プロローグ二 紅き苦悩
六月一四日。午前一〇時三五分。
本日も、少年、神代天馬は普段と変わらぬ日常を送っていた。
朝起きて、学校に赴き、ベヒモスが出現したので討伐へ。
そして、いつものように友人の芝居を眺める。
今回の相手は全てが下位であったため、カラーズ・ファーストステージとして応戦。左手に真紅の直刀が出現し、片方の手甲に刻印が洗われる。
あとはもう、作業だった。セカンドという、カラーズとして最高レベルに到達した彼にとり、下位との戦闘は単純作業に等しい。それは長年相方として過ごした幼馴染、白柳香澄も同様である。
彼も彼女も、このうえない余裕があり――それゆえ、視線が友人のところへと移りがちだ。
――何やってんだよ、まったく。
相手方の様子を見て、憮然とする天馬。
友人、只野義人は本日もまともな戦いを行わず、芝居としかいえぬ行動をとっていた。
本来の姿、漆黒の鎧には変身せず、両腕にガントレットを顕現させ、ただ敵の攻撃を回避し逃げ回るのみ。
無様だ。ハッキリ言って、本当に無様だ。
これでは、何も知らぬ第三者はこう思うだろう。
三下が天馬・香澄の足を引っ張っている、と。
――なんで、んなことしてんだよ、お前。
美貌に怪訝と苛立ちを宿らせる。
理解し難かった。なにゆえ、自分を貶めるような選択をするのか。そして――
なにゆえ、彼は自ら孤独に陥ろうとするのか。
少し前、上位ベヒモスを討伐して以降、わだかまりは完全とは言えぬまでも、消滅している。そうだからこそ、天馬は今まで憎いとしか思えなかった義人のことを慮ることができるようになった。
それゆえ、只野義人という少年を哀れに思い、自分と同じ、悲劇の中心人物と判断したがために。また、その実力と信念を認めたがために。
神代天馬は、彼と友好関係を結んでもいいと、そう考えている。
だが、そんな誘いを義人は拒んだ。
――意味わかんねぇ。あぁもう、マジで意味わかんねぇ。
苛立ちが募っていく。
これは、義人のせいだろうか。彼だけのせいだろうか。
否。その要因の半分は、周囲を埋め尽くす化物の群れ。
ベヒモス。両親を殺した人外共。
こいつらを見るだけで、天馬の心は次第に黒く染まっていく。
少し前までは、それも仕方ないと思っていた。これは抗えぬ衝動なのだと。
だが、今は違う。義人を取り巻くあの一件以来、天馬はこのまっ黒な感情を強く否定し続けている。
とはいえ、そうはいっても不快感がどうこうなるわけでもない。
義人のこと。自分のこと。
主人公の苦悩は、中々解決しそうになかった。




