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第三章 Double-Action 3

 午後七時。訓練を終え、義人の部屋で三人揃って夕餉を摂る。


 食卓の空気は、非常に明るいものだった。


「でさー、義人のカウンターが凄ぇのなんの。あんな形で貰ったの初めてだったぜ」

「ほう。義人の徒手格闘の腕前はそれほどか。私も参加すべきだったな。残念だ」


 話のネタは、少年の戦闘能力に関して。

 それを振ってきたのは天馬だ。彼は嬉々として義人の強さを称え、香澄はその話に目を見張る。


「いや、僕なんかよりも天馬の方がよほど凄いよ。何度も倒したのにそのたびすぐに立ち上がってさ。お世辞抜きに、カッコいいって思った。それも、なんていうかこう……ヒーローみたいなカッコよさっていうのかな」

「ははっ、みたいじゃなくてヒーローそのものだぜ、オレは!」


 笑い飛ばしながらも、彼は照れくさそうに栗色の髪を掻く。


「うん。動作もまさにヒーローそのものだよね。……君さ、もしかしてガイゼリオンのファンだったりする? 動きが良く似てるよ」

「……えっ? お前、あの作品知ってんの!?」

「まぁ、一応ね。特撮史上もっともローキックを使ったヒーロー、って評判が気になったから見てみたいなーって思ったんだけど……マイナーだからレンタルショップじゃ全然DVDが見つからなくてさ、探すのに苦労したよ」

「そ、それで、どうだった? あれ見てどう思った?」

「ド王道一直線。でもそれがいいって感じかな。戦闘シーンがすごく特徴的だよね。とてつもなくリアリティがあってさ」

「だよな! 特撮ヒーローん中であそこまで実戦的な殺陣やってる作品は他にねぇよ!」

「ローだけじゃなくて、フェイントとかも多用してるよね。コンビネーションも渋くてカッコいいし、格闘技やってる身としてはワクワクする作品だと思う」


 その後も、義人は天馬と特撮談義に花を咲かせた。


 相手の表情は本当に明るく、こちらに強い友好感情を抱いていることが伺える。


 これはきっと、組手の影響だろう。

 健闘を称え合うことができたなら、即座に親友同然の距離感になれる。それが格闘技の素晴らしいところだ。


 今日に至るまで、義人はその素晴らしさを享受できなかった。そうだからこそ、この初体験はことさら感動的である。

 何せ、諦めかけていたことが現実となったのだから。


 天馬は今まで出会ってきた者達とは違う。

 自分を恐れないし、対等な目線でいてくれる。だから、こうして明るい顔を見合わせながら喋っていられるのだ。


 しかし、それゆえにこう思う。


 自分はなんと酷い人間なのだろうか、と。

 

 格闘者としての己は天馬に好意を抱いている。

 対して、自分の中にある闇は彼への悪意を包み隠そうとしない。


 友達になりたいと願う反面、憎しみや殺意が湧き上がる。そんな意味不明に過ぎる心境が、少年に自己嫌悪をもたらす。

 これをどうにかしないと、自分はいつまで経っても彼と真に仲良くはなれないだろう。


 だが厄介なことに、なぜこのような暗い感情を抱くのか、それが未だ不明なため手の打ちようがない。


 ――なんで、僕はこんな気持ちになるんだ? ……天馬を殺したいとか、ありえないだろ。この状況で殺意を抱く理由なんか、あるわけないのに……。


 苦悩する少年の脳内に、イヴの無機質な声が響いた。


『それがあなたの本質ですよ、義人。だからあんな奴と仲良くなろうだなんておやめなさい。むしろ欲求に任せて後ろから刺しちゃえばいいのです』


 彼は静かに拳を握り、


 ――わかった。僕、決めたよ。これからは君の意見と真逆なことをする。だから、絶対に天馬と友達になって見せる。……こんな嫌な気持ち、あっちゃいけないんだ。


 そう宣言して、小さく息を吐くのだった。


   ◆◇◆


 五月一四日。午前八時三〇分。本日は土曜であるため、学校は休み。


 学生カラーズは青少年カラーズ保護法により、最低週一日の休養日を取るよう義務付けられている。さりとて、義人達は基本的に日曜を休養日に設定しているので、本日は実動部隊の基本職務である待機任務を行っていた。


