第六章 エンドロール 6
――無傷、か。なんとも腹立たしい防御力だな。
『まぁ、あちらもあなたと全く同じ力を持っていますからねぇ。……いえ、もしかすると、同じようで違う力、かもしれませんが』
――どういうこと?
『単なる勘ですが、奴は妙に別物の感があるのですよ』
――もし奴がブラックでないとしたなら……一体、なんだっていうのさ?
『そこらへんはわたしにもわかりません。しかし一つ言えることは……神が我々に情報を隠している、ということは十分にあり得ます。今判明しているものが全てではありません。奴があなたとは違う、新種のブラックであっても、さほど驚くようなことではない、ということです』
イヴの言葉に、義人はやれやれといった風に首を横に振る。
同時に、対面のまっ黒な球状壁が崩壊し、クリスが姿を現す。
「おやおや、ずいぶんと派手にぶっ壊したねぇ。設計するのに苦労したんだけどなぁ。特にこのエリアとか、建物の配置に小一時間ぐらい悩んだんだよ? まぁ、ボクじゃなくて萌香ちゃんが、だけど! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
狂ったように笑い、白髪ツインテを揺らす。
そんな彼女に、義人は鋭い声を投げた。
「君は何者で、何を目的にしてるのか、答えてもらおうか」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
『答える気皆無ですねぇ。こいつ』
「うん、よく理解できた。だから――力ずくで、答えてもらおうか」
血色の眼光を一際強く輝かせ、漆黒の鎧は眼前の敵を睨み据えた。
戦闘開始。
それを悟ったか、クリスは薄ら笑いに邪悪な色を混ぜ、
「バトル展開とか台本にはなかったんだけどなぁ。ま。アドリブも大事だよね。たまには」
そして。
「君の暴力を試してあげるよ。どこまでできるか、教えてもらおうか」
纏う空気が、一変した。
それと同時に、変身が始まる。
クリスの総身を闇色のベールが覆い、次の瞬間、それが弾け飛ぶように消失。
現れ出でたのは、道化のような、悪魔のような鎧。
体長は二メートル半前後。シルエットは細身。全体的に鋭角な印象を受ける。
中でもとりわけ特徴的なのは、やはり頭部であろう。
耳まで裂けた口が、おぞましい笑みを作っている。だが、目は憎しみに満ち満ちた鋭さを持つ。
両側頭部から伸びる長い角は、捻じくれながら下方へと落ちており、それが悪魔じみた印象をことさら強めている。
体色は黒を基調に、各関節部や眼などは蒼く輝いている。
――こいつが僕と同じってことは予想通りだけど……何か、引っかかるな。本当に、こいつはブラックなのか? それとも……。
『考える時間は、もう与えてくれそうにありませんよ。集中しなさい。奴は割と、やばい相手かもしれません』
無機質な音色に警戒心が混ざっていた。それを受け、漆黒の鎧は精神を完全に戦闘態勢へと戻した。
刹那、敵方の両手元に巨大な銃器が顕現。砲身が二メートル近くありそうな闇色のそれを、奴は二丁拳銃として握りしめながら、
「そんじゃ、アクションシーンスタート」




