プロローグ一 僕が主人公を目指す理由(わけ)
主人公。それは、物語の世界における中心人物を指す単語。
創作物を好む人間なら、きっと誰にだって憧れの主人公がいると思う。けれど、それはあくまでも憧憬でしかない。真剣にそうなろうとする奴がいたなら、そいつは確実に頭のおかしな人間だ。
そんなわけで、僕はおかしな人間そのものということになる。
きっと生まれたときにネジが一〇〇本ぐらい抜け落ちたんだろう。
僕は主人公になりたい。
なぜなら、主人公って奴は他人と自分両方を救える存在だから。
僕は物心ついた頃から一人ぼっちだった。両親は既にあの世。写真を残さない人達だったから顔もわからない。
といって、彼等のことを気にしたことはなかった。
生まれた時点で親がいなかったのだから、それが僕にとっては自然なことで、だから、他人と違うということによって嫌な気分になったことはない。
でも――
寂寥感は、耐え難かった。
育ててくれる人はいる。でも、真の愛情は得られない。だから僕はいつも寂しくて、いつも哀しかった。
そんな日々を過ごす中で、僕は一冊の漫画に出会う。
そのタイトルは、“NIGHT・騎士”。
うん、正直ダサい。
内容もそんなに良くはなかった。主人公が皆に持ち上げられ、ご都合主義満載で、あらゆるキャラが主人公のために存在するような、三流作品だ。
それなのに、僕はこの作品に感銘を受けた。
強きを挫き、弱きを助け、それで皆を幸せにして、自分も幸せになる。そんな主人公の姿に自分を重ねて、僕もこうなりたいと思った。
主人公になりたいと、心底から思った。
それから僕は努力を始める。
主人公になるためになんでもした。主人公らしいことはなんだってやった。全ては“皆を幸せにして、その結果、自分も幸せになる”ために。
そう、過去の僕は、本当に“それだけ”だったんだ。