第一章 古き被害者と新しき被害者 1
六月一四日。
本日もまさしくいつも通り。学校に赴いて学友達と笑い合い、ベヒモスが出ればヒーローとして活躍。そうして、昼を香澄やクラスの連中と食べる。
ここまでは平常運転。だが、少し前まではありえなかったことが、今はある。
ふと後列の席を見やった。その視線の先に居るのは、只野義人。
彼は本日も無表情のまま席を立ち、弁当箱を持って室外へと出ていく。
その途端、
「……よし、消えたな」
「いやぁ、あいつがいねーと空気がウマいわ」
「ほんっと、なんで学校来てんのかしらねあいつ。不良なんだからさっさと退学すればいいのに」
「誰も引き止めねーのになー。むしろ出てってくれ」
これもまたいつも通りの光景。
義人が去った後、クラスメイトは皆彼の陰口を言う。それについて、今まで天馬は何も言わなかった。ヒーローらしさを貫くという信念を守るなら、クラスメイトに苦言を呈さねばならぬというのに。結局いつも、憎悪に負けていたのだ。奴は仇の息子。その情報が天馬の心をブレさせてしまう。
普段であれば、あまりに行き過ぎた誹謗中傷が飛ぶようになると香澄がそれを止めていた。
だが。
「なぁ、お前等さ、あいつのこと不良って言うけど……あいつがしてること、ちゃんと考えてんの?」
今回は、香澄よりも先に天馬の方が口を開いていた。そのことについて、相棒たるフェアリー、ヴァルガスが心中にて「マジで成長してんなぁ、お前」と嬉しそうに零す。
それに妙な面映ゆさを感じつつ、天馬は静まり返った学友達の顔を見回した。
何を言ってるんだ、と、彼等は顔で語っている。
当人に自覚はないが――神代天馬というのは、クラスメイト、いや、学校に在籍する全ての人間にとって世界の中心そのものだ。それゆえ、彼は香澄と並び皆の偶像でもある。
そんな存在が、自分達の意に反することを述べた。いや、正確に言えば――
自分達が、彼の意に反した。
これは信者にとりショッキングな出来事であろう。とはいえ、それを慮れるほど、天馬は自身に正当な評価を下していない。
そのため、なぜ皆が黙りこくっているのか理解できなかった。
だから、一方的に喋ることとする。
「オレもさ、偉そうなことは言えねぇよ。お前等以上にひっでぇこと言ったしな。けど……もう、やめたんだ。あいつのことを憎く思うのは。……なぁ、お前等はさ、あいつのことをどこまで理解してんだ? 噂とか見た目とかで判断してるだけだろ? ホントのあいつがどういう奴なのか知ったら、多分今までの自分を恥じることになるぜ」
喋る前は、さっさと終わらせようと思っていた。
しかし、ダメだ。口が止まらない。
「あいつはさ、馬鹿みたいに努力家で、だからか、想像できねぇぐらい強くて……でも、完全無欠なんかじゃねぇんだ。弱っちぃところもある。その部分が、あいつを苦しませた、いや、今でも苦しんでるのかもしれねぇな。……あいつはさ、誰かを守るために必死なんだよ。その誰かには、お前等だって含まれてる。普段自分を蔑んでるような奴等だって、あいつはきっと命がけで助けるんじゃなぇかな。そういう、似合わねぇお人好しな部分とか、あと色んなもん全部ひっくるめて……まぁ、嫌いじゃねぇ」
言い終えると、天馬は一息ついて栗色の髪を掻き、
「だから――お前等、あいつの悪口なんざ二度と言うんじゃねぇ」




