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第2話 奇跡の雪


 森の中。

 さっきまでいた街で会った人に仕事の依頼を出されて今ここにいる。


「まだ着かないのか?」

 嫌になってきた。


 そんなときに、一瞬何かが目の前を通った気がした。


 否、通った気がしたんじゃない。通ったんだ。


 数メートル先に獣の姿が確認出来る。


 慎重に獣の方へと歩み寄った。


 獣は動かない。


 更に近付いた。


 ……あれは……狐?


 足に包帯をしている。

 怪我をしているのだろうか……


 俺はしゃがんで狐を見た。意味はないが、話しかけてみることにした。


「怪我してるのか?」

『いいや。“してた”だ』

 ありゃ。訂正が入った。


 ……?……?

 ………!


 いやいやいやいや!

 今、狐喋らなかったか?

 狐は人間の言葉を駆使出来ない生き物だよな?

 ……俺はもちろん動物と話すなんていう、とんでもない能力は持ってない!

 俺は新しい能力を手に入れたのか?


 やばい。なに考えてるんだかさっぱり分からなくなってきた。

 って! 混乱しすぎだろ!


『おい! 聞いてんのか?』

 また狐の、まだ子供の男の子のような声がした。


「あ、うん。聞いてる聞いてる」

『……お前今適当に返事しただろ?』


「……うん」

『ああっ! もう! 本当にこいつがあの有名な郵便屋なのか? もういいや!』

「有名かどうかは知らないけど郵便屋だよ」

『本題に入る!』

「本題?」

『とにかく、こっちへ来い!』


 そう言って狐はしゃがんでいた所為で地面についていたカバンを銜えて引っ張った。

「ちょ、ちょっと! 引っ張るな! カバンが……!」

 狐は急に口をカバンから放した。

『だったらさっさとついて来い!』


 そう言って森の繁みに入っていった。


 俺は必死に追いかけた。


 しばらく追いかけて、気付いたら拓けた場所に出ていた。


 ふと、前を見ると狐の姿はどこにもなく、そのかわりにほんの10センチぐらいの小さな小さな男の子がいた。


「妖精か……?」

『ああ、そうだ。この世界には2種類のものがある。1つは、魔力や……とにかく不思議な力を持つもの。もう1つはそうでないもの。

不思議な力を持たないもの達は、不思議な力の存在を知らない。』

 一息ついて彼は、

『お前も、不思議な力を持つものに入るだろ? たとえお前が何ものであったとしても』

「……。」

『そんなことはどうでもいいや。届けて欲しいものがあるんだ!』

「何を届けたいの?」

『雪……だ』

 彼は少しトーンを落として言った。


『俺……助けられたんだ。ある人間に。

助けてくれたやつが雪を見たことがないって言ってた。雪を見てみたいって言ってた。

俺……一応だけど雪の妖精だから……見せてやりたかった』

「……」

『暖かいところなんだ。だから、あいついつか旅に出てやるって言ってた』

「その仕事は引き受けることが出来ないよ」

『なんでだよ!! なんでっ……!』


 小さな彼はどんどん元気がなくなっていき、もともと小さいのに更に小さく見えた。


 彼は泣きそうな顔をしていた。


「残念だけど、俺は雪を降らすことは出来ないんだ」

『……』

「でも……君を連れて行って、手伝うことは出来る」

『っ……!! 本当か?』


 急に元気を取り戻したようだ。


「ああ。本当だ。手伝ってやるよ!」

『あ……、ありがとう!』


「じゃあ、早速行こうか?」

『え……?』

「ほら。さっさと行くぞ!」


 初めてこの小さな彼と(否、あのときは狐だったか……)立場が逆転しているようだった。


◆◇◆◇


 日陰だっていうのに……

 暑っ!

 少なくとも30℃あるじゃねえか!!



『確か……あいつの家は、あっちだったと思う。』


 雪の妖精が陽がばんばんに照り付ける中、カバンの中から俺にだけ聞こえるような小さな声で日陰のない所を指示した。


 俺はこんな暑さに強い訳ではもちろんない。

 暖かいと言われて、ここまで暑いとは思わなかったのだ。


「確かってなんだよ。しかも、全然日陰ないし……。」


 俺はぶちぶち言いながらも、従うしかなかった。




 真っ暗になる頃、ようやく目的地に辿り着いた。

 雪の妖精を助けたという者の家だ。


 計画は今晩実行することになった。

 気温を下げることもやはり俺には無理だった。

 だから、そこは知り合いに力を貸してもらった。

 あいつには感謝してばっかだな……。

 また貸しを作ったことを少し後悔した。



 そして……。実行に移った。雪の妖精は満身創痍で宙を駆けた。


 すると、不思議と雪が降り始めた。


 妖精は空を駆け続け、雪は降り続け、そして積もる。


 明け方には、ふわふわの雪があたり一面に広がっていた。


◇◆◇◆


 このあたりに住む人々にとって、こんなに寒くなったのは初めての経験だろう。


 そのうえ、“雪”というものを初めて見たのだろう。


 雪が積もった日の朝。

 街中の人々が、外に出て、この雪という不思議な存在に魅入った。


 そして、雪の妖精を助けたという人間も同じように喜んだ。


◇◆◇◆


「気が済んだか?」

『うん。ありがとう』

「結局俺は何も出来なかったけどな」

 俺は軽く笑った。

『でも、やっぱりあんたに会わなかったら何も出来なかったんだ。だから、そういうこと言うな!』

 励ましてくれている……のだろうか。


「うん。じゃあ、そろそろ行くから!」

 雪の妖精に向かって軽く手を振った。


 妖精は満面の笑みを浮かべて、答えてくれた。



 その後数日間あの街は白さを保ち続け、街の人々は騒ぎ続けた……。




◇第2話完◇

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