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非常に長く険しい序章 2

目が覚めたら、森の中だった。

でも、日本の森という気がしない。鬱蒼として、暗い。何となく、森全体が俺、いや人間を拒んでいるような雰囲気を感じていた。


「日本じゃないよな……いやいや」


俺は漫画喫茶にいたはず。外に出た記憶もないし、近くに森はない。おいおいおい。夢遊病にでもなったのか? でも、今までそんな兆候はなかったよな。仕事をさぼって漫画喫茶に行ったときに、たまたま表れたなんておかしいだろ? それとも、仕事をさぼったから、罰が当たった?


「いや、俺、善人だし。少なくとも、この三日間は」


でも、待てよ。

意識がなくなる前、モニターが光って、変な声が聞こえてきたよな。あの声が、俺をここに飛ばしたのか? てことは、あの声は神? あのノリが軽くて仕事できなそうな声が、神の声?


「まさかなー」


まったく。分からないことばかりだ。

そして、とりあえず困ったことに、この森には道がない。けもの道でさえ見当たらなかった。


「本当に、俺は一体、どこにいるんだー?」


叫んでみたけど、こだますらない。木々に声が吸収されていく。


「だーだーだー」


自分で叫んでも、むなしい。

まあ、ここにいてもしょうがないので、とりあえず勘で歩き始めた。

歩いても歩いても、森の中。歩いても歩いても、景色が変わらない。つまらん……。

そういえば、携帯電話がなくなっていた。おまけに着ていた服も違う。コ○カのバーゲンで買ったスーツはどこへやら、気づけば白くてごわごわした服を着ている。粗末っちゃ粗末なんだが、なんというか……中世ヨーロッパっぽい。まあ、よくは分からない。地理受験だし。

白い服は、俺が森を歩くにつれて、どんどん汚れていった。木や草や地面までもが、俺の邪魔をするようだった。葉がこすれたらしく、腕には薄い切り傷が大量についていた。転んだときに、足を軽くくじいている。最悪だ。

これで森から脱出できなかったら、どうしよう。

嫌な予感がしてくるぜ。


――!


そういえば、何か聞こえる。がさごそ。がさごそ。何かがかきわけて進む音。どんどん近づいてくる。敵か味方か! ……って、俺に味方はいないか。手には何も持っていない。枝でも折って武器にしようかとも思ったが、下手に音を出したくない。俺は忍び足で横に移動する。これで、相手がまっすぐ進んでいるのなら、出会うことなくすれ違うだけだ。

しかし、俺の考えは甘かった。

やっぱり。言葉にすれば、そんな気分だ。なんとなく、相手は俺に向かってきているような気がしていた。今、それが確認に変わる。


「ひえっ!」


小さく声が出る。全身の毛が逆立った。背中がちくちくする。

鼻息が聞こえた。

ふしゅるーふしゅるー。

人間じゃねえな。獣。いのしし? 鹿? 熊? 人間一人じゃ食物連鎖の一部に組み込まれちまう。やべっ。


決めた。


「わーーーーーっ」

音のするほうに大声を出しながら走った。

虎穴にいらずんば虎子を得ず。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや。勧学院の雀は蒙求を囀る。やってやれないことはない。隙を見せなきゃ勝ち目はあるはずだっ!

「わーーーーーっ」

でも、相手の姿を見たとき、俺は先ほどとは違う悲鳴を上げた。

人間じゃなければ、獣でさえなかった。


ふしゅるーふしゅるー。


そいつは、人間のように二本足で立っている。だが、背丈は俺の胸くらいしかない。髪はなくて、耳はとがっている。目つきは悪い。鼻息だと思っていたのは、いやらしくあいた口から出ているものだった。布をつなぎあわせたような服を着て、石の斧を持っている。


ゴブリン。


そうだ。ゴブリンだ。ゲームに出てきたそれとそっくりだ。

マジかよ。

ここ、ファンタジーな世界なのかよ。


「どうしてここが、俺の生きるべき世界なんだよ!」


あの分けのわからん、ノリだけが軽い声に対し、今さらながら怒りが湧いてきた。


「いgすあひおshぢswhづwhづいwshぢsjぢsjぢs」


目の前のゴブリンが何か言っている。

でも、分からない。つーか、分かるわけがない。俺、日本人だし。ちくしょう。違う世界にいるんだと分かった瞬間、愛国心が生まれてきたぜ。「君が代」でも歌ったら、帰ってくれるかな。そんなわけないよな。

俺に向かってきたこと、斧を構えていること、口の端からよだれを垂れ流していることを見れば、俺はゴブリンの狩りの対象になっているのは間違いない。


……。

…………。


あれ? 俺、死ぬんじゃね?

序章、本当に長いです。

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