第六章 エンドロール 7
仕掛けてくる。
そう確信した途端、義人は脊髄反射的に、掌から血色の奔流を放っていた。
先手を取らせない。それは格闘者としての性から来た行動。
だが、クリスは殺到する熱線を、難なく躱して見せた。その動作だけで、少年は確信する。
――こいつの基礎スペックは、僕の第二段階に匹敵する……!
そう結論づけたと同時に、敵方から返礼が送られてきた。
双銃の口が煌き、超高熱を発射する。
迫る闇色の球体。その速度は言うまでもなく凄まじいい。なれど、回避は可能だ。
横へ跳び、避ける。しかし。
「――――――ッ!」
着地と同時に、激痛。その原因は、敵方の弾丸。
確かに、彼は正面からきた熱弾を回避した。が、それはどうやら布石であったらしい。
最初に撃ったものをあえて避けさせ、狙った場所へ移動させる。その途端、捨て弾の直後発射した本命弾が命中。と、そうした狙いにまんまと引っかかってしまった。
『相当な小賢しさを誇っていそうですねぇ。もしかすると、あなた以上もありえそうです。いやはや、まさかあなたよりも性格の悪い奴がいようとは。びっくりびっくり』
相棒の声を聞き流しながら、義人は決断を下した。
スペック差がある以上、まともにやっても勝てない。ゆえに、リスクを背負う。
第二段階への変身。それを決定した直後、彼のボディに変化が現れた。
頭部から三本の角が伸び、各部位に棘が生える。人外じみた姿へと変貌して以降、破壊衝動が声となって、脳内に木霊す。
だが、それを完全に捻じ伏せ、義人は両掌に黒剣を握った。
「へぇ。どうやら、結構使いこなせてるみたいだねぇ。けどまぁ、今のまんまじゃまだまだお話になんないけど」
意味深なことを言いながら、射撃してくるクリス。
二丁拳銃が弾丸を連射。しかし、飛来する無数の黒弾は、今の少年にとってなんら脅威ではなかった。
遅い。全てが致命的なまでに遅い。
ゆえに切断は容易。漆黒の鎧は止まったも同然の弾丸を黒剣にて無力化しつつ、敵方へと接近する。
ただ動くだけでソニックムーブが発生し、周辺環境に被害を与える。まさに天災そのものとなった彼は、なんの問題もなくクリスを刃圏に捉えると、
「まずは腕を貰うよ」
容赦なく二刀を振るい、銃器を構えた敵の腕二本を両断した。
だが。
「あひゃひゃひゃ。ざーんねーん」
小馬鹿にしたような声を響かせた直後、目前の悪魔じみた鎧が、その姿を消失させる。
これは何事か。と、そう思った瞬間、背に衝撃。
背後を向くと、大分離れた場所にて、五体満足のクリスが双銃を構え、こちらを見据えていた。
「分身、だったのか」
「そのとーりー。ちなみに、このボクも分身かもしれないよー?」
言いつつ、奴はふわりと宙へ浮いた。決戦の場を空中へと移すつもりなのだろう。
望むところ。と、そう意気込んで、義人もまた天空目指して推進する。
そして、人外同士の壮絶な闘争が幕を開けた。
相手の“防壁展開”を“破壊”で粉砕し、切りかかる。なれどそれは読まれていたらしく、おそらくは“超反応”の力で以て回避された。
剣閃が生み出した斬空波が直線の軌道を描いて進み、遠く離れたビル群を根こそぎ両断していく。
その光景に興味を持つことなく、義人は宙空にて間合いを空けたクリスに、“自然発火”を使用。だが、奴は“威力吸収”でもって攻撃を封じて来た。
どうやら攻撃無効化系統の力も有しているらしい。なれど、それはこちらも同じ。ゆえに、打ち破る術も持っている。
続いて、敵が行動するよりも前に“創造”を使用し反物質を創る。それに対し“問答無用”の効果を持たせ、攻撃無効化系統能力を無効化する攻撃として、射出。
なれど地表目掛けて発射されたそれは、“瞬間移動”によって回避された。
結果として反物質の塊は怪獣へ直撃。その体表に数キロレベルの風穴を開ける。このダメージは堪えたか、遠方より悲痛な咆哮が轟く。さりとて、二体の黒き鎧は微塵も気にしない。
以降、それぞれが己の力を披露し続けた。
「熱源操作」「破壊」「電気操作」「熱操作」「自然発火」「大気操作」「水源操作」「水素操作」「光線射出」「引力操作」「斥力操作」「切断力操作」「破砕力操作」「毒操作」「問答無用」「分子運動制御」「加速度操作」「砂状化」「磁力操作」「気温操作」「演出効果」「召喚」「物質溶解」「酸作成」「電離気体発生」「衝撃操作」「電磁場操作」「真空波放出」「音響操作」「音波操作」「寄生」「防壁展開」「肉体硬化」「衝撃吸収」「熱吸収」「硬度操作」「反射」「存在遮断」「進行方向操作」「超反応」「威力消去」「自動防御」「存在感消去」「身体能力強化」「神経系強化」「視神経強化」「聴覚強化」「視覚強化」「嗅覚強化」「肉体変形」「脚力強化」「腕力強化」「視力強化」「感覚強化」「肉体再生」「分裂」「創造」「推進力上昇」「重力操作」「念動力」「支配」「天候操作」「確率操作」「変化」「第六感強化」「治癒」「瞬間移動」「透視」「細菌操作」「分子操作」「原子操作」「封印」「洗脳」「精神操作」「身痛残留」「法則変化」「未来予知」「運気操作」「感覚逆転」「念話」「幻覚」「心眼」「物体固定」「重量操作」「物体変化」「鉄分操作」「不幸散布」「絶対操作」「融合」「気圧操作」「光学誘導」「軌道操作」「光操作」
「因果逆転」「意識共有」「模造品生成」「体感速度変更」「相転移」
まさに能力の博覧会。
光速の世界の中で、無数の異能が応酬される。その度に大気が震撼し、轟音が轟く。
おそらく今、星全域に影響が表れていることだろう。特定地域には津波が襲っているかもしれない。また別の地域では、大地震が起こっているかもしれない。
二体の怪物が演ずる闘争は、それほどに凄まじい。そのことについて、義人には自覚があった。
――このままじゃ、どこでどれだけの被害が広がるやらわかったもんじゃない。だから、さっさと終わらせなきゃいけないのに……!
残念ながら、現状、それは難しかった。
敵方、クリス・ミカエルは強い。その実力は並大抵ではなく、下手をすると――
――生まれて、初めてだ。自分より強い人間と、出会ったのは。
焦燥を感じる。敗北の気配を察する。それほどに、奴の戦力は凄まじい。
もし、単純に能力が高いだけならば問題はなかった。だが、実際は真逆。奴のスペックは、第二形態となった自分よりも低い。所持する異能数についても、おそらくこちらが上回っている。
なのに、勝ち目が見えない。その理由は、能力の使い手たる彼我の実力に差があるからだ。
闘争というものは、実行者のレベルによってその意味合いを大きく変える。
低級な者達からすれば、単純な格闘でしかない。だが、達人に至るほどの者からすれば、闘いとはチェスの如き頭脳戦となる。
相手が次手に何を繰り出すか。その次にどう動くか。こうした読み合いの果てに、結末がやって来る。
そして現在、読み合いを制しているのはクリスであった。
こちらの行動を全て読まれ、対応されてしまう。そのため一方的に攻撃を受けるのみで、こちらは以前として一度もダメージを与えられていない。




