いち
ただ振り上げたハンマーを振り下ろす。
ハンマーが振り下ろされたのは真っ赤な金属。
高温で容易に曲がるそれにハンマーで命を注ぎ込む。
姿勢を崩さずに同じペースでその動作を繰り返す。
一回二回、十回、二十回、百回、・・・
回数は問題じゃない。自分の勘が告げる最適のところ。
そこで動きを止める。
まだ赤く熱を放っている金属が喜び震えるように光を放った。
確かにこの鉄に命が宿った手ごたえを覚える。
打ち終わった鉄を水につける。
とりあえず一仕事終了だ。
魔物ひしめく山に俺は住んでいる。
赤ん坊の俺は山の麓に捨てられていたと聞いた。
強い魔物たちが住み着いている山、そこに捨てられた俺は実質殺されたのと同じだったのだろう。
しかし、この山には変わった爺さんが住んでいた。
強大な力を持った魔物たちを物ともせず、山の頂点近くに居を構えている変態。
様々な知識を持ち、実力があった爺さんは色々求められた。そのせいで人が嫌いになった。
人付き合いが苦手で人のいないところを探して行き着いたのがここらしい。
この変態はさすがに赤ん坊を見捨てるほどの人嫌いではなかったらしく、魔物に食われる前に保護してくれた。それからは多すぎるほどの愛情をもらった。
健やかに育った俺はもちろんその爺さんが大好きになった。
何をするにも爺さんの後ろをついていき、何でも真似をした。
そんな俺を見て嬉しそうに細める目が暖かかったのを覚えている。
幸せな生活を続け俺が10歳のころ、爺さんが倒れた。
爺さんはすでに自分の死期がわかっていたようだ。
それから数日のうちに最低限必要なことを教えてくれた。
そして倒れてから10日目、俺の目の前で微笑みながら逝ってしまった。
俺も涙は流さなかった。
爺さんと育ったこの家と山を離れられなくてそれから4年間、ずっとここに住んでいる。
爺さんが鍛えてくれたおかげで魔物は怖くともなんともない。
爺さんが教えてくれたのは主に戦い方と武器作りだ。
武器作りの材料はなんとこの山で全て手に入る。
武器作りは俺が一番好きなことだ。
完成図を頭の中で思い浮かべるのは楽しいし、作っている間の無心は心地いい。
爺さんは最期の時に外の世界に出て人生を楽しめと言ってくれたが、もう少し武器作りを極めてから、
と思っているうちにきっかけもなくて、未だに出発できないでいる。
自分の武器作りの腕がどんなもんか外の世界に出て比べてみたいと思ったことも数回じゃない。
それでも、現状維持のまま、ここに俺は一人で住んでいる。
今は武器作りのための材料をそろえるため、山を回っている。
この山は高さごとに作りが変わっていて、一番上は俺の家、その下に森、その下に巨大な城があり、
その下が雪山、その下が岩石地帯、その下が溶岩地帯となっている。
俺は生まれてからこの山からでていないけど、他の山ってこんなんじゃないのかな?
爺さんが言ってたな、ここはラストダンジョンとかなんとか。なんじゃそりゃ。
とりあえず一番遠くから集めていくのがらくだから、はじめに溶岩地帯での採掘になる。
ここではでっかい赤い球が拾える。武器作り以外の用途がわからん。
溶岩に落ちないようにだけ注意して拾っていく。
なんか大きくて黒いトカゲが火を吹いてきて邪魔くさいからボコって黙らせる。静かにしてろ爬虫類。
次に岩石地帯に移動。
この岩石地帯は色々とれる。今日の目的は岩石の中に埋まっている鉱物。
いちいち掘るのはめんどくさいのでこの辺に生息する魔物を利用して採掘する。
動く巨大な岩の塊、爺さんはゴーレムとか言ってたっけ。
それが腕?を振り上げ振り下ろしてくるのにあわせて横にずれる。
ズッゴォォン!という音がして岩石の地面が掘り起こされる。お、目的のもの発見。
目的は果たされたのでゴーレムの体を動かしているコアを探し、投げナイフで壊す。
一番大きなゴーレムを倒せば周りにいるちっこいのは静かになるので楽だ。
岩の下に埋まったナイフは使い捨てだから拾わなくていい。さぁ次は雪山地帯だ。
ここには溶岩地帯の球と対になるような球が拾える。
この地帯には綺麗なお姉さんがいることも重要だ。
爺ちゃんによくつれてきてもらってかわいがってもらった。
大体この辺にいるんだけど・・・。あっ、いた!
