第一章 古き被害者と新しき被害者 3
――なんで嘘なんかついてんだ、馬鹿野郎。
苛立ちを募らせながら、天馬は義人の隣に立ち、
「お前、嫌じゃねぇのかよ」
「何が? あぁ、君と二人きりっていうこのシチュエーションはたまらなく嫌だねぇ」
「……お前、嘘ついてるだろ。本当はオレ達だけじゃなくて、皆と仲良くなりてぇんじゃねぇのか?」
「……白柳さんから聞いたのかなぁ? それなら、答えはノーだよ。僕は一人で居るのが好きなんだ。一人で相棒と罵り合ってる時間が、僕にとっては唯一幸せな――」
「本当にそうか?」
言葉を被せると、義人は声を詰まらせた。
やっぱり、そうなんじゃないか。天馬は確信を深め、
「……冷静に考えてみるとな、やっぱおかしいんだよ。あの一件が終わって数日後あたりから、お前の態度が一気に変わった。……なぁ、お前、何がしたいんだよ? オレ達を避けることで、お前は何を得てるんだ?」
その問いに対し、義人は悩むようなそぶりを見せる。
なんともじれったい。胸倉をつかんでゆすってやりたくなる。
そんな衝動に耐えていると、ようやく、白髪の少年は口を開いた。
彼が明かした内容は、天馬からしてみれば呆れたくなるようなものだった。
しかし、それと同時に、義人への好感が少しだけ高まる。
『こいつ馬鹿だよなぁ。何を悩んでんのかと思ったら』
――あぁ、マジで馬鹿だ。大馬鹿だ。こいつは。
相棒に応答すると、天馬は大きく息を吐き、
「ばっかじゃねぇの」
心底呆れたといった調子で、言葉を紡ぐ。
それから義人の隣に座り込んで、
「そんなもんお前だけのせいじゃねぇよ。責任はオレにだってある。だから……お前ばっか背負ってんじゃねぇ。オレにも半分背負わせろ。そうすりゃお前は――」
助け舟を出す。
そうすれば、彼を救えると思ったから。
しかし。
「ごめんね。それはできないよ。……僕は、自分を許せないんだ。だから、僕は幸せになんかなれやしない。なっちゃいけないんだ。……そういうわけで、僕とはあまり関わらないでくれるかな? 君達と一緒に居ると、僕は幸せになってしまうから」
思わぬ拒絶の言葉に、天馬はムカッときた。
――なんだよ馬鹿野郎。こっちがこんだけ気にかけてやってるってのに……!
イライラする。
イライラする。イライラする。
だから、天馬は言ってやった。
「……あぁ、そうかよ。なら、しょうがねぇな」
お前の頼みなんか、誰が聞いてやるか。
「今後、オレはお前が何を言おうと付きまとってやる。香澄だってそうするだろうな。オレ等はとてつもなくしつこいぜ? 覚悟しとけ」
その宣言に、義人は目を見開いて、それから、
「……本当に、やな奴だよ、君は」
顔を逸らす白髪の少年。
しかし、それは拒絶を意味する行動ではなかった。
「ありがとう、馬鹿ヒーロー」
小声で送って来たその言葉に、天馬は一息吐いて、思う。
――最初っからそう言いやがれ、バーカ。
◆◇◆




