしても復讐心を捨てられない。一四年前、上位ベヒモスに親を殺された時、あいつの中で闇が生まれたのだ。人外への憎しみ、殺意。それはあいつの理想とは対極にあるものだ。天馬の理想像はどのような暗い過去があろうと闇にとらわれず、人のために戦う、というものだからな。しかしあいつにはそれができない。人外を前にすると、闇に飲まれてしまう。ファーストとして戦うだけならそれでも良いが、急な中位ベヒモスとの交戦時はセカンドの力が必須となる。その際、天馬は必ず精神汚染を受け、結果として――寿命を、大幅に縮めてしまう」

「寿命が、縮む……」

「あぁ。セカンドの精神汚染がもたらす肉体への影響は、極めて深刻なものだ。ファーストの場合は時間経過によって完全に汚染が取り除かれるが、セカンドはそうもいかん。どの程度かはわからんが、汚染が残り、蓄積されてしまう。その蓄積量が増加していくにつれて体は様々な害を受けるようになり、最終的には死に至るとされている。天馬の場合、今のところ“五感の麻痺”“全身もしくは体の一部の痙攣”“情緒不安定”“頭が割れるような痛み”“突発性の失神”など、これらの症状のいずれかが発作的に出る、といった状態だが……今後増々酷くなっていくだろうな」


 それを聞かされたことで、義人の脳内にいくつかの映像がフラッシュバックする。


 何もないところで転び、女子を押し倒す。

 

 どう考えても聞こえているはずなのに、まるで何も聞こえていないかのように振舞う。


 突然失神したかのように倒れる。


 そして、なんでもないようなタイミングで怒り狂う。


「もしかして、全部……精神汚染による、疾患?」

「うむ。あいつに何か違和を感じる場面があったとしたら全て汚染が原因だ。厄介なことに、汚染による疾患は医学、異能では治せない。一部の症状は薬で発生後の苦痛を和らげられるが、それだけだ。どうやらベヒモスを倒し捕食することによって蓄積された汚染が取り除かれるようだが……それも微々たるもの。例え一〇〇体狩ったとしても、一度セカンドになって戦えばそれで帳消しになるだろうな。……我々がセカンドとなってからまだ二年に満たない。それでこのザマだ。わかるか? セカンドというのはカラーズにとって重大な病も同然なのだよ。そして、それはベヒモスを積極的に狩っていけば誰にだってなりえるものだ。そうなると必然、大多数はセカンドになることを恐れて戦うことにためらいを持つようになる。そうなれば、ようやっと完成したベヒモス対策システムに亀裂が入りかねん。だから、どこの国であろうとセカンドの情報は秘匿とされるのだろうな」


 香澄からもたらされた情報は、義人に少なからず衝撃を与えた。

 それにより――

 一つの決意と安堵、さらなる確信が生まれる。


「今日、天馬があんな態度を取ったのは、疾患と僕のせいだったんだね。天馬は中位を前にして獲物がやってきたって思ったはずだ。後、憎い敵を自分の手で倒したい、とも考えたんだろうな。でも、それを僕が横取りした。それが天馬のストレスになって、最悪のタイミングで発作が起こった。そのせいで天馬は情緒不安定になって、怒りの矛先を向けている僕に過剰な行動を取ってしまった……という解釈で間違ってないよね?」

「うむ。ただ一点違うとするなら、お前に非などどこにもないというところだな。悪があるとすれば精神汚染、それをもたらす遠因たるベヒモスだ」


 そう言って、香澄は気にするなとばかりに微笑んでくれた。

 それに笑い返すと、義人は決意と安堵を口にする。


「……実を言うとね、僕、天馬と仲良くなれないかもしれないって、そう思ってたんだ。だってあいつ、たまに僕のことを親の仇みたいな目で見てくるし。でも、それをするタイミングはいつも僕が何かしら天馬にストレスを与えてる時だった。多分、発作はストレスで起きやすくなるんだろうね。だから……あいつが僕のことを嫌ってるっていうのは勘違いだったんだ。僕とあいつはきっと仲良くなれる。友達になれると、思う。それに、血縁はないけど、あいつは僕の家族だ。叔母さんの子供だからね。もう他人じゃない。だから、あいつは死なせないよ。絶対」


 そして、義人は決意の言葉を重ねた。


「これから、中位ベヒモスは全部僕が倒す。そうすれば天馬はセカンドにならなくて済むんだ。そしたら、いつか汚染も消えるんじゃないかな」

「そうしてくれると、助かるよ。私は守ることはできても、倒すことは不得手だからな。……それとな義人、お前の家族は椿さんと天馬だけじゃない。私だってそうだ。それを忘れんでくれよ」


 優しく笑いかけてくれる彼女に、義人は心の安らぎを感じた。

 それと同時に――


 深まる確信が、闇を刺激する。


 香澄の意識は今、少年以上に天馬へと注がれているのだろう。そう思うと、彼を憎いと感じてしまう。

 

 だが、それが自覚できることは幸いだ。


 長く答えが出なかった疑問、天馬への悪感情の原因がわかったのだから。


 義人は、香澄のことを自分が思っている以上に愛しすぎている。

 彼女と距離の近い男に常軌を逸した嫉妬を抱き、それを殺意や憎悪に変えてしまうぐらいに。


 その対象が、天馬なのだ。

 香澄は以前こう言った。彼と男女の仲にはならない、と。それは単なる照れ隠しなのでは、と思うと、もうそれだけで心の中が真っ黒になる。


 だが、この感情は消せないものではない。

 彼女への恋心が原因ならば、それに決着をつければよいだけだ。

 香澄と結ばれる。はたまた拒絶される。いずれかの結末を迎えれば、その思いは自分の中で完結し、天馬への後ろめたい気持ちも消えるだろう。


 そうすれば、彼と友好な関係になれるはずだ。

 わだかまりもなく、誤解もない。まっさらな気持ちで付き合っていける。


 もしそういう関係になれたなら、また彼と組手がしたい。友と拳を交える悦びを、互いに技を磨き合う感覚を、味わってみたい。


『……一応言っておきますがね、もし万一あなたが白柳香澄と結ばれたなら、わたしはあなたを殺します。あなたはわたしだけのもの。誰にも渡しませんよ。後、天馬は諦めなさい。あの主人公野郎とあなたは憎しみ合うのがお似合いです』


 相棒の声を無視しながら、義人は誓う。


 天馬を救い、自分も救ってみせる、と。


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