勇者が覚えた開放感
お題は『開放感』でした
異世界に召喚された。なんという開放感だろうか。
何事かと訊ねれば、彼らは魔物によって苦しめられているのだという。
人類に害なす不可思議な生き物、魔物。それは、ありとあらゆるもの――人間すらもを食らい尽くしあとには何も残さない、まさしく理解の外にあるバケモノだった。
このままであれば、遠からぬうちに人類は食らい尽くされてしまう。
「そんなことを許すわけにはいかない!」
俺は立ち上がった。
俺が最後の希望だという王。無理難題を押し付けたことを泣いてわびる王女。期待と申し訳なさを顔に貼り付けた市民。
だが、俺はそんなへなへなになって、つぶれた顔なんて見たくもない。
「気にしなくていい。これは俺がやりたいからやることだ!」
俺は心のうちにあるままを叫び、魔物を倒すための旅に出た。
使い慣れぬ魔法にはてこずったが、刃物の扱いは慣れたもの。魚をさばくようにすれば魔物が相手でも楽に倒せることを学んだ。
「――あたしはあんたに背中を預けたんだ。返してもらうなら利息をもらわにゃやってられんよ」
最初に仲間になったのは、女ながら傭兵として名の知れた人物だった。
魔物の討伐では、運悪く取り残され、たった二人で掃討戦を潜り抜けた。
「――まったくいやですわ。脳筋は品がないと思いませんこと? 勇者様」
次に仲間になったのは、魔法学者を名乗る妖艶な美女だった。
魔力が尽きて魔物に襲われそうになっていたところを、俺が通りかかったのだ。
「――神は私たちの行いを常に見ておられます。ですから……ですから、勇者様にしだれかかるのをよしなさい!」
最後に仲間になったのは、見習い僧侶だった。
俺たちの戦いぶりを聞きつけて、はせ参じたのだという女偉丈夫だ。
「すべては魔王が現れたためだったのか」
数々の困難を潜り抜け、見つけ出した真実。
諸悪の根源は魔王と呼ばれる魔物の親玉だった。
更なる苦境の連続。
しかし、俺はあきらめなかった。
そして、魔王はついに倒された。
誰も彼もが俺を褒め称えた。
凱旋すれば、人々には笑顔が戻っていた。
「よくぞ帰って参った、勇者よ。望みのものがあれば何なりと言うがいい。用意しようではないか」
王は上機嫌に俺を出迎えた。
そんな顔をされると俺もうれしくなる。
「いいえ、王よ。俺はやりたいことをやっただけです。何かをもらおうなどとは思いません」
そうだとも。
――その笑顔を俺の手でぶち壊すから面白いというのに。
「刑の執行前に召喚してくださって、本当にありがとうございました」
俺は、使い慣れた刃物を手に、ゆっくりと玉座へ歩みだした……。
その7