「お姉ちゃん、球貯まってる?」
『 はい たくさん あるわ どうぞ それと さいきん どう ? 』
この白く透き通った肌に綺麗な銀髪を腰まで伸ばしたお姉さんはせーれい?とかなんとか。
この雪降る地で薄い服しか羽織っていない。爺さんはエロティックでグッドとか言ってたけど意味は知らない。
しゃべるときになんか頭に直接話しかけてくる。
姉ちゃんには蒼い球を集めてもらってる。俺はそのお礼にご飯をご馳走したりする。今日もご馳走しよう。
「ありがとう!調子は絶好調。今日はお姉ちゃんの好きなもの作るよ。何食べたい?」
『 あれ たべたいわ あの からいやつ よろしくね あとで むかえにきて 』
「OK-!でも、あれ食べてるときなんか溶けてたけど大丈夫?」
『 だいじょうぶよ もんだい ないわ 』
姉ちゃんに手を振って上に向う。
次は城だ。中には人型の魔物がたくさんでる。
知能もあるらしく、爺さんに散々ぼこぼこにされた彼らは俺にも手を出さない。
挨拶くらいはする関係だ。
っと、前に大きな背中が見えた。
「おーい!ケーちゃん!元気?」
『おお、セルちゃんちゃーっす。元気元気、また武器集めしてんの?』
ケーちゃんこと黒鎧騎士団長ケーディナス・オル・ヴィンセント。
2メートルを超える身長に、重くて頑丈な鎧を纏いながら巨大な剣を振るえる筋力をもっている。
ケーちゃんセルちゃんと呼び合う仲だ。
「そうそう、また剣作ろうか?
それと今日はまたあの辛いやつするけど家くる?もちろん姉さんもくるよ」
『おぉ!いくいく。武器は前のあれがよかったからしばらくいいわ。で、今日は何いるの?』
「えっとね、いい鉱物なんか入ってない?」
『あるよー。なんか海の底で発掘されたってやつが今週献上された』
「おっ、それ頂戴。後で家に持ってきてよ。じゃ、姫さんと王様にもよろしく」
『了解ー。じゃあまた夜に』
ケーちゃんと別れて森に行く。
ここでは食材を集めていく。
生えている赤い実を集めて、動物も少し狩る。
野菜は家にあるから、こんなもんか。
家に帰って集まったものを工房に置く。
居住空間に戻って料理の仕込をはじめる。
前に赤い実を潰して鍋のベースにしてみると、辛いけど美味しいのができた。
姉ちゃんにもケーちゃんにも好評だったから、またすると約束してたんだ。
鼻歌を歌いながら仕込みを続けた。
仕込が終わった後、工房を整理した。
武器作りの準備を終わって作るのは明日だから今日は終わり。
そろそろいい時間になったから姉ちゃん迎えにいかないと。
雪山を目指して走り出した。
雪山につくと大きな音が聞こえた。ん?姉ちゃん暴れてんの?
さっき姉ちゃんがいたところに行くと武装した4人組が姉ちゃんに攻撃してる。
金色の鎧と光る剣を携えた男が一番前に立ち、筋骨隆々の男(上半身裸)がその横に立つ。
後ろには杖を持った二人の女性。綺麗な黒く長い髪の女性は胸が大きい。
もう一人は金髪を左右で二つに結っている子供。
その金髪の子が杖の先から炎を出して姉ちゃんに向ける。
が俺と二人で魔法の研究をしている姉ちゃんの魔法の腕は研究を始める前の軽く数倍。
向ってきた炎を『凍らせる』。
姉ちゃんの氷魔法に凍らせられないものは存在しない。
それを見た金髪の子は躍起になって魔法を放つが全て氷像に変えられていく。
前の二人も動き出した。
互いの攻撃がぶつからないように動きながら姉ちゃんに攻撃をしようとする。
が間に巨大な氷の壁がせり出し、姉ちゃん自体には攻撃できていない。
黒い髪の女性は支援系魔法主体らしく、前の二人にエンチャントをかけることしかできていない。
これは姉ちゃんの勝ちだろう。
遊んでいた姉ちゃんが俺に気づいてご飯の時間を思い出し、少し本気をだすと簡単に勝負がついた。
4人組はいま倒れ伏している。
殺さないの?と聞くと『 べつに どうでも いいわ 』といった。
食事に行くことになったが、お姉ちゃんの住処にこの人たちを置いておいたら死んじゃうので、
俺の家に連れて行くことにした。
姉ちゃんはいいの?と聞いてきたけど。なにかだめなの?