 その仕事内容は非常に簡単だ。

 所属駐屯地の待機エリア内にて、定められた時間までずっと待機する。それだけ。


 もしもベヒモスが発生し、館内放送などで出撃の命令が下ったなら排除任務へと赴く。それがなかった場合、待機エリア内にいれば何をしていても良い。


 職務の性質上、実行者達は時間を持て余すことになる。そのためエリア内にある建物の大半は娯楽施設となっており、皆ここで時間を潰す。


 それは義人達とて例外ではない。


 第一五駐屯地、待機エリア、ゲームセンター内。

 ここの内観はそこらへんのゲーセンと同じ。普通は金を払ってプレイするものだが、この施設では全て無料で遊べる。


 で、現在、義人達はエアホッケーで遊んでいた。


「うぉりゃあ!」

「おぉっと、危ない」


 豪快に円盤を打つ天馬。それに対し、義人は並外れた瞬発力で食らいつく。


 で、それを観戦する香澄、ヴァルガス、ユキヒメ。


「くふふふ。どちらも熱が入っておるなぁ。子供のようで愛い奴等だ」

「なんでもいいが、もうそろそろ交代してほしいものだな。これで何戦目だ?」

「あー、もうかれこれ二一戦目じゃね? 今んとこ一〇勝一〇敗でイーブンだな」


 よくやるぜ全く、と、紅い狼は呆れたように漏らし、嘆息した。


 それから数分後、決着が訪れる。


「あああああああ!」

「ふぅ、僕の勝ちだね。これで一一勝。勝ち越しだ」

「ぐぬぬぬぬぬ……! もう一回!」

「いい加減にしろ馬鹿者。次は私がやる。勝負だ、義人」


 強制的に交代させられ、頬を膨らませる天馬。

 何も考えずに見ればなんとも可愛らしい仕草だったが、芝居地味ていると感じてしまうのは、悪感情のせいだろうか。


 友達になりたい。なりたくない。矛盾した心が同居するというのは気持ちが悪いものだ。

 それを吹き飛ばすべく思い人との遊戯に興じようとした、その瞬間。


 腕時計型警報機が、アラームを鳴らす。


 発光は黄色。これはかなり近場に出たということだ。


 次いで館内放送が流れ、義人達、第二五班に出撃命令が下った。


「むぅ……なんと都合の悪い……!」


 よほど遊びたかったのだろう。香澄は怒りの形相となって歯噛みした。

 

 それは単にエアホッケーがやりたかっただけなのか、それとも――義人と遊びたかったのだろうか。


 もし後者だったならと考え、悦に浸ろうとした矢先。


「うーし、行こうぜ二人共!」


 天馬が威勢のいい声を張り上げる。

 思い人の肩に、手を置きながら。


 出撃の間際、少年は“答えの断片”を得た。

 後は、それを確信するだけだ。

 

 

 ベヒモス襲来地点、オフィス街へと到着。

 この区画は碁盤状の地形をしており、建物が理路整然と並んでいる。

 地上から伸びるビル群はまさに高度文明が築き上げたつくし畑といった風情。

 様々な企業の本社ビルが軒を連ねる場所なだけあって、建造物の背丈の平均は非常に高い。


 そんな場所のちょうど真ん中、四車線道路に、奴等は陣取っていた。


 周囲には乗り捨てられた車があり、人の姿は皆無。ついでに犠牲者もゼロだ。


「さて、それじゃ仕事しようか、二人共。今回はどうする? 天馬がやる?」

「ん、そうだな。ストレス溜まってるし、こいつらはいただくぜ」


 腕をぐるぐると回しながら、栗髪の少年は前方を睨んだ。


 敵数は三〇。全て下位三階級第三位エンゼルス。灰色一色の金属質な体を持つ雑魚である。


 別に職務を舐めているわけではないが、三人はこんなアリ共に緊迫する程小心者ではない。ゆえに、こいつらの処理をする際は気が向いた者が適当にやることとなっていた。


「おい天馬よ、私も半分貰うぞ。邪魔をしたこと、後悔させてやる」


 まだ根に持っていたらしい。香澄は瞳を怒りで光らせ、黄金色の刀身を持つシミターを顕現させた。

 続いて、天馬もまた己の武装たる直刀を形成し、握る。


『ストレス発散のために狩られるとか、こいつらも哀れだよなぁ』

『いやいや、この二人にやられるならば本望だろうて。何せ彼奴等は強者に食われることを望む連中ゆえ、な』


 二人の武装の持ち手部分、実体を持ったフェアリー達が喋り合う。


 で、それから戦闘が開始されたわけだが、ものの一分かからず終わってしまった。


「うーん、なんつぅか手応えがねぇなぁ。もっと面白い奴が来てくんねぇかね」

「滅多なことを言うな。その戦いたがりがお前の――」


 香澄が説教を開始した矢先、警報機がアラームを鳴らす。


 発光は赤。ということはこの近くに出現するということだ。

 それを察して全員が警戒を示してから数秒後。


 三人から少し離れた場所に、空間の裂け目が生まれる。

 それは急速に穴を形成し、水銀色をした穴の中から、一体の怪物が飛び出てくる。


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