第一章 古き被害者と新しき被害者 4
午後七時三〇分。
本日も義人は訓練を共にしてくれなかった。が、夕餉は共に食べる。
これは彼が望んでのことではない。天馬と香澄が強引にやっていることだ。
そして本日も食事をしつつ、テレビを見る。
『本日のニュースです。まずは国内から。政治
家の失言問題と言えば、もはやこの人を置いて他に居ないでしょう。“逢魔総理”がまたもや失言を飛ばしました』
画面が切り替わり、絶世の美女が映る。
外見は香澄を大人びた姿にした感じ、といったところか。腰まで伸びた黒い艶髪と、華美な柄の入った闇色の着物。そしてカラコンでも入れているのか、真紅の瞳が印象的だ。
『総理。最近流れている噂について、何か一言お願いします』
マイクを向ける記者に対し、彼女は気だるげな顔となりながら、
『噂、というのはアレか? 私が多くの女共を囲っているレズビアン、といった内容のものか?』
肯定の意を示す記者に対し、彼女は相手を小馬鹿にするような調子で息を吐き――
次いで、記者からマイクをひったくり、堂々と喋り始めた。
『例えばだ。ぬいぐるみに名前を付け、女扱いしている変態野郎がいたとしよう。そいつは心底から物言わぬ人形に熱愛している。それはもはや禁断の愛を軽く通り越して理解不能の領域に達しているわけだが、果たして、そいつは咎められるべきだろうか? ……まぁ、答えはイエスだな。そんな変態は豚箱に入れた方がよい。しかし、この逢魔京香は別だ。なぜなら私は逢魔京香なのだからな。私が男を愛そうとも女を愛そうとも、それは私の自由だ。誰にも咎めることはできんし咎めるべきではない。なぜなら私が逢魔京香だからだ。大事なことだからもう一度言うぞ。私が! お・う・ま・きょ・う・か・だ・か・ら・だ! この国のみならず、およそ世界中の国家において同性を愛でることは禁忌とされている。だがそんなもの私には関係ない。なぜならば逢魔京香とは即ちこの世の道理だからだ。私が行うことはすべからく正義である。よって貴様等三流記者共がいかなる記事を書こうと噂を流そうと私を害することなどできはせん。そのことをウジ虫以下の脳みそによく刻み込んでおけ、この腐れハイエナ野郎共』
長々とした失言の数々を、超早口で呼吸するかの如く言い放つ総理大臣。
いつも通りの調子に、天馬は笑い声を上げた。
「ははっ、やっぱおもしれーよなー、うちのボスは」
普通の人間がやればマイナスの効果にしかならないことも、逢魔京香がやれば個性となる。
どうやら義人や彼女を好まないようだが、天馬はむしろ京香を好んでいた。
それは香澄も同じである。
「やれやれ、この人は本当に変わらんな。まぁ、傑物というのは常にこうした型破りな人間だ。当人の言う通り、咎めるべきではない」
普段なら義人は香澄の言うことを全肯定するのだが、今回は口をつぐんでいた。
一体何が気に入らないのやら。そう思いつつ食事を続けていると、ニュースが別の内容に切り替わった。
『次のニュースです。昨夜未明、相楽市内で少年五名が乱闘騒ぎで逮捕されました。取り調べによりますと、彼等は県内を中心に活動する不良グループの一員であり、最近解散したとされている広域半グレ集団“鬼滅羅”とも関係性が――』