彼らを魔法で浮かせて城に向う。ケーちゃんと合流して俺の家に向った。
しきりに浮かせた彼らを気にしていたけどなんで?
家についてから料理の準備をすませ、皆席についている。
彼らは気絶したままだったので食卓の横にタオルを引いて寝かせた。
ケーちゃんと姉ちゃんがちらちらとそれを見ている。
ケーちゃんが口を開いた。
『なぁセルちゃん。あれって勇者達だよな?』
「ん?姉ちゃんに負けたやつらだよ。勇者なの?」
『 かれらは ゆうしゃで まちがいないと おもうわよ 』
『なんで家に連れてきたんだ?』
「え?雪山にほっといたら死んじゃうでしょ」
そう答えてもケーちゃんは納得していないみたいだ。
「まぁまぁ食べようよ。さぁ少し肉を増やしてみたんだけどどうだろう」
『おぉ、相変わらず美味しそうだ。セルちゃんいい嫁さんになるぞ』
「ケーちゃん俺をもらってくれるのかい?」
『いや、俺はフューリア一筋だ』
「だってさ姉ちゃん」
『 うれしい けど いまは おなべ たべたいわ 』
「だってさケーちゃん。鍋に負けちゃったね」
落ち込んでるケーちゃんを放っておいて、鍋から器に移して姉ちゃんに渡す。
渡した瞬間姉ちゃんの目が輝いた。
せーれいは食べる必要はないらしいんだけど、姉ちゃんは俺の料理を喜んで食べてくれる。
娯楽のようなものらしい。
自分のをよそった後にちゃんとケーちゃんの分もよそってあげる。
「さぁ食べよう!いただきます」
『 いただきます 』
『俺もいただくわ・・・いただきます』
一口食べる。うん、ぴりっとしてておいしい。
姉ちゃんを見てみると、一口食べてみて満足したらしく、かっこみだした。
姉ちゃんは汗をかきまくっている。いや、汗ではない。体が溶けているのだ。
ケーちゃんも食べ初めておいしいといってくれている。
が、姉さんをみて驚いている。
『フューリア!何の対策もしてこなかったのか!
前のときは最後に倒れてセルちゃんに介抱してもらってたろ!』
『 だいじょうぶよ こんかいは ひょーしょーきゅーを もって きたから 』
どこに隠し持っていたのか、姉ちゃんの手には蒼い球が握られている。
「あれ、それって氷晶球って言うんだ? 武器作り以外にも使えるの?」
答えるように姉さんが食べながらうなずき、手の中の氷晶球を輝かせる。
どうやら氷晶球の力を引き出しているらしい。なるほど、そんな使い方があるのか。
姉さんの汗のようなものが消えていく。お、今回は本当に大丈夫らしい。
『 ほら ね ? 』
『おお、これで一安心だな。な、セルちゃん』
「そうだね、ケーちゃん。」
言いながら皆、食べるのをやめない。
この鍋うまいわ、食うのをとめらんねぇ。
用意していた飲み水がどんどん減っていく。
みんなごくごく飲んでいるからなぁ。辛うまー。
黙々と食していると匂いにつられて気絶していた彼らが目を覚ましたようだ。
目をぱしぱしさせている。そっちを振り向いて話しかける。
「君らも食べる?」
ケーちゃんはチラッと彼らを見ていたが、それだけだった。
姉ちゃんは見向きすらしない。細い体のどこにはいるのか、どんどんかっこんでいっている。
具材を足しつつ、状況把握をしようとしている彼らを眺めた。