第一章 古き被害者と新しき被害者 5
淡々と読み上げられる報道に、天馬の相棒ヴァルガスが義人の傍に現れ、
「なぁ義人。ここら一帯の不良って全員お前の舎弟なんだろ? なら、あんま世間様に迷惑かけんなって注意しとけよ。ちゃんと手綱握らなきゃダメだろが」
「……犬の君が手綱云々とか言うと、なんだかシュールだね」
「誰が犬じゃゴラァ! オレ様はオオカミだ!」
怒声を放ち、グルルと唸って見せるヴァルガス。そんな彼を面白がったか、香澄の相棒たるユキヒメが現れ、
「はははははは。義人は笑いのセンスがあるなぁ。座布団二枚くれてやろう」
大笑いする白髪の美女と、真紅の狼が口喧嘩を始める。
それを背景に、義人はため息を吐きつつ、
「ほんっと、誰もが僕のことを誤解してるんだねぇ。ここら一帯の不良を纏めてるとか、どこのどいつが吹聴したのやら」
肩をすくめる白髪の少年。その発言に、天馬は興味を持った。
「ふぅん。じゃあほら、鬼滅羅を一人で潰したとか、ここらの不良全員半殺しにしたとか、そういう噂も全部デマか?」
「……いや、それは間違いじゃないけど」
答え辛そうに喋る白髪の少年に、香澄が小さく息を吐きつつ、
「なんにせよ、お前は誰かのために戦ったのだろう? ならば、咎められるものではない。世間は暴力を振るう者に対して厳しい。何かを守るためには、時としてそうした要素も必要だというのにな」
この意見については、天馬も全面的に同意だった。どれだけ立派な信条を持っていても、力が伴わなければ無意味だ。
それから香澄は義人をまっすぐ見つめて、
「人を守るための暴力は許されるべきだ。力なき正義ほど下らんものはない。ゆえに義人よ、我々はどんなことがあろうとお前の味方だ。少なくとも、私は断言できる。お前は何一つとして負い目を感じることはない、とな。例え一〇人や二〇人病院送りにしようとも、それは全て弱者を虐げようとした当人達の責任だ」
そんな香澄の言葉に、義人は申し訳なさそうな顔をして、
「……うん、ごめん、白柳さん。実のところ一〇や二〇じゃきかないと思う。多分その三〇倍は軽く超えてるんじゃないかな。僕が半殺しにした不良の数」
その応答に、香澄が唖然とした顔となる。
一連のやりとりが、天馬には妙に面白く感じた。
「ははっ、やっぱお前ガチガチの不良じゃん。ビビられてもしょうがねーよ。ははははは」
笑いが込み上げてくる。
只野義人は、世間一般からすれば恐ろしい不良なのだろう。実際のところ、彼は色々とやり過ぎだ。
しかし、それでも。なぜ、この白髪の少年が皆怖いのだろう。
少し前までは、不愉快な人間でしかなかった。けれど今、義人は天馬にとり、面白い人間になっている。
そして――
自分が変わったということも、天馬にとっては面白かった。
この日常がずっと続いてくれれば。そう思わずにはいられない。
だが、運命はそれを許してはくれなかった。
翌日、彼と彼等の物語が、別離する。
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